「愛の不時着」6話。セリ「私を運命の人だと思いたいの?」ジョンヒョク「僕の見える所にいてくれ」

日本で「第4次韓ドラブーム」が巻き起こした、Netflixで配信中の韓国ドラマ「愛の不時着」を全話レビュー。軍事境界線を守る朝鮮人民軍のエリート大尉と韓国の財閥令嬢の極秘の恋を軸に物語が進みます。沼にハマッた人も多いこのドラマが「新語・流行語大賞2020」にノミネート!二人にいよいよ別れのときがやってきた6話を振り返ります!

大切な人にコーヒーを入れたくなるドラマ

予想通り「新語・流行語大賞2020」にノミネートされた韓国ドラマ「愛の不時着」。11月11日には特別映像としてリ・ジョンヒョク役のヒョンビンとユン・セリ役のソン・イェジンの特別映像がNetflixによって公開された。

「とてもうれしいです」とにこやかに拍手して、「(作品を見ると)大切な人にコーヒーを入れてあげたくなりますよ」と語るヒョンビンの姿を見て、「愛の不時着」をもう一周したくなった人も多いのでは。そんな沼行のおともにしてほしい本連載、今回は第6話。

第6話は、平壌で出国の準備を整えるリ・ジョンヒョクとユン・セリの前に、詐欺師のク・スンジュン(キム・ジョンヒョン)が現れるところからスタートする。これまで、サイドストーリーとして描かれてきたク・スンジュンがいよいよガッツリと本編に絡んできた。

セリとの再会を喜ぶク・スンジュン。まんざらではなさそうなセリは、ジョンヒョクをボディーガード扱いして困惑させる。ジョンヒョクは自分がしていることは「管理監督」だと言い張るが、ホテルの中でもさりげなくセリを守り続ける。「これが“護衛”なの」と嬉しそうなセリ。そりゃ、こんな風に守ってもらったら誰だって嬉しいだろう。人は誰かに大切にしてもらえていると実感するほど嬉しいことはないのだから。

セリは財閥の裕福な家庭で育ったが、「家族愛なんてない」と言い切る。彼女をライバル視する兄たちはセリとク・スンジュンを結婚させて海外に追い払おうとしたのだ。しかし、セリはク・スンジュンを振って自分の会社を成功させた。これが彼女のチョイス。だけど、彼女は誰からも大切にされてこなかった。

兄たちは自分が死んだと思って喜んでいるはずというセリに対して、ジョンヒョクは同情するのではなく、真っ向から否定する。きっと彼は家族に大切にされて育ってきたのだろう。人に大切にされてきた人は、また誰かを大切にできる。セリはジョンヒョクに大切にされて新しい自分に気づき、ジョンヒョクはセリを大切にしながら新しい自分に気づく。世界は優しさの連鎖でできている。

スリルに生きる男、ク・スンジュン

それにしても、ク・スンジュンのタフさ、したたかさ、くじけなさはどうだろう。誰も頼ることのできない究極の異国の地で、頼りにしていたチョン社長(ホン・ウジン)に裏切られても、絶望するどころかイキイキとしはじめる。彼は退屈よりスリルのほうが好きなのだろう。ソウルでスカしていた彼よりも、平壌で追われている彼のほうが明らかに魅力的だ。

セリまでも北朝鮮で再会したク・スンジュンに「運命を感じる」と言い出すが、ジョンヒョクは猛然と反発する。見たことのないテンションで「空から落ちてきた女性と自宅で再会した場合は?」と怒るジョンヒョクに、セリは「それは偶然」と火に油を注ぐ。偶然と運命は似ているようでまったく違うもの。2人はスイスで出会っているのだから、明らかに運命の再会なのだが、まだそのことに気づいていない。

なおも怒るジョンヒョクに、セリは「私を運命の人だと思いたいの?」と微笑む。にこやかにマウントを取るのがセリの得意技だ。これは後々、舎宅村の人民班長、ウォルスク(キム・ソニョン)に見抜かれていたことがわかる。セリとウォルスクさんは似たもの同士なのかもしれない。

ク・スンジュンの活躍は続く。セリの兄、セヒョン(パク・ヒョンス)にセリが生きていることを伝えて交渉の条件にすると、ジョンヒョクに会いにきたソ・ダン(ソ・ジへ)にまでアプローチ。いつの間にか裏切られたはずのチョン社長らを率いて歩いている(ように見える)のだからただ者ではない。セリとク・スンジュンが連れ立って歩く姿は、謹厳実直な男、ジョンヒョクの心さえかき乱す。

2人を見失うジョンヒョク。不安な気持ちのまま、好きな人の姿を探したりした経験は誰しもあると思うが、彼にとっては初めてのことだったかもしれない。ようやく見つけたセリとク・スンジュンが歩くのを離れた場所から見守って歩くジョンヒョクの目が潤んでいるように見える。両者を分かつ大きな通りが、まるで国境のよう。

ようやくセリと再会できたジョンヒョクはプリプリしたまま。

「私の姿が見えないから怒ってたの?」
「僕の見える所にいてくれ」
「いたら何だっていうのよ」
「安全だ。見えてる間は」

どんな危険からも君を守ってみせる、と言っているに等しい。守るために束縛するのではなく、「見える所にいてくれ」というのもポイント。

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初雪のジンクス

平壌の夜、チキンとビールを楽しむセリとジョンヒョク。停電で置かれたキャンドルは、どうしたって市場の出来事を思い起こさせる。そして窓の外には初雪。セリは嬉しそうに言う。

「初雪を一緒に見ると恋が芽生えるの」

これは大ヒットドラマ「冬のソナタ」でも印象的に使われていた韓国の言い伝え。ドラマ「トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜」でも初雪にまつわるエピソードがたくさん出てくる。

ビールの酔いが回ったセリは、ジョンヒョクの肩に頭を預ける。ここからの会話もいい。

「少しだけ我慢して。私の頭が重いのは、頭の中が混乱してるからなの」
「帰れるのになぜ混乱する。喜べばいいのに」
「幸せなの。幸せだから混乱してるの。だからなの」

「何も知らないくせに」と呟くセリ。「何も」というのは自分の過去のこと。初雪を喜ぶソウルの名も知らぬ恋人たちと家族たちの様子が映し出される。地位と名声を勝ち得たセリだが、家族の愛も本当の恋人も彼女は得たことがない。だから、ジョンヒョクと一緒に初雪を見ている今が「幸せ」なのだ。

激突! 武装トラックVSジョンヒョク

親と兄弟からの愛を知らない人物がもう一人いる。保衛部のチョ・チョルガン(オ・マンソク)。様々な汚れ仕事を一手に引き受け、上層部の裏金を作っている男。彼は親も兄弟もいない路上生活者だった。親代わりというキム大佐(キム・ヨンピル)には「忠誠を尽くします。家族は、何があろうと共に生きるものなので」と言う。この「共に生きる」とは「一蓮托生」という意味でしかない。

ク・スンジュンを通して、チョ・チョルガンにセリの正体が露見する。兄のセヒョンは、ク・スンジュンにセリを北朝鮮に永住させろと命令を下す。だまし取った金を返さなくてもいいし、安全も約束される。チョ・チョルガンにとっては、カネが得られ、不審者を摘発し、ジョンヒョクを追い落とすことができる。三者の利害が一致し、チョ・チョルガンが動き出す。

そんなことは知るよしもないセリは、最後の休日に第5中隊(彼らが出てこないと寂しい!)を誘ってピクニックに出かける。バーベキューにする予定だった子豚を殺すことに反対するセリの言うことを聞き、夢中で魚を獲る第5中隊の面々。彼らはどこまでも紳士で、どこまでも朗らかだ。いつも憎まれ口を叩くピョ・チス(ヤン・ギョンウォン)はセリに捧げる“別れの詩”を朗読するのだが、これがまたグッとくる内容なんだな。なお、ヤン・ギョンウォンは9月末に行われたソン・イェジンの日本向けオンライン・ファンミーティングにゲスト出演して「愛の不時着」ファンを喜ばせた。

お返しにセリが歌ったのは、キム・ジヨンの1990年のヒット曲「冷たい風が吹いたら」。遅れて現れたジョンヒョクの姿と、「冷たい風が吹いたら あなたは寂しくなることでしょう だけどもう二度と 私のことを思い出さないでください」という歌詞が被る。

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そして、いよいよ別れのとき。感情を押し殺して握手を求めるジョンヒョクに「抱き締めてよ」と言うもかなわないまま、セリは出発する。

セリを乗せた車を運転するのは、第5中隊のグァンボム(イ・シンヨン)。しかし、2人の乗った車に武装トラック部隊が迫ってきた!

そこへ大型バイクに乗った何者かが現れた。サブマシンガンで武装トラックを阻止する大型バイク! だ、誰だ!(我ながら白々しい) 武装トラックの攻撃に転倒してしまう大型バイク。武装トラックはセリの車に迫る! もはやこれまでか? いや、大型バイクが再び現れて、武装トラックに正面から立ち向かう! バイクに乗っているのは……ジョンヒョク!(このスローモーションがたまらない) バイクを乗り捨てて爆破炎上させ、見事に武装トラックを撃破してみせた。

セリの無事を確かめたジョンヒョクだが、彼女をかばうように武装トラックの乗員の銃弾に倒れてしまう。さ、最終回……? セリもこんな風に抱き締められたくはなかったはず。ジョンヒョクは相手を倒すが、セリに抱かれたまま気を失ってしまう。

実はみんながピクニックに興じている間、ジョンヒョクは入念に二重警護の準備をしていた。彼は言う。

「約束したんだ。見えてる間は、守ってやると」

ジョンヒョクのカッコ良すぎるセリフの余韻を残しつつ、さらにハードなエピソードになる予感がする第7話へと続く。デデン!

■「愛の不時着」全話レビュー
1:「愛の不時着」一度ハマったら抜け出せない底なしの沼。全話徹底レビュースタート
2:「愛の不時着」2話。ユン・セリの胆力「あんたなんか怖くないわ。掘った穴に自分で入れば?」
3:「愛の不時着」3話。「月の光」はリ・ジョンヒョクによく似合う
4:「愛の不時着」4話。セリのために掲げたアロマキャンドル、ジョンヒョクは2020年型の王子様
5:「愛の不時着」5話。セリ「あなたには幸せでいてほしい。どんな電車に乗っても、必ず目的地に着いてほしい」
6:「愛の不時着」6話。セリ「私を運命の人だと思いたいの?」ジョンヒョク「僕の見える所にいてくれ」
7:「愛の不時着」7話。ジョンヒョクとセリ“守る者”と“守られる者”が鮮やかに反転
8:「愛の不時着」8話。ジョンヒョク「ケガはない?」自分がケガしてるのに!いつも愛する人ファースト
9:「愛の不時着」9話。ジョンヒョクがギュッと凝縮された数分間に陶然
10:「愛の不時着」10話「あの出来事を最初からもう一度繰り返してもかまわないと思えたら、それが愛だろうか」
11:「愛の不時着」11話。もっと深く「不時着沼」にひたるためのキーワード「デカルコマニー」と「ラーメン駆け引き」
12:「愛の不時着」12話。ジョンヒョク「生まれてきてくれてありがとう。愛する人がこの世にいてくれてうれしい」
13:「愛の不時着」13話。セリ「自分は自分で守る。私を信じて」いよいよラストスパート
14:「愛の不時着」14話「不時着」ってそういう意味だったの!?「北朝鮮への不時着」だけではなかった
15:「愛の不時着」15話「その選択をして、私は幸せだったわ。リさん」セリズ・チョイスからまっすぐに次回最終回
16:最終話「愛の不時着」ジョンヒョク「会いたいと心から願えば、会いたい人に会えるかと聞いたろ? きっと会える」

 

『愛の不時着』
出演:ヒョンビン、ソン・イェジン、ソ・ジヘ
原作・制作:イ・ジョンヒョ、パク・ジウン

ライター。「エキレビ!」などでドラマ評を執筆。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
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