宮藤官九郎×長瀬智也「俺の家の話」2話。介護も金も、家族には頼みづらい

長瀬智也×宮藤官九郎「俺の家の話」。ピークを過ぎたプロレスラー・ブリザード寿こと観山寿一(長瀬智也)。父親危篤の報を受けて25年ぶりに実家に帰り、人間国宝である能楽師・寿三郎(西田敏行)の跡を継ぐ決意をします。しかし寿三郎は復帰、若い介護ヘルパー(戸田恵梨香)と婚約し、遺産もあてにできず介護だけがのしかかる事態に……。寿一はいったいどうなってしまうのでしょうか。

お金がないのがすべての原因……

「お金ないとね……もう言葉、態度、目つき、顔つき、匂いが全部変わるの」と、介護ヘルパーのさくら(戸田恵梨香)は言い、お金に困っている寿一(長瀬智也)にぽんと10万円を貸す。さくらがいつも堂々として見えるのは、お金を持っているがゆえの余裕だろうか。

「元プロレスラーが、代々続く能楽師の家を継ぐ」という一見派手な設定の「俺の家の話」。しかし中心にある題材はあくまでも親の介護ということが1話でわかった。25年ぶりに父と再会し、慣れない介護生活に突入した寿一。レスラーをやめてしまったため収入はゼロ。学習障害をもつ息子をフリースクールに通わせたいという元妻(平岩紙)の希望にも、月謝がネックになっていい返事ができない。意を決して芸養子の寿限無(桐谷健太)に土下座して借金を申し込むも、寿三郎(西田敏行)が倒れて以降現金収入が途絶え、弟子もどんどん減って月謝も集まらず、厳しい状況であることが明かされる。

そんな寿一の困ったようすを知ったさくらが、お金を貸してくれるのだ。「介護と一緒で家族には頼みづらいですもんね」と言葉を添えて。
2話のラストではお金のことも、介護のことも家族に頼めない状況が悲劇を生む。

褒められる秀生、褒められたい寿一

弟子を集めて後継について宣言した寿三郎。弟子たちは当然、寿一が宗家を継ぐことにいい顔をしない。「高砂のひとつでも舞ってみせてくださいよ」の声に応じて、寿三郎は1週間後、寿一が舞を見せることを約束してしまう。

ぎこちない久しぶりの踊り。寿三郎に叱られながら指導を受けるシーン。さんたまプロレスで長州力にリキラリアットを受けて、何かを吹っ切る様子。そして1週間後の本番。

この一話のうちにきちんと稽古を重ねて、一気に伸びるきっかけも掴んで、寿一は弟子たちにその実力を認めさせる。けれどもその描写はどこかさらりとしている。やはりこの作品は「家業と関係ない仕事に就き、ブランクのあいた能楽師がどう伝統芸能を継承していくか」のお仕事ドラマではなく、どこまでも主軸は家庭の問題、タイトルにあるとおり「家の話」なのだ。

とにかく寿一は、父親に褒められたい。でも褒められない。柔軟剤を変えたことひとつとっても褒められやしない。だからさくらに同じく柔軟剤のことを喜ばれただけで「褒められた、親父にも褒められたことないのに」とほんのり好意を抱いてしまう。

多動症で、ふだんはじっとしていられない寿一の息子・秀生(羽村仁成)。しかし能に興味を持った彼は、寿一が高砂を披露している間中、静かに観ることができた。さらには寿三郎に稽古までつけてもらうようになる。秀生を褒めたおす寿三郎の様子を見て、喜びと同時に嫉妬の感情も抱く寿一。心の中で「親でありながら、俺は親離れできていない歪な男だ」とつぶやく。きっと誰にもそういう感情はある。父に対する思いに気づいているだけ、寿一は冷静で客観的だ。

大好きなものを仕事にするということ

寿一に「ロープに飛ばしてほしい」と頼まれ、リングに上がった長州力は寿一に聞く。

長州「寿、お前プロレス好きか」
寿一「大好きです」
長州「じゃあ、こいつらよりも幸せかもな。大好きなものを仕事にしなくていいもんな」

大好きなものを仕事にしてしまったら、大好きなだけではいられないのかもしれない。寿一は大好きなものを仕事にしていた生活から離れて、たぶん現時点では大好きではない家業を継ぐ。秀生は寿一に「学校楽しいか」と聞かれ、「楽しいわけないじゃん」と答えるが、能をじっと見ていられるのは「好きだから」と言う。このまま寿一が宗家になり、秀生が本格的に能の道を志すかどうかを考えなければならなくなったとき、きっと「好きだから」だけでは済まない日がやってくるのだろう。

寿一は、スーパー多摩自マン(勝村周一朗)の怪我による代役を頼まれ、ギャラに惹かれてひと晩だけリングに復帰する。そのために介護が必要な寿三郎を、数時間だけ一人にしてしまう。複数の人手がある家でさえこうなのだ。現実には、これより厳しい状況がどれだけあることか。ここでも寿一は家族に頼ることができない。しかし突然頼んだところでそれぞれに仕事をもつ妹や弟たちもきっと難しい。お金に困っていなければ、この状況は生まれなかった。

一方、弁護士である寿一の弟・踊介(永山絢斗)によって、何件も老人を介護しては遺産を受け取っていたことを暴かれ、家族の前で責められたさくら。彼女は「当然の権利」と堂々と過去を認める。恋愛感情はなかったと知ってショックを受ける寿三郎だが、直後の風呂でさっぱりとその傷ついた記憶を洗い流してしまう。こんなふうに寿三郎が風呂で嫌な記憶を忘れたとき、寿一はすかさず話題を変える。その話題が、幼い頃唯一親子らしい会話ができたプロレスのこと、というのが切なくも愛おしい。いつか寿一が寿三郎に褒めてもらえる日は来るだろうか。

次回はこちら:長瀬智也「俺の家の話」3話。スーパー世阿弥マシン!面をつけたらやっと褒められた

ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
漫画家・イラストレーター。著書に『ものするひと』『いのまま 』など。趣味は自炊。
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