「梨泰院クラス」15話。結局、会長もパク・セロイもマッチョなのだ。次回最終回

世界最大の動画配信サービス、Netflixで大人気の韓国ドラマ「梨泰院クラス」を全話レビュー。気になるけれどまだ見ていない人はこれを機にチェックしてみては。最終回直前回の15話、長家のデヒ会長の長男・グンウォンが暴走。セロイの最愛の人となったチョ・イソを誘拐します。イソを助けるためにデヒ会長が求めたものとは……。

憎みながらリスペクトする

「梨泰院クラス」15回、ついに、最終回直前回だ。
そう、結局、長家のデヒ会長もパク・セロイもマッチョなのだ。
信念を貫くためには強くなければならない。屈してはいけない。

会長の長男グンウォンがセロイの最愛の人となったチョ・イソを誘拐し、セロイと会長の次男(愛人の息子)グンスが助けに向かう。
グンスを車でひき殺そうとし、彼を助けようとして、セロイは車に激突、血まみれで倒れる。

長家の企画部長オ・スアは、デヒ会長にそのことを伝える。会長は笑う。

「いくらグンウォンが愚かでも拉致に殺人? ありえないな。そんな度胸はない」
「15年前のひき逃げ事件。そして4年前。会長の記者会見によってありえる話になりました。会長がそうさせたのです」

デヒ会長の信念の貫き方が、周囲をゆがめ、忖度させ、自分の息子を拉致および殺人に追いやったと言うのだ。
重篤だったセロイが奇跡的に復活。亡くなった父との再会シーンもあって、泣かせる展開の連続だ。
すぐに立ち上がり、病院を出る。このあたりのいくら重症でも、信念のためならすぐに行動するという思想も、マッチョそのものだろう。
強くなければ生きていけない世界の住人たちであり、その価値観を貫いて生きていく。
だから、パク・セロイは、デヒ会長を憎みながら、一方でリスペクトする。マッチョな世界の住人として目指すべきロールモデルとして、自伝を繰り返し読み、長家を超える外食産業の長を目指した。
力には力を。

拉致、殺人へと暴走する長男・グンウォン(アン・ボヒョン)/Netflixオリジナルシリーズ「梨泰院クラス」独占配信中

自分の価値を自分で下げて安売りするバカめ

イソも、ソシオパスという設定で登場したにも関わらず、パク・セロイに感化されて信念の人になってしまった。
だから、グンスが「僕はセロイさんになれない」と言ったときイソは「なれるわ」と言う。以前のイソなら「セロイさんになる必要はない。あんたはあんならしくあればいいのよ」と言ったのではないか。
それに重ねるように「退職願」を出すイソを映す。
「主体性のない人を軽蔑すると。これが人生初の私の望んだ道です」
会長を裏切り、会長の庇護から抜け出す決意を示す。

アニキを助けるためにひとり組織に乗り込むスングォン。そして、むかし刑務所時代にセロイに言われた言葉を、自らの口で語るのだ。
「自分の価値を自分で下げて安売りするバカめ」

そして、「この俺は、株式会社梨泰院クラスの本部長だ」と肩書を自分の価値として示してしまうのだ。
こうして、だれもがパク・セロイ化することをヒロイックに映し出す。

チョ・イソは拉致されても負けない(キム・ダミ)/Netflixオリジナルシリーズ「梨泰院クラス」独占配信中

とてもたやすいことだ

パク・セロイは、デヒ会長にグンウォンの居場所を聞く。
「俺に土下座できるか?」
念願の土下座を、ここで要求するデヒ会長。
「イカれたジジイめ。息子が人を拉致したんだぞ」

もはやデヒ会長も自分を見失ってしまった。デヒ会長が望んだのは、自分に逆らわない人々だ。周りが自分の支配下にあることだったはずだ。その象徴としての土下座なのだが、ここでは、関係なく土下座そのものを要求してしまった。
だから、「何万回でもできる。とてもたやすいことだ」とセロイは土下座をしようとする。

正気を失って暴走する長男グンウォン。
拉致されて脱走を試みるイソとグンス。
死を目の前にして信念を取り違えてしまったデヒ会長。
愛と信念の人として立ち上がったパク・セロイ。
このままマッチョで突き通すと、デヒ会長のようになってしまうのではないかと心配してしまうが、次回、最終回、どう決着をつけるのか。

■梨泰院クラス全話レビュー
1:「梨泰院クラス」会長は本当に悪でパク・セロイは本当に正義なのか? 全話徹底レビュースタート
2:「梨泰院クラス」2話。忖度で生み出される格差に抗うパク・セロイ
3:「梨泰院クラス」3話。忖度社会に抗うための第3の方法
4:「梨泰院クラス」4話。パク・セロイとオ・スアとチョ・イソの恋のトライアングルバトル勃発
5:「梨泰院クラス」5話。パク・セロイとオ・スアのキスにチョ・イソディフェンス発動
6:「梨泰院クラス」6話。最大の疑問。パク・セロイはなぜオ・スアをタンバムに呼ばなかったのか
7:「梨泰院クラス」7話。パク・セロイ、会長に宣戦布告、土下座して罪を償え
8:「梨泰院クラス」8話。大金を得たセロイは、なぜ会長のようにならないのか
9:「梨泰院クラス」9話。パク・セロイ、オ・スア、チョ・イソの恋と権力のトライアングル
10:「梨泰院クラス」10話。権力か家族か。決断を迫られる会長、迫るセロイ
11:「梨泰院クラス」11話。チョ・イソ告白シーンでわかるパク・セロイが恋愛に鈍感な理由
12:神回「梨泰院クラス」12話。恋愛から逃げるパク・セロイ、「最強の居酒屋」から逃げないマ・ヒョニ
13:「梨泰院クラス」13話。パク・セロイが愛したのはスアでもイソでもない。会長だ
14:「梨泰院クラス」14話。パク・セロイがオ・スアを捨て、チョ・イソを選んだ愛の理由
15:「梨泰院クラス」15話。結局、会長もパク・セロイもマッチョなのだ。次回最終回
16:「梨泰院クラス」最終話。パク・セロイ「夢みていた光景なのに心の底から喜べない」

「梨泰院クラス」
演出:キム・ソンユン
原作脚本:クァンジン
キャスト:パク・ソジュン パク・セロイ役、キム・ダミ チョ・イソ役、ユ・ジェミョン チャン・デヒ役、アン・ボヒョン チャン・グンウォン役、クォン・ナラ オ・スア役、キム・ヘウン カン・ミョンジョン役、イ・デビッド イ・ホジン役、ソン・ヒョンジュ パク・ソンヨル役、ユン・ギョンホ オ・ビョンホン役
オープニング曲:ハ・ヒョヌ「Stone」
エンディング曲:Gaho「Start」

ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。
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