「愛の不時着」14話「不時着」ってそういう意味だったの!?「北朝鮮への不時着」だけではなかった

日本で「第4次韓ドラブーム」が巻き起こした、Netflixで配信中の韓国ドラマ「愛の不時着」を全話レビュー。軍事境界線を守る朝鮮人民軍のエリート大尉と韓国の財閥令嬢の極秘の恋を軸に物語が進みます。ジョンヒョクを助けて代わりに銃弾を受けてしまうセリ。タイトルに込められた意味が明かされます。

ジョンヒョクとセリ、二つの本心

「愛の不時着」第14話。一気に事態が動く濃密な回だった。そこで描かれていたのは「本心」を伝えることの大切さだったと思う。ひとつずつ振り返っていこう。

銃弾を浴びてしまったユン・セリ(ソン・イェジン)は病院に運び込まれるが意識不明のまま。彼女を守るために戦ったリ・ジョンヒョク(ヒョンビン)のモノローグが被さる。兄を亡くし、ピアニストになる夢も断たれたジョンヒョクは、未来を夢見ぬ人生を送ろうとしていた。

「それ以来、ぐっすり眠ることもなく、冗談も言わず、演奏もしなかった。そして誰も愛さなかった。ある日、僕の世界に不時着した、君に会うまでは。そんな人生だった」
「でも、今後は、つらくてもかまわないから、君がいる人生を送りたい。かなわぬ夢でもいいから、未来を夢見てみたい。だから、死なないでくれ」

セリに生きてほしいと心から願ったからこそ、もっとも純度の高いジョンヒョクの本心が表れた。第5話では「将来のことは考えない」「考えてた将来と違ったら悲しくなるから」と言っていたジョンヒョク。誰も愛さなければ、傷つくことはない。だけど、今はセリを愛することでジョンヒョクは大きく変わった。今は未来に希望を託している。未来はいつだって不安定だ。だからこそ、人は前を見て必死に生きていく必要がある。

このセリフから、「愛の不時着」というタイトルが「北朝鮮への不時着」であるとともに、「ジョンヒョクの世界への不時着」を指していることもわかる。心を閉ざして生きていた彼の世界をこじあけたのがセリだったのだ。

セリを心配しているのはジョンヒョクだけじゃない。第5中隊の面々も心から彼女の容態を気にしている。彼らが戦う場所に着てきたスーツは、セリからプレゼントされたものだった。スーツを単なる出落ちネタにしないところがこのドラマの丁寧なところ。ちょっとしたサイズの違いを気にしたり、ピョ・チス(ヤン・ギョンウォン)の言葉を肯定したりするセリ。そこにはたしかに温かな心と心の交流がある。

自分までもらってしまって、と恐縮するチョン・マンボク(キム・ヨンミン)にセリはこう言う。

「ウピルからお父さんの教えを聞きました。“友達とは仲よく”って。なのに私は否定したんです。“世の中はそんなに美しくない。先にパンチを食らわせなさい”って。でも内心は、お父さんの教えが正しいといいなって。そう思いました」

“友達とは仲よく”というのは、北朝鮮と韓国のことでもある。セリはため息をつくように本心を吐露する。「美しい世の中になってほしい。そうなれば、連絡ぐらい取れるのに」

セリの意識が戻った。最初のひと言が家族に対する「出てけ」というのが実に彼女らしい。セリの悪態にも嬉しそうにしている長兄夫婦に対して、忌々しげな次兄夫婦の温度差が明らか。

セリが一番会いたいのは家族ではなくてジョンヒョク。彼を呼ぶ言葉は、これまでになくストレートだった。「早く来て。会いたい」。抱擁をかわす二人。そして、ついにジョンヒョクが言う。

「愛してる」

これがずっと伝えたいと思っていた本心。傷ついたセリを抱きかかえたとき、まだ伝えていなかったと気づいた言葉だった。ようやく本当の気持ちを言葉で伝えることができた。偶然……じゃなくて、運命に導かれて出会った二人の絆はより深まっていく。

セリが一番会いたいのは家族ではなくてジョンヒョク/Netflixオリジナルシリーズ「愛の不時着」独占配信中

ク・スンジュンとセリの母の本心

本心を伝えた人物がもうひとり。北朝鮮にいるク・スンジュン(キム・ジョンヒョン)だ。呼び出されたソ・ダン(ソ・ジへ)は「一度ぐらい本心を言って」と迫る。

「ダンさんは、きれいだ」
「それから?」
「どんな髪型でも似合うし、夜中にすっぴんで出てきても、女神みたい。俺を救ってくれた時のようなカッコよさもある」

婚約者だったジョンヒョクに去られたソ・ダンは自尊心がズタズタになっていたことだろう。今はク・スンジュンの言葉が心の傷を癒やしてくれている。思わず一歩近づいて、「それから?」と促すところが可愛い。

ク・スンジュンの言葉を聞いているうちに、ダンの感情がせりあがってきているのがわかる。ついにダンからキスを求め、ク・スンジュンからもキスをする。ダンはその前に酔い潰れた母親から「自分の思うように生きて、幸せになりなさい。それだけよ」という本心を聞いていた。そのことも、この大胆なキスにつながっていたのだろう。

セリの母、ジョンヨン(パン・ウンジン)もずっと胸に抱えてきた本心を吐露する。彼女の言葉はマンボクが病室に仕掛けた盗聴器とICレコーダーが伝えてくれた。盗聴はもはやマンボクのライフワークのようだ。

意識が戻らないセリの前で、ジョンヨンは涙していた。生後一ヶ月でセリと出会ったジョンヨンだが、彼女はセリを愛することができなかった。だから、真夜中のドライブに喜んでついてきたセリを海辺に捨てた。自分の行動を悔やんで戻ったときには、もうセリは運ばれた後だった。あれから数十年、二人の感情は行き違いのまま。

「私の人生が地獄だったのは、あなたではなく私のせいだった」
「私を愛してくれるあなたを憎むことで自分を傷つけてたんだと思う」

ジョンヨンは夫に愛されていないことがわかっていた。でも、家から出ることもできない。彼女にできるのは、夫がどこかの誰かに産ませた娘を憎むことぐらい。だけど、そんな母を幼いセリは抱きしめる。「泣かないで。私が守ってあげる」

「“ごめんなさい”も“ありがとう”も言いたい」
「あなたが実家に来てくれるたびに、本当はうれしかったって言いたいの」

ICレコーダー越しに母の本心を知って嗚咽するセリ。あらためて、本心を伝えることの大切さがよくわかる。本心を伝えるには、まず自分を見つめ、本心を知る必要がある。あとは直接伝えるもよし、ICレコーダーを使ってもよし。

ジョンヒョクがセリに自分の傷を自慢してからキスするシーンはファンにも人気の場面。その後も献身的にセリの世話をするジョンヒョクを見て、ピョ・チスが「こんな中隊長の姿は想像もしなかった」とぼやくが、それもそのはず。誰も愛さず、淡々と生きてきたジョンヒョクはもうどこにもいないのだから。

「明日も会えると思いながら生きよう」

ついでに次兄のセヒョン(パク・ヒョンス)も本心をさらけ出している。マンボクが仕掛けた盗聴器とICレコーダーの活躍によって、セヒョンと妻のサンア(ユン・ジミン)がチョ・チョルガン(オ・マンソク)と通じてセリをなきものにしようとしていた計略が家族全員に露見したのだ。激昂する父の前で、エゴイスティックな本心をぶちまけるセヒョン。彼に平手打ちをするのはセリではなく、母のジョンヨンだった。

慌ただしく事態が動き始めていた。韓国の警察と国家情報院が北からの侵入者を捜査しはじめ、北朝鮮では軍事部長が総政治局長を揺さぶりはじめていた。

ク・スンジュンのもとにも追手が迫る。追い詰められ、これまでとはまるで違う苦悶の表情を浮かべるク・スンジュン。刹那的に生きているときと、愛する者ができた後では現世への執着はまるで違う。

ソウルではジョンヒョクがチョ・チョルガンと対峙するが、警察と国家情報院に囲まれてしまう。狙撃手に狙われて動きが止まったジョンヒョクに、チョ・チョルガンが不意打ちをくらわせようとして――。

エピローグはジョンヒョクからセリへのICレコーダーを使ったメッセージ。睡眠薬の代わりに「兄に捧げる曲」をピアノで弾く。彼がピアノに向かうのはスイス以来のこと。ジョンヒョクは愛する人を得て大きく変化したのだ。でも、いつまでも一緒にいることはできない。だからメッセージを残すことにした。

「僕も前を向くよ。だから、明日も会えると思いながら生きよう」

「明日も会える」のではなく「明日も会えると思いながら」というのがせつない。棚に食べ物を入れるが、セリの背では届きそうにないと気づいて低い場所に入れ替える。つまり、自分はもうここを去るということ。

「よく食べ、よく眠り、元気に過ごす。そしてまた明日も会えるような気持ちで楽しく生きよう」
「そう過ごすうちに、人生が楽しくなりすぎて僕を忘れてもいい。それでも、僕は大丈夫だから」

ジョンヒョクのメッセージを聞いたはずのセリの姿は映らない。セリはどう思って聞いているのか? そもそもジョンヒョクは無事なのか? もう終わっちゃうけど、早く続きが観たい! デデン!


■「愛の不時着」全話レビュー
1:「愛の不時着」一度ハマったら抜け出せない底なしの沼。全話徹底レビュースタート
2:「愛の不時着」2話。ユン・セリの胆力「あんたなんか怖くないわ。掘った穴に自分で入れば?」
3:「愛の不時着」3話。「月の光」はリ・ジョンヒョクによく似合う
4:「愛の不時着」4話。セリのために掲げたアロマキャンドル、ジョンヒョクは2020年型の王子様
5:「愛の不時着」5話。セリ「あなたには幸せでいてほしい。どんな電車に乗っても、必ず目的地に着いてほしい」
6:「愛の不時着」6話。セリ「私を運命の人だと思いたいの?」ジョンヒョク「僕の見える所にいてくれ」
7:「愛の不時着」7話。ジョンヒョクとセリ“守る者”と“守られる者”が鮮やかに反転
8:「愛の不時着」8話。ジョンヒョク「ケガはない?」自分がケガしてるのに!いつも愛する人ファースト
9:「愛の不時着」9話。ジョンヒョクがギュッと凝縮された数分間に陶然
10:「愛の不時着」10話「あの出来事を最初からもう一度繰り返してもかまわないと思えたら、それが愛だろうか」
11:「愛の不時着」11話。もっと深く「不時着沼」にひたるためのキーワード「デカルコマニー」と「ラーメン駆け引き」
12:「愛の不時着」12話。ジョンヒョク「生まれてきてくれてありがとう。愛する人がこの世にいてくれてうれしい」
13:「愛の不時着」13話。セリ「自分は自分で守る。私を信じて」いよいよラストスパート
14:「愛の不時着」14話「不時着」ってそういう意味だったの!?「北朝鮮への不時着」だけではなかった
15:「愛の不時着」15話「その選択をして、私は幸せだったわ。リさん」セリズ・チョイスからまっすぐに次回最終回
16:最終話「愛の不時着」ジョンヒョク「会いたいと心から願えば、会いたい人に会えるかと聞いたろ? きっと会える」

 

『愛の不時着』
出演:ヒョンビン、ソン・イェジン、ソ・ジヘ
原作・制作:イ・ジョンヒョ、パク・ジウン

ライター。「エキレビ!」などでドラマ評を執筆。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
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