「愛の不時着」8話。ジョンヒョク「ケガはない?」自分がケガしてるのに!いつも愛する人ファースト

日本で「第4次韓ドラブーム」が巻き起こした、Netflixで配信中の韓国ドラマ「愛の不時着」を全話レビュー。軍事境界線を守る朝鮮人民軍のエリート大尉と韓国の財閥令嬢の極秘の恋を軸に物語が進みます。沼にハマッた人も多いこのドラマが「新語・流行語大賞2020」にトップ10に選出!再び秘密招待所を目指すジョンヒョク。傷だらけでやってきた現代の王子様にセリが伝えた言葉とは。

祝! 新語・流行語大賞2020トップテン入り! なんてことを言わなくても、今年を代表するエンタテイメント作品として多くの人の心に刻まれた「愛の不時着」を味わい尽くす本連載。

今週は第8話。クリスマスの日に、ヘヴィでシリアスだけど、ロマンティックなストーリーが展開する。本国ではこの回でそれまで一桁だった視聴率が二桁にジャンプアップし、ここからうなぎのぼりになっていった。

ジョンヒョクとダン、それぞれの決意

冒頭、ユン・セリ(ソン・イェジン)の正体を突き止めたソ・ダン(ソ・ジへ)に、自分の命や人生を投げうってでもセリを助けるつもりなのかと詰められるリ・ジョンヒョク(ヒョンビン)。しかし、彼の回答はきっぱりしていた。

「選択肢はない」
「どういう意味?」
「僕は愛する人を亡くした苦しみを知ってる」
「それで?」
「死ぬほうがマシだ」
「それで?」

亡くした「愛する人」とは謎の事故死を遂げた兄のリ・ムヒョク(ハ・ソクジン)のこと。2人の話が噛み合わないのは、ジョンヒョクにとってセリも「愛する人」だということがソ・ダンにはわかっていない、あるいは薄々わかっていても承服できないから。

「命を懸けてでも彼女を守ると? 私も同じです。私も、全てを懸けて婚約者を守ります。死なせたくない」

大きく目を見開き、決然と語るソ・ダン。やがて彼女も大胆な行動をとることになる。愛する主人公2人を引き裂こうとする彼女をわかりやすい悪役にしないのは、「愛の不時着」という作品の持つ優しさであり、大きな魅力だと思う。

一方、セリはク・スンジュン(キム・ジョンヒョン)の秘密招待所に匿われていた。ク・スンジュンは詐欺師の本領を発揮して、言葉巧みにセリがジョンヒョクと別れるよう仕向けていく。ク・スンジュンの言葉が、セリを探して山中を車でさまようジョンヒョクの姿と重なる。

「君のせいで彼の人生もこじれ始めたはずだ。人生の軌道を外れ、未知の道を進んでいる」

真っ暗な断崖に立つジョンヒョク。重く、象徴的で、ヒロイックなアヴァンタイトルだった。

雪の中の別れ、雪の中の再会

どんなときでも空気を軽くしてくれるのが第5中隊の面々だ。病院に戻ったジョンヒョクを囲んで騒いでいると、BTSファンの少女が隣室からやってくる。セリの「推し」がジョンヒョクだと明かされると、さっきまでプリプリしていたのに、笑みがこぼれて仕方がなくなる。自然な演技に観ているこちらまでつい笑顔になってしまうが、このシーンは撮影時、本当にヒョンビンが吹き出してしまい、スタッフもつられて笑ってしまったという。

ジョンヒョクは再び秘密招待所を目指す。夜の森を一人で進むジョンヒョクの姿は、まさに囚われの姫を探し求める王子様のよう。

一方、ク・スンジュンの策は、セリと入籍して自分の妻として韓国へ連れ帰るというものだった。しかし、ブイヤベースとソーヴィニヨン・ブランでもてなしても、貝プルコギと焼酎を思い出してしまうセリ。「俺と結婚しよう」と高価な結婚指輪を指にはめられても、実はセリの心はまったく揺れておらず、明らかにドン引きの表情をしているところが後半の伏線となっている。

ついに秘密招待所に潜入するジョンヒョク。まるでスパイ・アクション映画だ。警護の人間をバッタバッタとなぎ倒していく姿は、舞い散る雪のせいか、とても優雅に見える。ケガだらけの顔でセリの前に現れての第一声が、「ケガはない?」。自分のことより、いつも愛する人ファースト。これぞ、現代の王子様。

「全ての人に迷惑がかかる」とク・スンジュンに繰り返し言われていたセリは、傷だらけでやってきたジョンヒョクに別れの言葉を告げる。

「本心?」
「本心よ」

涙があふれているのだから、本心じゃないのに決まっている。でも、ジョンヒョクはそれをいちいち指摘したりしない。彼は全部受け止める。

「分かった。分かったから、泣かないで」

指でセリの涙を拭い、その場を立ち去るジョンヒョク。キム・ジェファンのバラード「ある日には(Someday)」が流れる中、号泣するセリ。顔が腫れるまで泣き続けるソン・イェジンの女優魂が爆発している。泣いて、泣いて、「心配でたまらない」「どうしよう」と言いながら、おもむろに車を発進させる。そんなバカな! でも、そうでなくっちゃ! 

やがて雪の中で、車で追ってきたセリを抱き締めて、ジョンヒョクは本当に愛おしそうに頬を寄せる。ここで流れているのはペク・イェリンの「Here I Am Again」。「あなたを二度と離したりしない まだあなたが私を追い出そうとしても もし私の目の前から消えても」と歌い上げる、「愛の不時着」挿入歌の中でも代表的な一曲。

セリが消えて、頭をかかえるばかりのク・スンジュン。ド派手な彼のお召し物は、韓国のブランド「コモド」のLOVEカシミアマフラーカーディガン。よく見ると本当に「LOVE」と書いてある。ク・スンジュンのセリへの気持ちを表した服なのだろう。

ジョンヒョク、やっぱり王子様すぎる/Netflixオリジナルシリーズ「愛の不時着」独占配信中

ジョンヒョクの涙

今回も保衛部のチョ・チョルガン(オ・マンソク)は陰謀をめぐらせていた。ついに権力の中枢に近い軍事局長(チャン・ナムブ)にまで接触する。チョ・チョルガンの仕事熱心さにはだんだん感心させられることが多くなってきた。

そして、チョ・チョルガンは軍隊を引き連れて秘密招待所に乗り込んでくる。ク・スンジュンを問答無用で殴り、銃をつきつけてこう言う。

「俺が欲しいのはカネなんかじゃない。欲しいものを買ってるだけだ。例えば、殺したいと思うヤツをいつどこでも消せる力をな」

悪事を働いてカネを稼ぎ、そのカネを上官に賄賂として送り、権力を得てきたチョ・チョルガン。ムヒョクを殺害し、兄の死に疑念を持ちはじめていたジョンヒョクを総政治局長の父親(チョン・グックァン)ごと失脚させようとつけ狙う男。「愛の不時着」のダークサイドは彼が一手に引き受けている。

翌朝、熱を出したジョンヒョクが寝ている間に、舎宅村へ帰ったセリが結婚指輪を何の迷いもなく質に入れて(本当に迷いがなかった!)彼女のもとへムヒョクのものと思われる腕時計が渡り、ソウルでは保険会社のパク・スチャン(イム・チョルス)とセリの部下のホン・チャンシク(ゴ・ギュピル)コンビの奮闘でセリの父親(ナム・ギョンウプ)が真実を知ろうとしていた。そして、セリはお手製のクリスマスツリーを残して、謎の男たちにさらわれてしまう……!

トラックの荷台で銃をつきつけられ、セリはジョンヒョクに別れの電話を入れる。でも、彼女にはどうしても伝えたい言葉があった。

「リさん、愛してる」――そして銃声。

ジョンヒョクの頬を涙が伝う。いつも寡黙で理性的な彼が、初めてセリのために、たったひとりで流す涙。カメラは涙の軌跡を丁寧に映し出す。彼のあふれる熱い想いをすくいとるように。流れるのは「凍える冬も暗い夜も 一緒にいれば笑えたんだ」と歌うソン・ガイン「私の心の写真」。

しかし、泣いてばかりはいられない。物語はここからさらにダイナミックに動いていく。メリー・クリスマス。デデン!

■「愛の不時着」全話レビュー
1:「愛の不時着」一度ハマったら抜け出せない底なしの沼。全話徹底レビュースタート
2:「愛の不時着」2話。ユン・セリの胆力「あんたなんか怖くないわ。掘った穴に自分で入れば?」
3:「愛の不時着」3話。「月の光」はリ・ジョンヒョクによく似合う
4:「愛の不時着」4話。セリのために掲げたアロマキャンドル、ジョンヒョクは2020年型の王子様
5:「愛の不時着」5話。セリ「あなたには幸せでいてほしい。どんな電車に乗っても、必ず目的地に着いてほしい」
6:「愛の不時着」6話。セリ「私を運命の人だと思いたいの?」ジョンヒョク「僕の見える所にいてくれ」
7:「愛の不時着」7話。ジョンヒョクとセリ“守る者”と“守られる者”が鮮やかに反転
8:「愛の不時着」8話。ジョンヒョク「ケガはない?」自分がケガしてるのに!いつも愛する人ファースト
9:「愛の不時着」9話。ジョンヒョクがギュッと凝縮された数分間に陶然
10:「愛の不時着」10話「あの出来事を最初からもう一度繰り返してもかまわないと思えたら、それが愛だろうか」
11:「愛の不時着」11話。もっと深く「不時着沼」にひたるためのキーワード「デカルコマニー」と「ラーメン駆け引き」
12:「愛の不時着」12話。ジョンヒョク「生まれてきてくれてありがとう。愛する人がこの世にいてくれてうれしい」
13:「愛の不時着」13話。セリ「自分は自分で守る。私を信じて」いよいよラストスパート
14:「愛の不時着」14話「不時着」ってそういう意味だったの!?「北朝鮮への不時着」だけではなかった
15:「愛の不時着」15話「その選択をして、私は幸せだったわ。リさん」セリズ・チョイスからまっすぐに次回最終回
16:最終話「愛の不時着」ジョンヒョク「会いたいと心から願えば、会いたい人に会えるかと聞いたろ? きっと会える」

 

『愛の不時着』
出演:ヒョンビン、ソン・イェジン、ソ・ジヘ
原作・制作:イ・ジョンヒョ、パク・ジウン

ライター。「エキレビ!」などでドラマ評を執筆。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
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