綾瀬はるか×高橋一生「天国と地獄」最終回。陸、なんなの?ナッツでサヨナラってどういうこと?

綾瀬はるか×高橋一生「天国と地獄 ~サイコな2人~」最終話。思い込んだら一直線で失敗も多い刑事の望月彩子(綾瀬はるか)と創薬ベンチャー企業コ・アース社社長でサイコパスな殺人鬼と思われていた日高陽斗(高橋一生)。入れ替わりから元に戻り、日高が逮捕されてしまいます。本当の犯人は誰なのか、最後の最後まで脚本に踊らされた10話を振り返ります。

「天国と地獄~サイコな2人~」最終回は、20.1%の有終の美。放送から数日経っても、いまだに興奮の感想が聞こえてくる。日高(高橋一生)・東(迫田孝也)兄弟の天地の運命を、入れ替わりを交えて見事に描き切っていた。

だが、僕のようにネット上で考察をしていた者にとっては、顔が真っ赤になる最終回だったのも確か。勝手に深読みしては外しまくったこの数ヶ月間。ぜひ、過去の妄想赤っ恥考察記事には目を通さないでいただきたい。

納得いかない点を突き詰めると結局……

もちろん、あのシーンはなんだったんだよ? と思わないこともない。「アメリカの連続殺人事件」「近所のおじいちゃんの死」「ポンコツすぎる八巻(溝端淳平)」「女子力の高すぎる日高」「9話で突然明かされた五木(中村ゆり)の子持ち設定」「殺しの日は新月限定」などなど、数え上げればキリがない。

だが、これらはただ「そうだった」だけで説明がつく。怪しいミスリードはたくさんあったが、どれもこれも矛盾やストーリー破綻には繋がらない。副題の「サイコな2人」って誰だよ、誰が頭のおかしい奴なんだよ、と考察してきたが、なんのことはない。「サイコ」とは「魂」という意味。魂の入れ替わり、最初から答えは出ていたのだ。全ては脚本に踊らされていただけで、考察すること自体が不正解だったのだ。

どこまでも非対称な2人

このドラマが描いたのは、生まれ落ちたわずかな時間の差で天と地の運命を味わう双子、そして彩子(綾瀬はるか)や日高たちの変化だ。

彩子は、「なんか起きないかなー、連続殺人とか」と漏らすほど手柄に飢えていた。熱血で一直線な頑固者ではあるものの、純度100%のヒーローではなかった。おそらく第一話の時点では、元の自分を見失うほどの不遇を味わっていたのだろう。その不遇こそが活力でもあったわけでもあるが。

そんな彩子は、日高との入れ替わり通じて自分の正義を取り戻していく。あれほど飢えていた手柄よりも、真実を突き止めることと日高を救うことに全てをかける。身体は元に戻ったのに、魂は前とは違っていた。

日高こそ純度100%の聖人だ。人のために動き、人のために自分を犠牲にする。過去には路頭に迷っていた五木や富樫(馬場徹)を会社で受け入れており、部下たちの信頼はもちろん厚い。そんな日高は、彩子を守るために自分が異常者であるフリをする。それこそ、異常なまでの用意周到さで自分が犯人であるかのような嘘の証言を積み重ねた。しかし、死ぬ前の東が自供する動画が発見される。それでもシラを切る日高に、彩子は自分の正義を語る。

「改めて確認します。3名を殺したのは、東朔也ですね?」
「頭いいくせにどうしてわかんないかな。あなたは私だったくせにどうしてよ」

他の刑事から見られている尋問だ。体裁を保ちていねい語で語りかける彩子だったが、いつの間にか口調が変わっていく。それどころか、絶対に周りが理解し得ない入れ替わりについてまで触れる。刑事である自分、正義の自分、特別な関係である日高に対する自分、全てをさらけ出していく。なんだろう、あの綾瀬はるかの少しずつ芯に迫る感じは。ジワーっと演技の圧が強まる感じ。

自信満々で自分を崩さない日高が、彩子の思いに揺さぶられて涙を流す。ガクガクと痙攣するように震え、「はい」とつぶやき自供。優秀で完璧な日高が、初めて人に何かを委ねる瞬間なのではないだろうか。シリアルキラーに見えたグリグリな目ん玉がこんなにも弱々しい。役柄も演技も感情の流れも、どこまでも非対称な2人だ。

ナッツでサヨナラ。最後まで謎めいた陸

陸(柄本佑)が彩子の元を去った。この理由がどうしてもわからない。思えば陸も変化した人物だった。視聴者に黒幕と疑われるほどいつも飄々としていたが、彩子、日高、東、そして事件の中に正解を見つけられない。日高に嫉妬をしたのか、証拠となるSDカードを隠そうとしてしまう。

結果的に東の思いを尊重し、SDカードを提出するも、胸を張って彩子に伝えることができない。彩子に「陸はいつも私のこと助けてくれるから」とお礼を言われても、「ししししし」と笑って誤魔化す。照れていたのか、それとも彩子が思うほど強くいられない自分が情けないのか。

「ナッツはね、駅の向こう側のスーパーの方がお買い得だから。152円も違うんだよ。それだけは絶対に忘れないで」

陸が言った別れの言葉だ。彩子は真に受けて「買っておくね!明日はナッツでハイボール」と答えるが、やっぱり陸は「ししししし」と笑うだけ。きっと、2人のお決まりのナッツは陸が買っていたのだろう。購入先を教えるのは陸なりの自分がいなくなるというメッセージだ。そして、ナッツは日高がアレルギーで食べられないものでもある。陸は知らないだろうが、そういう意味でも2人だけのナッツなのだ。

過去に陸は「俺は彩子ちゃんを守るためだけに生きてきた」と言っている。そんな陸が彩子の元を去った。守れないと判断したのか、自分には相応しくないと感じたのか、日高と彩子の関係を思ったのか、正直、陸の気持ちはわからない。

多くの謎を身に纏い、黒幕候補として視聴者を混乱させ続けた陸が、全てが明かされた結末でもう一つ謎を残して去っていく。なんかこのドラマを象徴するような人物だなぁと、思う。

企画、動画制作、ブサヘア、ライターなど活動はいろいろ。 趣味はいろいろあるけれど、子育てが一番面白い。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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