柴咲コウ「35歳の少女」7話。大人になった望美の「もう誰の幸せも祈らない」宣言

柴咲コウが5年ぶりに民放ドラマ主演で話題の「35歳の少女」。10歳の少女・望美は不慮の事故が原因で長い眠りにつき、25年の歳月を経て、奇跡的に目覚めます。長年眠ったままだった望美は、心は10歳のままなのに、体は35歳……しかも家族はバラバラに。結人(坂口健太郎)と同棲を始めた望美。自分の夢はあきらめて、結人の就職活動を応援しようとしたものの、望美との生活のために理想を捨てて就職を決めてしまったことを知り……。

柴咲コウ主演、遊川和彦脚本のドラマ「35歳の少女」第7話。

「私にはこの人がいる、それだけでいい」

ということで初めてのキスをした時岡望美(柴咲コウ)と広瀬結人(坂口健太郎)。……と思ったら、そのまま結ばれていたことが判明。ちょっと前まで精神年齢が10歳だったのに、オトナ!“身も心も35歳になった望美”とんでもない急成長を遂げているわけだが、それだけに色々とバランスを崩しているようにも見える。

望美、理想を押しつける面倒くさい人に

「もう無理そうだから」ということでアナウンサーの夢をあきらめ、結人の就職活動を全力で応援しようと洋食屋でアルバイトをはじめた望美。しかし、外国人従業員への差別心を丸出しにして土下座を強要する客(「半沢直樹」の演出家・福澤克雄にちょっと似ている)にブチギレ。

「日本人って外国の人を差別したりしないし、誰に対しても思いやりがあるステキな国民じゃなかったの? いつの間に相手の気持ちを考えようとしないで無視とか拒絶とかするようになっちゃったの?」

言ってることは正しいけど、店員としては使いづらい……ということで即クビに。
実家を売ることになり、最後の晩餐(またすき焼き!)をするために集まった家族にも、

「つらい思いしたのは全部私のせいみたいなこと言ってたけどさ、25年時間を無駄にしてきただけじゃない!」

と身も蓋もない説教をぶつ。
生活のため&望美との結婚を考え、「自分の主張はしない」と約束して小学校への就職を決めてきた結人には、

「子どもたちの個性を大切にしたいという結人くんの理想はどうなるの? お願いだから結人くんだけは変わらないでいてよ!」

いや、分かるんだけど……。アンタも仕事クビになってるじゃん? 精神年齢は年相応になったものの、社会適応能力&現実を見る力がまだまだ追いついていない。
理想を語るピュアな主人公というのは遊川ドラマの定番だが、望美は35歳の精神年齢を体に入れたことによって、口ばっかり達者で周りに理想を押しつけまくる面倒くさい人になっている。

第3の崩壊家族登場

「ご両親とケンカしているようなら仲直りして欲しい」という望美の押しつけがましい親切心が発揮され、折り合いの悪い結人の家族も登場した。

父親は官僚で、金はあるけれど方々で愛人を作って浮気三昧。母親はその反動で結人にベッタリと干渉するようになり、夫が脳梗塞で倒れて以降は、それまでの恨みを晴らすように贅沢三昧の生活を送っている。望美の家族、望美の父・進次が再婚した家族に続いて第3のバラバラ家族の登場だ。

崩壊になった家族の再生というのは、「家政婦のミタ」あたりから遊川和彦がメチャクチャ繰り返し描き続けてきたテーマ。
人間の本性が丸出しになったイヤ~な家族模様は見応えがあるのだが、その反面、主人公の目標とする「家族みんな幸せ」という状態にイマイチ魅力を感じられない。
結局、どのドラマでもサザエさん一家のような「みんなニコニコ幸せ家族」的な家族像しか提示できていないのだ。
外国人従業員のエピソードにしても、カスタマーハラスメントやヘイトなど、最近の問題をぶっ込もうとはしているものの、イマイチ踏み込みが足りない。
最近の遊川和彦はネットで叩かれすぎて、とがりまくった主張をすることに腰が引けているのでは……とちょっと心配になってしまうほどだ。

「自分のためだけに生きていく」のか?

今回のラストは「みんなニコニコ幸せ家族」以外の展開があるのでは!? と期待させるものだった。
自分の理想を捨てて就職を決めた結人に幻滅した望美は、同棲生活を解消する。

「これからはひとりで生きていく。もう誰の幸せも祈らない。みんなを笑顔にしようとも思わない。自分のためだけに生きていく」

そうそう、別にみんなを笑顔にする必要はないよ!
第5話で結人は、知識欲が爆発している望美にヘンリック・イプセンの「人形の家」を読むように勧めていた。
夫に依存するような結婚生活を送っていた主人公が、自分は夫に人形のようにかわいがられていただけだと気づき、誰にも頼らずに生きていこうと家を出るというストーリー。
寝たきりの望美を介護していた多恵も、精神年齢10歳として目覚めた望美を支えてきた結人も、人形扱いしていただけなのかも知れない。

精神年齢35歳から、さらに自立した大人の女性にレベルアップした望美。ここから「自分のためだけに生きていく」展開も見てみたいところだが……。

ラスト、「私はひとりだ」と精神年齢10歳の頃のように大泣きしていた。
どうしても本作とのリンクを感じてしまう小説「アルジャーノンに花束を」では、急速に成長した主人公の知性が、あるタイミングから一気に退行していく。
この大泣きが、退行のきっかけとも思えるが……。

予告編では望美と結人の結婚式シーンが流されていたが、そこに乗せられた「私たちはさよならを言うために出会ったの」というセリフが気になるところだ。

■35歳の少女

1:「35歳の少女」1話。ギャン泣き「うわぁ~ん」“頭の中10歳”な柴咲コウの演技にネットざわざわ
2:『35歳の少女』2話。見た目は大人、頭脳は子ども。柴咲コウは、逆「名探偵コナン」
3:柴咲コウ「35歳の少女」3話。鈴木保奈美演じる過干渉母親が「過保護のカホコ」とリンクする
4:「35歳の少女」4話。セーラー服を着た中学生・柴咲コウが反抗期に
5:「35歳の少女」5話。坂口健太郎が女子高生・柴咲コウと同棲開始
6:柴咲コウ「35歳の少女」6話「みんなを幸せにする!」と言いながら家族をブチ壊す望美

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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