最終話「愛の不時着」ジョンヒョク「会いたいと心から願えば、会いたい人に会えるかと聞いたろ? きっと会える」
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- 前回はこちら:「愛の不時着」15話「その選択をして、私は幸せだったわ。リさん」セリズ・チョイスからまっすぐに次回最終回
「会いたいと心から願えば……きっと会える」
「愛の不時着」をあらためて味わい尽くそうという本連載もついに最終回。「不時着」というアクシデントから始まったユン・セリ(ソン・イェジン)とリ・ジョンヒョク(ヒョンビン)の愛が見事に着地した第16話を振り返ってみたい。
冒頭は北朝鮮で銃撃されて瀕死の状態のク・スンジュン(キム・ジョンヒョン)と、韓国で危篤状態になるユン・セリ。これは「愛の不時着」に多いデカルコマニー(写し絵)描写。簡素な北朝鮮の救急車の中で、ソ・ダン(ソ・ジヘ)の本当の気持ちを聞きながらク・スンジュンは息を引き取る。最後にダンが言った言葉「あなただった」は、ずっと敬語を使い続けて距離を取っていた彼女が初めて言ったくだけた言葉だった。
一方、セリは一命を取り留める。ジョンヒョクは危篤状態のセリを見守り続けていた。食事もせず、眠りもせず、来る日も来る日も。あたかも自分の見えるところにいてくれれば安全だという自分自身の言葉を実行するかのように。いや、むしろ、それにすがるかのように。
セリの意識が戻った瞬間、歓喜に沸く人々の輪からそっと外れて身を隠すジョンヒョク。それを待っていたかのように、ジョンヒョクを連行する国家情報院のキム課長(ユ・ジュンホ)。ジョンヒョクと第5中隊の北朝鮮への送還が決まっていたのだ。
護送車の中で雨模様の外を見て「降ったりやんだりだな」とチョン・マンボクが呟くが、これは雨が降ったり、太陽が照らしたりする韓国と北朝鮮の関係を例えたものだろう(韓国による北朝鮮への緊張緩和政策を「太陽政策」と呼んでいた)。
両国の境目である「禁断線」に連行されるジョンヒョクと第5中隊の面々。そんな超ウルトラスーパーデリケートな国際政治と軍事の取引現場に泣きながらセリが突っ込んできた!(車をぶっ飛ばして連れてきてくれたのは和解した彼女の母親)。周囲を振り切って禁断線を越え、セリを抱きしめるジョンヒョク。ふたりの周囲で銃を構えて睨み合う韓国の情報部と北朝鮮の軍隊。これが「愛の不時着」というドラマを象徴する「絵」だと思う。
別れ際、ジョンヒョクはこう言う。
「会いたいと心から願えば、会いたい人に会えるかと聞いたろ? きっと会える」
ジョンヒョクの言葉はその後、見事に実現する。
「列車を乗り間違えた。そしたら着いたんだ」
ソ・ダンのスマートな復讐劇(彼女は第12話で「相手に泣かされたら、倍返ししてやるのが真の復讐」と言っていた)も良かったし、チョン社長(ホン・ウジン)もいい人だったし、セリの次兄セヒョン(パク・ヒョンス)とサンア(ユン・ジミン)夫妻に鉄槌が下ったのも胸がスッとした。セリと舎宅村のお姉さんたちとの友情も感動したし、ソ・ダンのために奔走する母(チャン・へジン)の愛情も胸に沁みた。
そんな中、セリのもとにジョンヒョクからメッセージが届く。キム課長に教えられたスマホの予約投稿でメールを送っていたのだ(キム課長、好き……)。本棚に本の背表紙を使って「ユン・セリ サランへ」の文字が残されていたのは、やっぱりやったか、という感じ。
ジョンヒョクはセリにエーデルワイスの花を贈っていた。いつか、その花が咲く国で会おうというのだ。もちろんスイスのことである。
「いつとは言えない。だけど、お互いに努力すれば運命が僕たちを導いてくれるはず」
「あなたが私を見つけるまで、祈りながら待ってる」
こんなことを言うセリだが、奨学金事業を始めたり、スイスでコンサートを行ったり、自分もスイスを訪れたりと、猛烈に自分からアクションを起こしているのがポイント。本当にじっと待っているわけではないのだ。ジョンヒョクも軍を除隊して国立交響楽団のピアニストになっていた。それでもセリとジョンヒョクとはなかなか会えない。またたく間に数年の月日が流れる。
ある年、セリがスイスでパラグライダーを試して着地してみたら……目の前にジョンヒョクが立っていた! 抱き合う二人。ジョンヒョクの手が真っ赤なツナギの背中にある「セリズ・チョイス」のロゴを抱きしめている。第1話ではツナギの上から抱きしめることはなかったのに、めぐりめぐって抱きしめることができたのだ。
「列車を乗り間違えた。そしたら着いたんだ。来たいと願い続けたこの場所に。僕の目的地に」
これはもちろん、第5話でセリがジョンヒョクに語ったインドのことわざ「間違った電車が時には目的地に運ぶ」を受けたもの。脚本家のパク・ジウンは公式サイトにメッセージとしてこの言葉を引用している。「愛の不時着」というドラマの根底にあるのは、この言葉だと考えていい。
人の人生は間違いの連続だ。時には追いつめられることもある。絶望することもある。だからといって目的地にたどり着けないわけではない。列車を乗り間違えたから到着する場所もある。それをきっと「運命」と言うのだろう。運命を手繰り寄せる「努力」も「意思」も必要だけど、間違えたからといって絶望することなんてまったくない。むしろたくさんの出会いと幸運と美しい物語は、こんな間違いから起こることもあるんだ、と。
ジョンヒョクの目的地とはセリと再会することだった。やがて二人はスイスで1年に2週間だけ一緒に過ごす道を選ぶ。ジョンヒョクは脱北して北朝鮮の家族や仲間たちを捨てることはないし、セリも自分が育てた会社や部下たちを捨てたりはしなかった。まるでセリが舎宅村でお姉さんたちに語った「織姫と彦星」のような生活。会わない間もお互いを想い続ける生活だって、きっと悪くない。
「愛の不時着」というドラマが伝えたかったこと
「愛の不時着」の魅力って何だろう、と考えてみた。「運命」をめぐるラブストーリー、美男と美女のキャスト、コミカルな脇役たち、スリリングな展開とアクション、精緻な脚本、美しいロケーション……本当にたくさんあるけれど、やっぱり大切なのはドラマを通した「視点」であったり、「伝えたかったこと」なんじゃないかと思ったりする。列挙するとこんな感じ。
選択の大切さ。間違っていても良いという大らかさ。
韓国と北朝鮮の人々は国境で隔てられているけど「同じ人間」だということ。
人ってのは温かい存在であるということ。
でも、非情な人間もいるということ。
家族の愛情が人を支えるということ。
愛情が人を良い方向に変えるということ。
身分や立場を超えた友情があるということ。
善意が人を救うことがあるということ。
食べることと眠ることの大事さ。
小さな幸せを大切にすること。
女性の意思を尊重し、守り続ける男性がいるということ。
能動的に動き、男性を愛し続ける女性がいるということ。
などなど。
こんなにたくさんの要素を全16話というボリュームで届けてくれた「愛の不時着」というドラマに感謝したい。コロナ禍で気持ちがささくれ立っていたり、落ち込んでいたりしていた時期にめぐりあった幸運もあるかもしれない。
すでに5周、10周している熱烈なファンもいるように、「愛の不時着」は何度見ても面白いドラマだということはこの連載を通じてあらためてわかった。まだしばらくはこの温かく美しい沼に首まで浸っていたいと思う。
■「愛の不時着」全話レビュー
1:「愛の不時着」一度ハマったら抜け出せない底なしの沼。全話徹底レビュースタート
2:「愛の不時着」2話。ユン・セリの胆力「あんたなんか怖くないわ。掘った穴に自分で入れば?」
3:「愛の不時着」3話。「月の光」はリ・ジョンヒョクによく似合う
4:「愛の不時着」4話。セリのために掲げたアロマキャンドル、ジョンヒョクは2020年型の王子様
5:「愛の不時着」5話。セリ「あなたには幸せでいてほしい。どんな電車に乗っても、必ず目的地に着いてほしい」
6:「愛の不時着」6話。セリ「私を運命の人だと思いたいの?」ジョンヒョク「僕の見える所にいてくれ」
7:「愛の不時着」7話。ジョンヒョクとセリ“守る者”と“守られる者”が鮮やかに反転
8:「愛の不時着」8話。ジョンヒョク「ケガはない?」自分がケガしてるのに!いつも愛する人ファースト
9:「愛の不時着」9話。ジョンヒョクがギュッと凝縮された数分間に陶然
10:「愛の不時着」10話「あの出来事を最初からもう一度繰り返してもかまわないと思えたら、それが愛だろうか」
11:「愛の不時着」11話。もっと深く「不時着沼」にひたるためのキーワード「デカルコマニー」と「ラーメン駆け引き」
12:「愛の不時着」12話。ジョンヒョク「生まれてきてくれてありがとう。愛する人がこの世にいてくれてうれしい」
13:「愛の不時着」13話。セリ「自分は自分で守る。私を信じて」いよいよラストスパート
14:「愛の不時着」14話「不時着」ってそういう意味だったの!?「北朝鮮への不時着」だけではなかった
15:「愛の不時着」15話「その選択をして、私は幸せだったわ。リさん」セリズ・チョイスからまっすぐに次回最終回
16:最終話「愛の不時着」ジョンヒョク「会いたいと心から願えば、会いたい人に会えるかと聞いたろ? きっと会える」
『愛の不時着』
出演:ヒョンビン、ソン・イェジン、ソ・ジヘ
原作・制作:イ・ジョンヒョ、パク・ジウン
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