「麒麟がくる」全話レビュー31

【麒麟がくる】第31話。信長は人気者。サブタイトルに「信長」が入る回は視聴率もいい

新型コロナウイルスによる放送一時休止から3カ月弱、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」が帰ってきました。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる壮大なドラマもいよいよ後半戦、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。信長(染谷将太)が朝倉討伐に動いた31話。やっぱり信長は人気者だった!

家康(風間俊介)久々に登場

大河ドラマ「麒麟がくる」(NHK総合日曜夜8時〜)31回「逃げよ信長」(脚本:河本瑞貴 演出:一色隆司)は帝(坂東玉三郎)から勅命をもらった信長(染谷将太)が朝倉討伐に動く。
コロナ禍による休止を経てドラマ再開後、視聴率が芳しくなかったが、今回はぐっと上がった。サブタイトルに「信長」が入る回は視聴率もいい。やっぱり信長は人気者。家康(風間俊介)も久々に登場し、役者は揃ったというわくわく感があった。家康、秀吉(藤吉郎)、信長のオールスター戦。

ストーリーもメリハリがあって見やすかった。今回の脚本家・河本瑞貴は、メイン脚本家の池端俊策と、2019年、劇団民藝作品「正造の石」で共同脚本を書いた仲。池端イズムに寄り添いつつ、大衆の心をぐっと掴むリズムを知っている。光秀(長谷川博己)の渾身の土下座、信長の度が過ぎるほどの忍耐、藤吉郎(佐々木蔵之介)の身の上話など見せるところはたっぷり見せた。

光秀、藤吉郎、家康、柴田勝家(安藤政信)に松永久秀(吉田鋼太郎)も参加した信長の軍勢は、たった2日で敦賀を手にいれて盛り上がる。

次は、浅井長政(金井浩人)に背後を守らせ、一気に朝倉義景(ユースケ・サンタマリア)を討つ。その作戦前夜、家康と光秀は、ひさかたぶりに会話する。

家康は子どものとき(竹千代時代)、光秀に干し柿をもらったことをちゃんと覚えていた。
「あのとき教わりました、待つとはどういうことか。耐え忍ぶとはどういうことか」と家康は言い、「争いごとのない戦のない世をつくるそのために戦うのだと」と達観していた。
「わかります」と同意する光秀がすっかり家康を信奉したような表情になっている。またしても、この人についていこう、と思ってしまったように見えるのは気のせいか。
これまでの光秀は、道三、義輝、信長、義昭……と自分の理想に近い人に会うとたちまち崇拝してしまうところがあるように見える。こういう人は意外と勧誘されやすいタイプではないだろうか。彼の信念に沿ったことを言われると従ってしまうような……。それがいいことか悪いことかは判断保留にしておく。

「飛ばぬ虫にはなりたくない」

浅井は信長の妹・市を妻にしたとはいえ、朝倉とはいぜんから懇意にしていたので、ゆくゆく浅井も攻撃されるのではないかと疑っている。信長はかつて実弟を都合で殺した人物だからと。もしその予感が正しいとして、信長のこの容赦のなさは、「麒麟がくる」の世界では、帰蝶(川口春奈)仕込みともいえそうだ。そもそも物語の最初に帰蝶の夫を道三が毒殺したところからはじまっている。
家の絆など関係ない無慈悲な時代。
浅井が信長を襲撃してきたことを察知した光秀は、信長に逃げろと提言する。

「(天下静謐まで)織田信長は死んではならんのです」と額を床にすりつけるほどにひれ伏して頼む光秀。
その勢いに免じて、ひとり考える信長は、う〜う〜う〜 と獣のようにうなり続ける。やがて「わしは逃げる」と心を決める。

残った武士たちは信長を逃がすために戦う。その殿(しんがり)を務めたいと藤吉郎が光秀に頼む。貧しさゆえ妹を亡くしてしまった話をし、虫(羽アリ?)をつかみ、羽の使いみちを知らないこの虫はわしじゃと言いながらも「飛ばぬ虫にはなりたくない」と激白する。

藤吉郎は命と引き換えの大任をみごとに果たす。ところがそれを認めてもらえない。嘆く藤吉郎をかばって光秀は、柴田勝家たちに「誰のおかげでその酒が飲めるのか」と怒鳴りつける。

物静かだった光秀が激しい人に変化してきている。それは、戦の最中、「戦のない世を作るためにいまは戦をせねばならぬときなのだと」と決意を左馬之助(間宮祥太朗)に語りかけるところでわかる。
「なんとしでも生きて帰るぞ」と戦いに生き残った光秀は、信長にも言う。
「生きておいでなら次がある」

戦っている間に、麒麟の声を聞いたという光秀。
どんな声だった? と問う信長に、「信長には次がある」と答える。
「そうか声を聞いたか」とじつにうれしそうな信長。

「信長は生きて帰った 次がある」と光秀の言葉はまるで暗示をかけるように響く。
激しく土下座して止めたり、麒麟の声を聞いたと夢物語のようなことを言ったり、自由自在に信長の心を操る。今、世の中を平和に導くためには、信長が必要なのでなんとしてでも彼に賭けなくてはならない必死さが伝わってくる。

光秀の戦国サヴァイバル計画

信長は褒められたり持ち上げられたりすると喜ぶ性質であると同時に、父から聞いたお天道様が一番えらいという話を好んでいるので、麒麟が信長について語っていたと言えばやる気になると踏んだのだろう。この方法は帰蝶も以前、行っている。12話で、父・信秀(高橋克典)が死んだとき、遺言を聞いたと言う場面だ。

“〜信秀の「信長をよろしく頼む」しかセリフは聞き取れない。が、帰蝶は信長にかなり長めの言葉を伝える。そのとき、筆者はこう解釈した。
「信長はわしの若い頃に瓜二つじゃ。まるで己を見ているようじゃと。よいところも悪いところも。それゆえかわいいと。そう伝えよと」
「尾張をまかせる 強くなれと」
信長にとって気分が晴れやかになる言葉、これはどこまで本当なのか、最後の「尾張をまかせる 強くなれと」が帰蝶の嘘なのかなと想像する。「信長はわしの若い頃に瓜二つじゃ。まるで己を見ているようじゃと。よいところも悪いところも。それゆえかわいいと。そう伝えよと」と言っても信長がまだいじけているので、盛ってみたんじゃないかと。舅に「よろしく頼む」と言われたからという大義名分で。“

今回の光秀もおそらく同じ。麒麟の声など聞くわけはない。平和のためなら、そんな嘘だって平気でつく光秀の戦国サヴァイバル計画がはじまった。
平和のために戦うという話の流れはよくあるけれど、あくまで裏方としてキーマンたちに根回していくフィクサーとして生きる意味を見つけた光秀の胸の高鳴りが聞こえるような気がした。

〜登場人物〜
明智光秀(長谷川博己)…越前で牢人の身。

【将軍家】
足利義輝(向井理)…室町幕府13代将軍。三好一派に暗殺される。
足利義昭(滝藤賢一)…義輝の弟。僧になって庶民に施しをしているが、兄の死により政治の世界に担ぎ出される。

細川藤孝(眞島秀和)…室町幕府幕臣。義輝が心配。光秀の娘・たまになつかれる。
三淵藤英(谷原章介)…室町幕府幕臣。藤孝の兄。

【朝廷】
関白・近衛前久(本郷奏多)…帝を頂点とした朝廷のひと。

【大名たち】
三好長慶(山路和弘)…京都を牛耳っていたが病死。
松永久秀(吉田鋼太郎)…大和を支配する戦国大名。
朝倉義景(ユースケ・サンタマリア)…越前の大名。光秀を越前に迎え入れる。
織田信長(染谷将太)…尾張の大名。次世代のエース。
木下藤吉郎(佐々木蔵之介)…織田に仕えている。

【商人】
今井宗久(陣内孝則)…堺の豪商。

【庶民たち】
伊呂波太夫(尾野真千子)…近衛家で育てられたが、いまは家を出て旅芸人をしている。
駒(門脇麦)…光秀の父に火事から救われ、その後、伊呂波に世話になり、今は東庵の助手。よく効く丸薬を作っている。
東庵(堺正章)…医師。敵味方関係なく、戦国大名から庶民まで誰でも治療する。

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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