「青天を衝け」全話レビュー

吉沢亮「青天を衝け」4話。堤真一に給仕の仕方を教える草なぎ剛に萌える

「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一。その栄一を吉沢亮が演じ、主演を務めるNHK大河ドラマ『青天を衝け』がスタートしました。4話で栄一は商才だけでなく、マネジメント力も発揮します。一方、幕府はペリーの再来航が迫り大混乱!次期将軍候補・慶喜は、家臣に据えられた平岡円四郎のおかげで笑顔を見せ始め……。

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第4話。

前回、藍葉の買い入れで商才を見せつけた渋沢栄一(吉沢亮)だったが、今回は藍農家たちのモチベーションを爆上げさせるマネジメント力を発揮。
第1話からずーっと暗かった徳川慶喜(草なぎ剛)も、「直言の臣」平岡円四郎と出会ったことではじめて笑顔を見せた。

栄一、人たらし力も開花

地域の藍を日本一にするため栄一が考えた施策は、農家ごとの藍の出来・不出来を相撲に見立てて「大関」「関脇」「小結」などと格付けした番付表を作るというもの(当時の横綱は名誉称号だったため大関が最高位)。

「ここのみんなでまた来年も高めあっていい藍を作り、武州藍を大いに盛り上げたいと思ってんだ!」

要はランキングを作ることで競争心を煽り、武州藍全体の品質を高めていこうということだが、年功序列の根強い時代に地域の重鎮を差し置いて若手を大関に据えるとは。重鎮・角兵衛さん(渡部哲)がノリノリになってくれたことで事なきを得たが、大惨事になった可能性もあっただろう。

明るく真っ直ぐな笑顔でおっさんたちのハートもわしづかみにした栄一。人たらしの才能アリだ。

気軽に5000万円くれと言われても……

金勘定だけではなく、人心掌握にも長け、後のカリスマ経営者としての片鱗をガンガンにうかがわせる栄一だが、いくら才能があっても江戸時代の身分制度からはみ出すことはできない。
顔の怖い代官・利根吉春(酒向芳)から再び「承服できん!」ことを言われて激怒する。

「このたび物入りのため、その方どもに御用金を申しつける」

藍葉の仕入れ値は籠ひとつで約30文。蚕の作った繭はひとつかみでせいぜい1文。農民たちはそんな風に必死で金を稼いでいるのに、気軽に500両もの御用金をゲットしようとする代官(しかも超・上から目線で)。
1両=4000文、現在の価値だと1両=10万円前後と言われているので、500両ってメチャクチャ大金だ。

「500両という金は決して名代のオレがへいへいと軽々しく返事をしていいような額じゃねえ」

怒った栄一は即答を避け、後日500両を用意する際も、農民たちが普段使っている一文銭をわざわざ大量に入れ、精一杯抗議の意志を見せたが、代官はまったく意に介さず。
思いっきり悪代官といった顔つきの利根吉春は視聴者のイライラを増幅させてくれるが、おそらく本人にあくどいことをしている意識はなく、農民が武士に金を払うのは当然という認識なのだろう。

当時の代官は武家階級から選ばれ、世襲であることも多く、才能の有無は関係なく代官職に就いているものも少なくなかっただろう。
栄一が商才を開花させて稼いだ金を、無能な代官に吸い上げられる。身分制度や幕藩体制に不信感を抱いたとしても無理はないだろう。

攘夷派も開国派もどっちもダメ

一方、黒船来航の震源地である江戸では、ペリーからの開国要求を巡って様々な思惑が渦巻いている様子。

新将軍となった徳川家定(渡辺大知)は、深刻な話をしている最中にお菓子を食べだしてしまうボンクラっぷりのため、実務は家臣たちが仕切っていた。
特に、謹慎を解かれて海防参与に任命された徳川斉昭(竹中直人)は意気揚々。

「ヲロシアなどたたっ切れ! 陸戦に持ち込めば我が国の槍剣の長技で異人など皆殺しにしてくれるわ!」
「(開国は)断じてならん! 打ち払え! 打ち払ってしまえ!」

謹慎させられている間、ひとりで尊皇攘夷のバイブルと言われる「水戸学」の世界に没入していたため、ますます攘夷思想を煮詰めてしまったのか、久々に政治の世界に復帰して変なテンションになってしまっているのか。
当時としてはかなり先進的な名君とされている斉昭ですらこの程度の認識。
竹槍で本土決戦しようとしていた第二次世界大戦中の日本軍や、急に陰謀論にハマって「本当はトランプが勝っているんだ!」とか言い出した老人感があって悲しい。

対する開国派も、桜田門外の変でお馴染みの井伊直弼(岸谷五朗)をはじめ、ほとんどは黒船の脅しにビビって従ってしまおうという単なるヘタレとして描かれている。

毎週恒例、徳川家康(北大路欣也)の歴史教室によると、開国して諸外国と交易することで国力を高めようという本当に先進的な考えを持った人物は稀少だったようだ。
武家階級が農民から年貢を取り立て、さらに御用金まで請求する根拠は「領民は武士に護られているから」。

しかし平和な時代のおかげで200年以上も大きな戦は起こっておらず、その根拠は形だけのものとなっている。その上、黒船来航という本当の脅威が迫ると右往左往するばかりで有効な政策を打ち出せない武士たち。
栄一もますます不信感を抱くというものだ。

ただ暗いだけじゃなかった慶喜

尊皇攘夷の急先鋒・斉昭が開国派を押さえ込み、攘夷を決行するための切り札は、実の息子である慶喜を将軍にすること。
あのボンクラ将軍じゃヤベエなということで、老中・阿部正弘(大谷亮平)、福井藩主・松平慶永(要潤)など、慶喜を担ぎ上げる動きも活発化している。

当の慶喜は、政治の世界から距離を置き、開国か攘夷か、自分の意見も表明していないのだが。

将軍になる野心も見えず、心を閉ざしているように見える慶喜のために「直言の臣」として斉昭が送り込んだのが平岡円四郎。
気品があるけどとにかく暗い慶喜と、江戸っ子丸出しでぶっきらぼうな円四郎の組み合わせは絶妙で、円四郎のあまりに無骨な給仕の仕方に慶喜も思わずニッコリ。

「米の一粒一粒は民の辛苦である故、食するごとにそれを忘れぬようにという父の教え」

お偉いさんに仕えることに抵抗を感じていた円四郎も、偉ぶることなく民衆に心を寄せている様子を見せた慶喜に一発で惚れこんだようだ。
視聴者としても、何にもできない円四郎に給仕の仕方やマゲの結い方を微笑みながら教える慶喜に萌え! 慶喜としても円四郎のキャラが妙にハマッたんでしょうな。
それにしても栄一に御用金を請求した代官と比べ、米一粒を大切にする慶喜の〝名君になりそう〟感よ。ただ暗いだけじゃなかったんだ! 栄一たちが決死の覚悟で士官しようとしたのも納得。

はやく将軍になってもらいたいところだが、慶喜が将軍になるまでには、まだまだ色々あるのだ。

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
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