「青天を衝け」全話レビュー01

吉沢亮「青天を衝け」1話。衝撃、幕末に徳川家康登場。家康だからこそ語れる明治維新?

「日本資本主義の父」とも称され、幕末から明治を駆け抜けた実業家・渋沢栄一。その栄一を吉沢亮が演じ、主演を務めるNHK大河ドラマ『青天を衝け』がスタートしました。初回の今回は、栄一と将軍・徳川慶喜(草なぎ剛)の幼少期を中心に物語が進みます。今回の大河ドラマの見どころを北村ヂンさんが考察します。
  • 記事末尾でコメント欄オープン中です!

吉沢亮主演、大森美香脚本の新大河ドラマ「青天を衝け」がスタートした。「麒麟がくる」が色々あった影響もあり、イレギュラーな2月スタートとなったが、初回視聴率20.0%と好スタートを切ったようだ。

主人公は、2024年度に新一万円札の肖像画となることが発表され、認知度が急上昇していると思われる渋沢栄一。
ただ、明智光秀や西郷隆盛、真田幸村といった超A級な歴史上の人物と比べると、要は何をやった人なのかよく分からない地味な存在ともいえるだろう。

同じ大森美香脚本で好評を博した朝ドラ「あさが来た」と同時代であるという話題性や、主演の吉沢亮人気もあるのだろうが、それ以上に「新札になるらしいけど、何やった人かよく知らないからドラマくらい見ておくか」需要も大きかったのかも。

「日本の資本主義を作った男」と呼ばれるだけあって、ビジネスパーソンをターゲットにした渋沢栄一本は無数に出版されているが、映画やドラマでの扱いはあまり多くない。
近年だと「あさが来た」で三宅裕司が演じた“銀行の神様”のイメージ。それ以前だと「帝都物語」で勝新太郎が演じた怪人・渋沢栄一のインパクトが強すぎて、新一万円札が渋沢栄一になると聞いて、勝新太郎の姿を思い浮かべてしまった人も少なくないはずだ。

当たり前だが、あの映画では渋沢栄一の偉業は1ミリも理解することはできない。

本作における吉沢亮と高良健吾ポジションを西田敏行と武田鉄矢が演じた「雲を翔びこせ」なんてクセの強いドラマもあったが、まだまだ定番の人物像が固まっていない、ドラマ未開拓のキャラといえるだろう。

幕末〜明治のドラマになぜ徳川家康が

そんな渋沢栄一を大森美香はどう料理するのか?

第1話に関しては、吉沢亮演じる青年・渋沢栄一の姿をチョロッと見せつつ、子ども時代に戻り、大物っぷりを感じさせる破天荒エピソードや将来の結婚相手との交流。生き方に大きな影響を与えられる人物との出会いを描き……と、大河ドラマのお約束をキッチリおさえた手堅い内容だった。

子ども時代の栄一(小林優仁)はザ・天真爛漫といった感じで(「あさが来た」の主人公・あさのおてんばっぷりを表現していた木登りが今回も登場!)、わりと死んだような目をしたタイプの役柄を演じることが多い吉沢亮が、あの天真爛漫さをどう引き継いで演じていくのかも注目だ。

しかし驚いたのは、いきなり徳川家康(北大路欣也)が登場したこと。幕末~明治時代を描くはずのドラマに家康!?
ご先祖様の亡霊的な変なギミックなのかと困惑したが、どうやら複雑な明治維新を理解してもらうため、江戸時代から明治時代までを俯瞰して紹介するナビゲーターとしての登場らしい。

「よく明治維新で徳川は倒され、近代日本が生まれたなんて言われますが、実はそう単純なものじゃない」

悔しさをにじませながら家康は語る。確かに明治維新は、突然現れた近代的な思想を持つ反・幕府組織によって旧態依然とした徳川幕府が倒されたという単純な話ではない。
関ヶ原の戦いから延々と続いてきた薩摩藩や長州藩との因縁が複雑に絡み合っての出来事なのだ。それを解説するナビゲーターは徳川家康こそ適任なのかもしれない。

最後の将軍・徳川慶喜のややこしさ

幕府側からの明治維新を描くにあたってキーパーソンになってくるのが、徳川最後の将軍・徳川慶喜(草なぎ剛)。第1話では渋沢栄一と同レベル、もうひとりの主人公級の扱いで描かれていた。

幼き日の慶喜・七郎麻呂(笠松基生)は聡明そうな空気をビンビンに放っているお子さん。彼に帝王学を仕込んだのが、父親である徳川斉昭(竹中直人)だ。水戸藩主で、「そう単純なものじゃない」を体現したような人物である。

水戸藩といえば「水戸黄門」でお馴染みの徳川光圀。ドラマで描かれる諸国漫遊のイメージは、光圀が「大日本史」を編纂するため、各地に家臣を送ったことから生まれているという。
で、日本の歴史を研究しつくした結果たどりついたのが、「日本は天皇の国だ!」という結論。徳川幕府が日本を支配している時代に! しかも水戸藩は徳川の親藩なのにだ。
その子孫である斉昭は、尊皇攘夷思想をさらに発展させた水戸学を確立。幕末の志士たちの思想に大きな影響を与えて、結果的に江戸幕府を終わらせる原動力となってしまう。

「謀反? 何をバカな……。この私がどれだけ日本のことを案じておるか、なぜ上様にはわかって頂けぬのか」

外国からの圧力が強まる中、日本のことをメチャクチャ案じていたのは事実だろうが、斉昭にとってその日本の君主は将軍ではなく天皇なのだ。
そんな斉昭から食事や水分の摂り方、眠り方、痔の対処法まで叩き込まれた七郎麻呂が、後に徳川最後の将軍となっていく。

第1話冒頭で、渋沢栄一と徳川慶喜の出会いが描かれていたが、草なぎ剛演じる青年となった慶喜は、幼少期のキレ者感はそのままに、どこか闇を感じさせるような表情が印象的だった。
幕末の動乱に翻弄されまくる慶喜の人生を暗示しているようだ。

三宅裕司の登場は……

「青天を衝け」では、渋沢栄一と徳川慶喜を中心に明治維新が描かれていくと思われるが、正直、渋沢栄一は一般的にイメージする明治維新にはあまり絡んでおらず、本格的な活躍は明治時代になってからだ。

一方、徳川慶喜のハイライトはやはり大政奉還ということになるだろう。

本木雅弘主演の大河ドラマ「徳川慶喜」も大政奉還~江戸城の無血開城で終わってしまっているため、渋沢栄一は登場していない。

これまでドラマなどでほぼ描かれることのなかった明治時代以降の徳川慶喜の姿。そして渋沢栄一との絡みがどう表現されていくのか。

そして栄一は享年91歳と、当時としてはメチャクチャ長生きしている。何歳までを描く予定なのかは分からないが、さすがに晩年まで吉沢亮が演じるというのは無理があるだろう。「あさが来た」で五代友厚役を演じていたディーン・フジオカが、同役で出演することも発表されていることだし、年を取った栄一は三宅裕司が……さすがに視聴者もずっこけるか。

どうしても“敗北の美学”という側面のみで語られがちな、徳川側から見た明治維新。

家康が「古くなった時代を閉じ、今につながる日本を開いたこの人物(渋沢栄一)こそ、我が徳川の家臣であった」と語っていたように、幕末ドラマのお約束を大きく変えてくれるかもしれない。

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
ドラマレビュー