「愛の不時着」7話。ジョンヒョクとセリ“守る者”と“守られる者”が鮮やかに反転

日本で「第4次韓ドラブーム」が巻き起こした、Netflixで配信中の韓国ドラマ「愛の不時着」を全話レビュー。軍事境界線を守る朝鮮人民軍のエリート大尉と韓国の財閥令嬢の極秘の恋を軸に物語が進みます。沼にハマッた人も多いこのドラマが「新語・流行語大賞2020」にノミネート!嵐の前の静けさのロマンティックさとジョンヒョクの命を守るため“守る者”となったセリが描かれた7話を振り返ります。

「私が大好きな映画はね」
「えっ?」
「『マッドマックス 怒りのデス・ロード』」
「えっ?」

『愛の不時着』第7話は、アクション映画さながらに始まる。ユン・セリ(ソン・イェジン)を守るため、リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)が撃たれてしまった! ケガを負った第5中隊のグァンボム(イ・シンヨン)の代わりにハンドルを握るセリ。

まっすぐ行けば空港へ、右へ曲がれば病院へ。セリの選択(セリズ・チョイス)は――右だった。すべてはジョンヒョクの命を守るため。しかし、あえなく道は工事中で行き止まり。心配するグァンボムにセリが放ったのが冒頭のセリフだ。どんな荒れ地でも走り抜いてみせるという意気込みが熱い。そういえば、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は強い女たちの物語だった。“守る者”と“守られる者”が鮮やかに反転していく。

「私も一度くらい、あなたを守ってあげたかった」

セリの輸血によって手術は成功。全身麻酔で眠るジョンヒョクは、いまやセリにとってかけがえのない存在になっていた。

「向かい合って、話を聞いてくれて、笑ってくれて、一緒に食事して、私との約束を契約書もないのに果たしてくれたし、私を守ってくれた。あなたは、全てやってくれたわね。私には、あなたがいてくれた」

これまで何度も繰り返し触れてきたが、“2020年型の理想の王子様”である条件がこのセリの言葉に凝縮されている。女性と向き合い、話を聞き、一緒に笑い、食事をして、約束を守り、女性を守る。後半でのク・スンジュン(キム・ジョンヒョン)のセリを守るように見せかけて、実は思い通りにコントロールしようとする言動と比べると、ジョンヒョクの王子様ぶりが際立つ。

眠っているジョンヒョクは、スイスの夢を見ていた。ピアノコンクール、兄の死、湖畔のピアノ。幼女の頼みで弾いた曲は「兄のための歌」。ターコイズブルーの湖は、スイスの観光地イゼルトヴァルトにあるブリエンツ湖。

麻酔から目覚めたジョンヒョクはセリに厳しい言葉を投げつけるが、医者と看護師からセリの献身的な行動と深い情愛を聞き、セリの後を追う。「なぜ残った」と問われたセリの答えはこうだ。

「私だって帰りたかったわ。でも帰れなかったの。私も一度くらい、あなたを守ってあげたかった」

やがて2人は初めて唇を重ねる。セリとジョンヒョクがそれぞれの心に育っていた「愛」をはっきりと認識したのだ。今の時代の男女は、どちらか一方が守り続け、どちらか一方が守られ続けるなんてことはなく、お互いに守り合わなければいけないのだとあらためて思う。

“2020年型の理想の王子様”リ・ジョンヒョク/Netflixオリジナルシリーズ『愛の不時着』独占配信中

男女4人北朝鮮物語

保衛部のチョ・チョルガン(オ・マンソク)は今回も蛇のようにしつこく、第5中隊の愛すべき連中は今回もとても優しく、舎宅村の婦人たちは今回もおかしかった。ソ・ダン(ソ・ジへ)の母親ミョンウン(チャン・ヘジン)まで絡むのだから、おかしさは倍増。

一方、ジョンヒョクとセリは、これまで心の奥に押しとどめていた気持ちが言葉としてあふれ出るようになる。ジョンヒョクはチョ・チョルガンに「スパイではなく、僕の女を守るために、故意に事故を起こす者を撃っただけです」とキッパリ。一方、セリは病院で知り合った“平壌最強のアーミー(BTSのファンのこと)”の少女に推しを聞かれて「リ・ジョンヒョク。魅力がヤバいの。私の一番の推しよ」と答えたりする。

しかし、2人の気持ちが高まることで、男女4人の混線具合が本格化していく。ジョンヒョクにセリへの好意を告げられたダンは、これまで以上に対抗心を燃やすようになる。一方、ク・スンジュンは本格的にセリを手に入れようとして、詐欺師の本領を発揮しはじめる。セリがク・スンジュンの言葉に惑わされるのは、ジョンヒョクを守りたいという気持ちが強くなっているからだ。

今回はダンが羽織っているコートの鮮やかなブルーと、ク・スンジュンのオレンジのニットが印象的だが、ブルーとオレンジは補色の関係にある。2つの色は正反対だが、両方が一緒になるとお互いの色を目立たせる。なんだか2人の今後の関係を予言しているようでもある。

ダンは違法ウェディングドレス店に置いてあった韓国の雑誌で偶然、セリの正体を知る。ちなみに店主を演じていたのは80年代から活躍するベテラン女優のナ・ヨンヒ。さすがのシーン・スティーラーぶりだった。ダンはジョンヒョクのもとへ向かい、セリの正体を突きつけるが……。

“必ず生きて”と祈るような曲

エンディングは長めの回想。ソウルでデートを楽しむセリは、交際相手のアイドル(演じているのは『ごめん、愛してる』などで知られるトップ俳優のチョン・ギョンホ)に思い出せないピアノ曲を尋ねる。

セリがこの曲を聴いたのはスイスだった。心を病み、安らかな死を求めてやってきたスイスで、セリは自分の心の声を知る。

「旅行して気づいたの。生きていたくはないけど、死にたくはないって。慰めてもらいたかっただけ。“愛する人たちに愛されないとしても、生きる価値があるし、生きなければいけない”。そう言われたかったの」

家族の愛を知らない韓国の財閥令嬢のみならず、誰かにこう言われたい人は多いんじゃないだろうか。そんなとき、セリはピアノの音色を耳にする。

「“生きていていい。必ず生きて”。そう慰めているようだった」

それがジョンヒョクの「兄のための歌」だった。亡くなった兄に捧げる曲は、安らかで美しく、生きることを願う祈りのように響く。セリの心に届くのは当たり前のことだった。

セリのまわりに雪が舞う。季節は秋っぽいから、たぶん初雪だろう。初雪を一緒に見た相手との恋は成就する。アップライトピアノで隠れていたジョンヒョクが見えそうになり、第7話はロマンティックな雰囲気で終わる。

しかし、第8話はまたまたハードそうだ。セリもジョンヒョクもこれまで通りではいられない。ダンとク・スンジュンを含めた4人の運命の糸はこれからさらにもつれていくだろう。デデン!

■「愛の不時着」全話レビュー

1:「愛の不時着」一度ハマったら抜け出せない底なしの沼。全話徹底レビュースタート

2:「愛の不時着」2話。ユン・セリの胆力「あんたなんか怖くないわ。掘った穴に自分で入れば?」

3:「愛の不時着」3話。「月の光」はリ・ジョンヒョクによく似合う

4:「愛の不時着」4話。セリのために掲げたアロマキャンドル、ジョンヒョクは2020年型の王子様

5:「愛の不時着」5話。セリ「あなたには幸せでいてほしい。どんな電車に乗っても、必ず目的地に着いてほしい」

6:「愛の不時着」6話。セリ「私を運命の人だと思いたいの?」ジョンヒョク「僕の見える所にいてくれ」

 

『愛の不時着』
出演:ヒョンビン、ソン・イェジン、ソ・ジヘ
原作・制作:イ・ジョンヒョ、パク・ジウン

ライター。「エキレビ!」などでドラマ評を執筆。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
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