「梨泰院クラス」13話。パク・セロイが愛したのはスアでもイソでもない。会長だ
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- 前回はこちら:神回「梨泰院クラス」12話。恋愛から逃げるパク・セロイ、「最強の居酒屋」から逃げないマ・ヒョニ
「梨泰院クラス」全話レビュー、第13話。
いよいよクライマックスへ向けて、状況を整えるために人間関係が大きく変化する超重要回だ。ポイントを押さえて人間関係を整理していこう。
100億を1000億台にしよう
テレビ番組「最強の居酒屋」で長家とタンバムの対決が決着を迎える。
「私はトランスジェンダーです」と、タンバムのマ・ヒョニがテレビカメラの前で表明。
「私を強くしてくれる仲間たちに、美味しい料理で恩返ししたくてこの場に立っています」と言ったマ・ヒョニが優勝し、投資を受けられることになる。
長家に寝返ったチャン・グンスは、イソに殴られる。マ・ヒョニのことをリークしたことがバレたのだ。イソに好かれるためにやったことがすべて裏目に出てしまう。イソに好かれる望みはないだろうに、暴走モードに突入している。イソが好きなセロイを潰す決意を固めるのだ。
順調にフランチャイズ化を進めるパク・セロイは「お前たちがいるから俺が……俺が勝つ」と酔っぱらって語り出す。
「一億を数十億にするのは簡単だった」
屋上でチョ・イソや株式運営担当のイ・ホジンに語るパク・セロイ。
「韓国の資本市場は面白いな。ローリスクハイリターン、大金が集まれば可能だ」
中国のフランチャイズのカンファレンスサイトを見せる。
「全国じゃなくて中国から世界へ。100億を1000億台にしよう」
さらっと描かれるシーンだが、これは重大なセリフだ。
巨大な資金を使って成長を維持するという点で、パク・セロイの経営哲学は長家のチャン・デヒと同じだ。チャン・デヒの自伝をバイブルのように読み込んだだけはある。
漁船と肉体労働で1億ウォンを貯めるのは困難だったが、金と権力がある今では、周りを制御して、その力を維持するのはイージーであり、ローリスクハイリターンであると、パク・セロイは宣言してしまった。
しかも、漁船と肉体労働で資金を貯めたと語っていたが、父親の保険金とイ・ホジンの株式運用で資金を増やしたことは語られない。
幸せに見えないパク・セロイ
ここで時間がぴょんと飛んで、4年後の2020年。
パク・セロイは代表になっている。
「梨泰院クラス」の凄さは、ここだ。成功したパク・セロイをぜんぜん幸せそうに描かないのだ。
ベンツに乗り、ソウルに自社ビルを持ち、皆から挨拶される。紋切り型の古臭い金持ちにのイメージで描かれる。
創立メンバーもみんな幹部になっている。
創立メンバーが連携して、部下の提案を理詰めで潰してしまう。イソなど「現場の人がこのていどのこと知らないんですか?」とちょっと小バカにしたような話しぶりだ。
ICの企業理念は「人と信頼です」と言いながら、部下との信頼関係を築こうとしていない。創業メンバーだけで閉じている組織になっているのだ。
チェ・スングォンは本部長になっていて「やってらんない。性に合わない。アニキ、現場にもどしてもらませんか」と愚痴をこぼすが、パク・セロイはまともに取り合わない。
パク・セロイも会議会議の連続で、「そんなに予定を詰め込むなよ。倒れるぞ」と言われるほどの多忙さ。スアとのデートも途中でキャンセルして、スアから「気にしなくていいよ。あんたが忙しいのはみんな知ってる」と言われてしまう。
少なくとも、第8話でパク・セロイが人生の目標として語っていた「僕が欲しいのは自由です」という状態には見えない。
チョ・イソは相変わらず、パク・セロイに恋のアプローチを続けている。
「クビにしたきゃどうぞ。代表が困るなら切らないと。でも私仕事できるからいないと会社が困っちゃうどうしよう。何に悩んでるんですか。方法がないわけではないのに、私を受け入れてください」
4年たっても関係性は変わっていない。
チョ・イソは、パクセロイを恋愛感情で見ているが、パク・セロイは振り向いてくれない。だから仕事上必要な人間になってそれを担保に強い関係性を迫る。
パク・セロイとチョ・イソの関係性は、長家のデヒ会長とスアの関係性と相似形だ。
スアは、長家のために尽くす。長家に囲われている。奨学金や就職先という恩恵をデヒ会長から受けたからだ。
イソは、セロイの会社ICのために尽くす。ICに囲われている。パク・セロイの愛情を受けるためだ。
チャン・グンスが、セロイを潰して囲われているチョ・イソを解放しようと決意した。
これは、パク・セロイが、長家を潰して囲われているスアを解放しようと決意したことの繰り返しだ。
そう考えると、長家のデヒ会長のコピーは、チャン・グンスではなく、パク・セロイだ。
ここで、第1話のレビューで提示した「会長は本当に悪でパク・セロイは本当に正義なのか?」という疑問にもどる。
いや、ここでは、こう問い直そう。これは、パク・セロイとチョ・イソとオ・スアの三角関係の恋愛ドラマと見せかけて違う愛を描いたドラマなのではないか。
私の最後の楽しみは君だ
13話で、はじめてチャン会長の若いころが描かれるのも偶然ではないだろう。
キラキラした純粋な目で、妹のために10階のビルを建ててやると野望を語るチャン・デヒ会長は、まるでパク・セロイだ。
余命宣告を受けたチャン会長は、虚空に向かって叫ぶ。
「どうだ俺はやったぞ。ほどこしを受け、頭を下げ、人を裏切って、ひゃひゃひゃ、突き放して、奪い取って踏みにじりながら、おれの人生をささげてきた長家、俺がーひゃひゃひゃひゃ! 俺が築いた。俺が。ひひひひひ。うぅごほごほ」
露悪的に語り、咳き込むデヒ会長に電話がかかってくる。
ほどこしを受けず、頭を下げず、人を裏切らず、突き放さず、奪い取らず踏みにじらず、人生を捧げて、ICを築いたパク・セロイ、チャン・デヒと鏡像のようにそっくりなパク・セロイからの電話だ。
「お元気でしたか」
「何の用だ」
「聞きました。癌だそうですね」
「ふん」
「死ぬんですか?」
「何が言いたい」
「俺は、あなたがあっけなく死ぬのは卑怯だと思います。天罰? 冗談じゃない。罰を下すのは俺です。まだ死ぬな」
「俺が生きることを望む唯一の人間がおまえとはな。面白い。そうだ、私の最後の楽しみは君だ」
オ・スアの愛の告白も、チョ・イソの愛の告白もスルーしたパク・セロイのこの会話、まるで愛の告白だ。
パク・セロイが愛のように濃い人間関係を結べる唯一の人間は、復讐の相手であるチャン・デヒだけだったのだ。
「近々伺います」
チャン・デヒは、立ち上がる。
「長くは待てないぞ。急ぐんだな」
パク・セロイとチャン・デヒの愛はどう決着するのか。
残り3話、怒涛のクライマックスに突入である。
■梨泰院クラス全話レビュー
1:「梨泰院クラス」会長は本当に悪でパク・セロイは本当に正義なのか? 全話徹底レビュースタート
2:「梨泰院クラス」2話。忖度で生み出される格差に抗うパク・セロイ
3:「梨泰院クラス」3話。忖度社会に抗うための第3の方法
4:「梨泰院クラス」4話。パク・セロイとオ・スアとチョ・イソの恋のトライアングルバトル勃発
5:「梨泰院クラス」5話。パク・セロイとオ・スアのキスにチョ・イソディフェンス発動
6:「梨泰院クラス」6話。最大の疑問。パク・セロイはなぜオ・スアをタンバムに呼ばなかったのか
7:「梨泰院クラス」7話。パク・セロイ、会長に宣戦布告、土下座して罪を償え
8:「梨泰院クラス」8話。大金を得たセロイは、なぜ会長のようにならないのか
9:「梨泰院クラス」9話。パク・セロイ、オ・スア、チョ・イソの恋と権力のトライアングル
10:「梨泰院クラス」10話。権力か家族か。決断を迫られる会長、迫るセロイ
11:「梨泰院クラス」11話。チョ・イソ告白シーンでわかるパク・セロイが恋愛に鈍感な理由
12:神回「梨泰院クラス」12話。恋愛から逃げるパク・セロイ、「最強の居酒屋」から逃げないマ・ヒョニ
13:「梨泰院クラス」13話。パク・セロイが愛したのはスアでもイソでもない。会長だ
14:「梨泰院クラス」14話。パク・セロイがオ・スアを捨て、チョ・イソを選んだ愛の理由
15:「梨泰院クラス」15話。結局、会長もパク・セロイもマッチョなのだ。次回最終回
16:「梨泰院クラス」最終話。パク・セロイ「夢みていた光景なのに心の底から喜べない」
「梨泰院クラス」
演出:キム・ソンユン
原作脚本:クァンジン
キャスト:パク・ソジュン パク・セロイ役、キム・ダミ チョ・イソ役、ユ・ジェミョン チャン・デヒ役、アン・ボヒョン チャン・グンウォン役、クォン・ナラ オ・スア役、キム・ヘウン カン・ミョンジョン役、イ・デビッド イ・ホジン役、ソン・ヒョンジュ パク・ソンヨル役、ユン・ギョンホ オ・ビョンホン役
オープニング曲:ハ・ヒョヌ「Stone」
エンディング曲:Gaho「Start」
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