「青天を衝け」全話レビュー02

吉沢亮「青天を衝け」3話。“資本主義の父”渋沢栄一の商才覚醒。まだ13歳なのに!

「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一。その栄一を吉沢亮が演じ、主演を務めるNHK大河ドラマ『青天を衝け』がスタートしました。藍葉の不作で窮地に陥った父を助けるため、藍葉の買い付けに行く栄一。13歳にして、商才を表します。一方、黒船が襲来し大騒ぎの江戸では、時期将軍に慶喜の名前が挙がり……。

吉沢亮主演、大森美香脚本の大河ドラマ「青天を衝け」第2話。

「江戸は今日は祭りか?」
田舎っぺ丸出しで、はじめて江戸へやってきた渋沢栄一(吉沢亮)にとって、町人文化花開く町は衝撃だったようで、
「とっさま、オレは嬉しい。この町は商いでできてる!」
「お武家様がまるで脇役だ。こんな誉れはねえ。この江戸の町はとっさまみてえな商い人が作ってるんだいな!」
と大コーフン。
武力ではなく、経済の力で日本を変えた渋沢栄一らしい発言であるとともに、平和な江戸時代を長年のほほんと過ごしてきた武士たちの力が弱まっていることもにおわせていた。

高島秋帆&徳川斉昭が表舞台に復活

そんな時にやってきたのが黒船&ペリー!
どっからどう見てもモーリー・ロバートソンなペルリ提督に「演技できるの!?」と心配したものの、英語セリフのみなので意外と違和感がなかった(安心!)。

太平の世にどっぷり浸かっていた幕府が慌てふためく中、頼りになるのは異国からの脅威に危機感を抱いてきた攘夷論者たち。
近代兵器による武装を説く彼らは、幕府から謀反などの疑いをかけられて冷遇されてきたが、これを機に手のひらがクルッとひっくり返る。

まずは栄一たちの地元に投獄されていた砲術家の高島秋帆(玉木宏)。
西洋砲術を学び、「ゲベール銃やモルチール砲を取り寄せ、肥後や薩摩、ひいては江戸でもオンテレーレンした(教えてた)」という秋帆。そのせいで長年幽閉されてきたが、黒船来航にともなう社会情勢の変化によって釈放。
岡部に来たときは罪人の籠の中だったのに、江戸へ戻るときは馬上の人。当時の混乱っぷりが分かるというものだ。

大規模軍事演習「追鳥狩」で大砲をドッカンドッカンぶっ放したことで隠居処分となっていた徳川斉昭(竹中直人)も処分を解かれて政治の世界に復帰。
みんなが不安になっている中、外国船打ち払いを強硬に主張し、幕府に大砲を献上するなど勇ましいところを見せてきた斉昭は庶民人気も高かったようで、三顧の礼をもって迎えられた「三国志」の諸葛孔明に見立てた錦絵が江戸中に広まっているという。

しかしその錦絵、斉昭というよりは、単に孔明コスプレをした竹中直人の面白似顔絵。さすがに笑ってしまった。
実際の斉昭はドラマ以上に行きすぎたヤバイ攘夷論者だったようだが、本作の斉昭にどこかかわいげがあるのは竹中直人のキャラクターか。

栄一の“みんなが嬉しい”商才覚醒

黒船来航のニュースは血洗島にまで届いていたものの、それはそれとして栄一は商売の才能を覚醒させる。
きっかけは、虫害によって血洗島の一大産業である藍葉の大半がダメになってしまったこと。

栄一は、信州や上州に藍葉を買い付けに行かなければならないという父・市郎右衛門(小林薫)の手伝いをしたいと申し出るが、父は「子どもの使いでできるもんじゃねえ」とけんもほろろ。
「いつまで経っても子ども扱い。親に当てにされねぇんはさみしいもんだに……」

そんな栄一の可能性を信じた見た母・ゑい(和久井映見)は買い付けの金を渡した。
買い付け先でも「なんでえ、ガキじゃねえかぁ」とあしらわれるが、幼少の頃から父の仕事を見ていた栄一は商才を爆発させて次々に買い付けを成功させていく。
ビジュアルは27歳の吉沢亮ではあるものの、ペリー来航時の渋沢栄一は13歳。毛が生えるか生えないかくらいの年齢で、あれだけ巧みに商談を行うとは、さすがは後の“資本主義の父”といったところか。

栄一が一貫125文で買ってきた藍葉を父は、
「これは高く買いすぎだ。60文くらいでもよかった」
「そんでもまあ、いい肥やしを買って、来年いい藍を作ってくれればそれでよかんべえ。よくやった」
と認めてくれた。

注目すべきは、栄一の考える商売の成功とは、自分の利益を最大化することではなく「みんなが嬉しいんが一番」だということ。
後の著書「論語と算盤」で栄一は、論語に裏打ちされた“道徳経済合一説”を打ち出し、利益を独占せず社会に広く還元するように説いている。

この「論語と算盤」、かつては会社経営者たちのバイブルだったようだが、最近の日本の状況を見ていると、栄一の教えがあんまり活かされていないな……と感じてしまうのが悲しいところだ。

お世継ぎ問題に巻き込まれますます暗い慶喜

父親から当てにされないと嘆いていた栄一に対し、本作のダークサイド・徳川慶喜(草なぎ剛)は、実の父・斉昭からうっとうしいほど当てにされて困惑していた。
「当てにされても困るのです。私にはこの先、将軍になる望みはございませぬ」
「父上は私を傀儡とし、ご自身が将軍になられたいのでありましょう」

かつては厳格な斉昭に対するリスペクトがそれなりにあった慶喜だが、だいぶ闇墜ちしてしまっている感がある。黒船来航時、まだ15歳のはずだが……暗いなぁ!

こうなってしまったのも、若くして面倒なお世継ぎ問題に巻き込まれてきたからだろう。
12代将軍・家慶には29人の子どもがいたものの大半が幼くして亡くなっており、成人するまで生き延びたのは13代将軍となる家定(渡辺大知)ただひとり。

その家定も病弱で(脚気など複数の病や障害を抱えていたといわれている)将軍の器ではないと考えた家慶は“水戸の壮健な身体を持つ”慶喜を後継者にと考えていたようだが、「将軍は長男が継ぐべき」という家臣たちからの反対にあい結局、家定が将軍を継ぐことに。

ただ、その家定も健康不安がある上、子どもがいないということで、さらなるお世継ぎ問題に巻き込まれていくのだが。

この時期の将軍家にお世継ぎ問題が頻発していた原因は化粧に使われていた白粉にあるという説がある。
白ければ白い方が美しいという風潮もあり、上流階級の女性は乳房近くまで白粉を塗ったくっていたというが、当時の白粉には鉛が含まれている。
乳児がそこに口を当てていたと思うと……。そりゃあ健康被害が出てもおかしくないだろう。

もうひとつは、白米食が主流となったことにともなうビタミンB1不足から引き起こされた脚気。歴代将軍も脚気が原因で死んでいるケースが少なくない。
他の大名家も含め、江戸時代後期には上流階級ほど早死にするという皮肉な傾向があったようだ。
その点、ビタミンB群を豊富に含む黒豆を毎日100粒食べるように斉昭から厳しくしつけられていた慶喜に脚気の心配はなかったはず。

心身共に明らかに将軍としての才覚を備えているにも関わらず、それより劣るものが将軍職を継ぎ、ややこしいお世継ぎ問題に巻き込まれつつも飼い殺し状態となっていた慶喜。そりゃあ闇墜ちもするわ。

草なぎくんの笑顔が見られる……!?

それなりにかわいげのあった子ども時代からするとだいぶ雰囲気の変わってしまった慶喜を見た斉昭は、息子を心配したのか、もしくは自分の政治的影響力アップのためなのか、
「あやつを支える直言の臣はおらぬのか!?」
と、優秀な家臣を探すように命令する。

ということで選ばれたのが、のちに栄一と慶喜を引き合わせることにもなる平岡円四郎(堤真一)。
第1話の冒頭で慶喜と心が通じ合っている感を出していたが、次回の予告編では円四郎と話す慶喜がニッコリ。おそらく本作初となる草なぎくんの笑顔!

気っぷのいい江戸っ子感のある円四郎が、あの暗〜い慶喜とどう絡んでくるのか? そして闇墜ちした慶喜を救ってくれるのか!?

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
ドラマレビュー