「愛の不時着」12話。ジョンヒョク「生まれてきてくれてありがとう。愛する人がこの世にいてくれてうれしい」
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- 前回はこちら:「愛の不時着」11話。もっと深く「不時着沼」にひたるためのキーワード「デカルコマニー」と「ラーメン駆け引き」
善意と優しさが人を助ける物語
最近、また新たに「沼」にハマる人が増えている「愛の不時着」。筆者の知人の有名舞台俳優さん(男性)も最終回までイッキ見してボロ泣きしたとのこと。そんな涙腺破壊力満点の「愛の不時着」を1話ずつ振り返っていくレビュー。今週は第12話。
ユン・セリ(ソン・イェジン)とリ・ジョンヒョク(ヒョンビン)はソウルでつかの間の穏やかな日々を過ごしていた。一方、第5中隊の面々とチョン・マンボク(キム・ヨンミン)は慣れない地でジョンヒョクを探す。第12話は大きな展開こそなかったが、その分、人々の「優しさ」がクローズアップされたエピソードだった。
まずは、セリの保険担当者スチャン(イム・チョルス)への優しさ。誰よりもセリの命を心配し、誰よりも懸命に、執念深く捜索したのがスチャンだった。保険会社を解雇されてしまった彼をセリは3倍の給料で自分の会社へ迎え入れる。何度も言うが、脇役への愛情の深さが「愛の不時着」のいいところ。スチャンだけでなく、見ているこっちまで泣けてくる。
第5中隊のソウルでの珍騒動は文字数の都合で割愛。ドラマへのオマージュをはじめとする小ネタがいっぱいなので、知れば知るほど楽しくなる。やっぱり「愛の不時着」は底なしの沼だ。
北朝鮮でソ・ダン(ソ・ジへ)にかくまわれていたク・スンジュン(キム・ジョンヒョン)だが、停電やら何やらですっかり具合を悪くしてしまう。イラつきながらもおかゆを作りにいくソ・ダンがいじらしい。これも優しさ。
ソ・ダンの塩っぱいおかゆを食べたク・スンジュンは貧しかった子どもの頃を思い出して身の上話をする。彼が詐欺をするようになったのは、自分の家を破滅させたセリの実家への復讐のためだった。その後、ソ・ダンは酔い潰れて眠ってしまうが、目が覚めたク・スンジュンは彼女に手を出すどころか、ふとんをかけ直してやり、まぶしそうにしていると手で陽の光をさえぎってやる。優しい。
式典に出席するために、正装をするジョンヒョク。彼が身につけている腕時計にセリが気づく。この腕時計は彼女がジョンヒョクにプレゼントしようとして、北朝鮮の質屋で手に入れたものだった。機密の入った腕時計がジョンヒョクに渡ったことで、チョ・チョルガン(オ・マンソク)の悪事が露見してリ家は救われた。
「君も僕を助けてくれた」
「気づかないうちに助けてたの?」
これは第9話でセリがジョンヒョクに言った「あなたは気づかないうちに私を助けてくれた」というセリフを受けたもの。ジョンヒョクがスイスの湖畔で亡き兄を想って弾いたピアノを聴いて、自殺しようとしたセリは救われていた。今度はセリが気づかないうちにジョンヒョクを救ったことになる。
そもそも腕時計は善意と優しさのリレーでジョンヒョクの手元に戻ってきたものだ(第10話のレビュー参照)。誰かを想って行動することが、気づかないうちに誰かを助けていることがある。そういう物語だから、「愛の不時着」を見ると心が温かくなるのだろう。
セリの変化と北朝鮮の人々
セリはスチャンだけでなく、社員にも優しくなった。表情も柔らかくなったし、一緒に食事をするようにもなった。そして社員たちへの感謝の気持ちと、それを形にした臨時ボーナス! 社員たちが沸き立つのも無理はない。
式典から逃げ出した第5中隊だが、靴をなくしたウンドン(タン・ジュンサン)に自分の靴を履かせようとするピョ・チス(ヤン・ギョンウォン)が優しい。そこへ靴を持ってやってくるジョンヒョク。わざわざ自分の手で部下に靴を履かせてやる優しさがしみる。思わずウンドンが抱きついてしまう気持ちもよくわかる。
そしてセリもやってくる。車を下りたときのセリの表情といったらない。堪えていたピョ・チスも招き入れて、みんなとハグ。思えば、セリが帰国してから感激して誰かと抱き合うなんてジョンヒョクと広報チーム長のチャンシク(ゴ・ギュピル)以外いなかったわけで。初対面のマンボクのことを「彼は“ネズミや鳥”みたいなもの」と紹介するのもピョ・チスの優しさだった。
帰国したセリが優しくなったのは、北朝鮮で過酷な経験をしたからというわけではなく、北朝鮮で出会った人たちの利害を超えた愛情や人情を知ったからだろう。もちろん、その中にはジョンヒョクの愛情も含まれている(北朝鮮の人たちがみんないい人という話ではない。チョ・チョルガンを見よ)。
北朝鮮では夫が逮捕されて村の中で居場所を失っていたヨンエ(キム・ジョンナン)にお姉さんたちが優しく接していた。表向きは厳しいことを言っていた人民班長のウォルスク(キム・ソニョン)が一番重い薪を持ってきたところが泣けたよ。彼女たちはヨンエが権力者の妻だから媚びているのではなく、一人の人間として好きなのだとよくわかる場面だった。ジョンヒョクと第5中隊とよく似ている。彼らや彼女たちと接したことで、きっとセリの心に温かいものが満ちていったのだろう。
「生まれなければよかった」「生まれてきてありがとう」
しかし、セリと家族の間には冷たい風が吹き続けていた。冷酷な野心家の次兄セヒョン(パク・ヒョンス)夫婦の妨害、そして血のつながらない母・ジョンヨン(パン・ウンジン)とのすれ違い。
母はかつて、幼かったセリを夜の海に置き去りにしたことがあった。真夜中、眠さと寒さをこらえながら、100数えるまでに母が帰ってくると信じて、何度も99まで数えて1に戻る悲しさといったらない。倒れていたセリを助けたのが、仲良さげな親子だったのもせつなさを倍加させる。
母の苦しみを見て、セリの心には「私なんか生まれなければよかった。生きてるのが申し訳ない」という思いが去来するようになる。そして彼女は死を考えるようになる――。こんなことを吐露するのが、生まれたことを祝うはずの誕生日だという悲しい皮肉。
帰宅したセリは、ジョンヒョクらが帰国してしまったものだと思いこんで崩れ落ちて号泣するが、これは彼らが考えたサプライズ。泣きながら出ていってしまったセリを、ひどい顔を見ないでほしいという彼女の願いに従って、ジョンヒョクは後ろから抱きしめる。
「来年も、その次の年も、その翌年も、幸せな日になる。僕が思ってるから。“生まれてきてくれてありがとう。愛する人がこの世にいてくれてうれしい”と。だから、ずっと幸せな誕生日になるはず」
「生まれなければよかった」という悲しい思いを打ち消す「生まれてきてくれてありがとう」。こんなにうれしい言葉はない。
ここでエピローグ。オンラインゲームをしていたジョンヒョクは、偶然レコーダーのスイッチを入れてしまう。そこにはスイスで自殺しようとしたセリの遺言と、彼女に写真を頼んだ自分の声が録音されていた。ジョンヒョクは彼女が自殺寸前まで追い詰められていたことと二人の出会いが運命だったことをあらためて知ることになる。ピアノ曲という接点はあったが、まさか本当に出会っていたなんて!
遡ってみると、ジョンヒョクが部屋でセリと焼酎を酌み交わすシーンはこの後だ。
「北に帰りたくない。帰るのがイヤだ。君とここにいたい」
「ここで君と結婚して、君に似た子供も欲しい」
ジョンヒョクは驚くほど率直に気持ちを伝えているが、これは酔いが理由というより、二人が運命の再会だと知った後だからだろう。「ピアノをやりたい」と伝えたのもスイスを思い出したからかもしれない。
「見てみたい。君に白髪が生えて、シワもできて、老いてゆく姿を。きれいだろうな」
書いているだけでグッとくる。読んでいるみなさんもそう思いません?
そういえば、第5中隊と焼肉を食べている最中、ジョンヒョクはセリの茶碗にばかり肉を乗せていた。テープを聞いた後の行動だと知ると、彼の優しさで胸がいっぱいになる。だけど、穏やかな日々はいつまでも続かない。波乱の第13話へと続く。デデン!
■「愛の不時着」全話レビュー
1:「愛の不時着」一度ハマったら抜け出せない底なしの沼。全話徹底レビュースタート
2:「愛の不時着」2話。ユン・セリの胆力「あんたなんか怖くないわ。掘った穴に自分で入れば?」
3:「愛の不時着」3話。「月の光」はリ・ジョンヒョクによく似合う
4:「愛の不時着」4話。セリのために掲げたアロマキャンドル、ジョンヒョクは2020年型の王子様
5:「愛の不時着」5話。セリ「あなたには幸せでいてほしい。どんな電車に乗っても、必ず目的地に着いてほしい」
6:「愛の不時着」6話。セリ「私を運命の人だと思いたいの?」ジョンヒョク「僕の見える所にいてくれ」
7:「愛の不時着」7話。ジョンヒョクとセリ“守る者”と“守られる者”が鮮やかに反転
8:「愛の不時着」8話。ジョンヒョク「ケガはない?」自分がケガしてるのに!いつも愛する人ファースト
9:「愛の不時着」9話。ジョンヒョクがギュッと凝縮された数分間に陶然
10:「愛の不時着」10話「あの出来事を最初からもう一度繰り返してもかまわないと思えたら、それが愛だろうか」
11:「愛の不時着」11話。もっと深く「不時着沼」にひたるためのキーワード「デカルコマニー」と「ラーメン駆け引き」
12:「愛の不時着」12話。ジョンヒョク「生まれてきてくれてありがとう。愛する人がこの世にいてくれてうれしい」
13:「愛の不時着」13話。セリ「自分は自分で守る。私を信じて」いよいよラストスパート
14:「愛の不時着」14話「不時着」ってそういう意味だったの!?「北朝鮮への不時着」だけではなかった
15:「愛の不時着」15話「その選択をして、私は幸せだったわ。リさん」セリズ・チョイスからまっすぐに次回最終回
16:最終話「愛の不時着」ジョンヒョク「会いたいと心から願えば、会いたい人に会えるかと聞いたろ? きっと会える」
『愛の不時着』
出演:ヒョンビン、ソン・イェジン、ソ・ジヘ
原作・制作:イ・ジョンヒョ、パク・ジウン
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