長瀬智也「俺の家の話」3話。スーパー世阿弥マシン!面をつけたらやっと褒められた

長瀬智也×宮藤官九郎「俺の家の話」3話。一度は捨てたはずのプロレスへの道を、家族に内緒でこっそりと再び歩みはじめる寿一(長瀬智也)。父・寿三郎(西田敏行)もふたたび舞台に立つために、自分の足で歩きはじめます。3話で二人の関係はどうなる?

覆面レスラーとしてのリング帰還

2話を観て、このドラマについて「お仕事ドラマではなく『家の話』だ」とレビューに書いたことを早速反省し、撤回したい。『俺の家の話』はそんな狭いものではなかったし、宮藤作品で描かれるのはいつも、登場人物の決まった面だけではなかった。

2話で長州力(長州力)は、「大好きなものを仕事にしなくていいのは幸せだ」と言った。
けれども、寿一(長瀬智也)は、能の稽古中に考え事をしていて自然と寿限無(桐谷健太)にスリーパーホールドをかけてしまう。大好きなものを仕事にしてきた25年間で、プロレスの動きがしみついているのだ。スター不在で経営難に陥ったさんたまプロレスからの強い要請もあり、息子・秀生(羽村仁成)の「じっとしてる父ちゃん、かっこよくないもんね」の声にも押され、寿一は一度は断ち切ったはずのプロレスに再び復帰する。

寿一自身が考案した新たな覆面レスラーは、能面をつけ、世阿弥の言葉「初心」を筆文字でTシャツにしたためた「スーパー世阿弥マシン」。その名前は、寿一と同じく家業の金型工場を継ぐため一度はプロレスを引退して新潟の実家に帰るも、会社社長として培ったパワーポイントを武器にリングに復帰した覆面レスラー、スーパー・ササダンゴ・マシンを思い出させる。

デビューのリング上で、能の経験が全てプロレスに生きる気持ちのいい展開。「セーラー服と機関銃」の「カイ・カン!」のような寿一の「体・幹!」という気付き。この派手で見応えのあるプロレス技を、長瀬智也本人が吹き替えなしでやっているという凄みと説得力……。ドラマに全てをかける長瀬を観られる幸福と、それが最後かもしれないという寂しさを感じずにはいられない。

劇中劇ならぬ劇中能「私の家の話」

3話で特筆すべき要素のひとつに「劇中能」がある。ヘルパーのさくら(戸田恵梨香)がお金にシビアな自分の身の上を話しはじめると、Eテレの「古典芸能への招待」さながら「新作能 私の家の話」とタイトルが出、さくらのこれまでが能で表現される。母の再婚相手であるニートのDV継父役が、鬼神面というのだろうか、怒った様相の面で表現されていたのは能を知らなくてもぴったりだと思える。

このスタイルは、宮藤作品にたまに登場する。「タイガー&ドラゴン」では毎回、登場人物が落語の世界に入っていた。「マンハッタンラブストーリー」では作中の脚本家が書いたものとして「軽井沢まで迎えにいらっしゃい」というドラマが繰り広げられた。しかしまさか能で同じように劇中劇ができるとは!

このシーンには、二つの印象的なセリフもあった。なんだかんだいって家族に恵まれている寿一の「家族にしかできないことがある。でも、家族にはできないこともある」という言葉。そして家族という形をうまく作れない母親をもったさくらの「お金じゃ買えないものがあるっていうけど、お金でしか解決できない問題もありますよね」という発言。二人の考え方と立場を明確にする、きれいな対比だ。

「いい俳優」西田敏行の「いい演技」

宮藤自身が「週刊文春」の連載でかつて「池中玄太80キロ」の西田敏行を観て「いい芝居とは『演技に見えない』演技、いい役者とは『自己を消してなお魅力的』な人」と定義づけられた、と書いていた。1話の「寿三郎(西田)が野菜の名前を思い出せない」シーンにその「いい演技」を観た、と。3話でその「いい演技」「いい役者」ぶりが特に出ていたのは、はじめは拒否していたシルバーカーにつかまり、「無理しなきゃさ、二度と能舞台立てねえだろ」「じゃあ、人間国宝、笑われに行ってきまーす」とたどたどしく歩くシーン。そして「死に方がね、わからないんですよ」とさくらにこぼすところ。西田のおおきな演技は、このドラマの要だ。

3話には他にも、細かい良さが詰まっていた。冒頭、何年もプロとしてやってきたクセで、試合運びについて反省する寿一の姿。同じく寿一の、慌てているとついマスクを脱ぎ忘れるクセ。冒頭とラスト近くの「まさか」の使いかた、そしてシルバーカーを初めて父親に見せたときの気遣いのリアリティ。

また、寿三郎の「三蔵法師様〜」のセリフに「西遊記」の猪八戒役を思い出したり、寿一の「夫婦をグループに例えるなら活動休止と解散の違い」とTOKIOを思わずにはいられないナレーションがあったりと(夫婦を例えるなら「コンビ」のほうがしっくり来るのに!)、ドラマの最中、ふと役を離れて現実の役者に思いを馳せる瞬間が訪れるのも面白い。

父にずっと怒られっぱなしで、切実に褒められたがってた寿一。面をつけて正体を隠した「スーパー世阿弥マシン」になったら、やっと褒められた。寿三郎が口を酸っぱくして寿一に言っていた「秘すれば花」って、もしかしたらこのことだろうか。

次回はこちら:長瀬智也「俺の家の話」4話。クソジジイって言えるかどうかが親子の分かれ目?

ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
漫画家・イラストレーター。著書に『ものするひと』『いのまま 』など。趣味は自炊。
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