「天国と地獄」1話。高橋一生が役者・綾瀬はるかそのものを憑依させた!

綾瀬はるか×高橋一生「天国と地獄 ~サイコな2人~」。思い込んだら一直線で失敗も多い刑事の望月彩子(綾瀬はるか)と創薬ベンチャー企業コ・アース社社長でサイコパスな殺人鬼の日高陽斗(高橋一生)が入れ替わる!? 遺体の口内にパチンコ玉が詰められた、猟奇的殺人の犯人として、日高に目をつけた彩子。ラストまで目が離せなかった1話を振り返ります。
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綾瀬はるか、高橋一生W主演のTBS日曜劇場「天国と地獄 ~サイコな2人~」がスタート。15分拡大で放送され、視聴率は16.8%。さすがは名作製造枠の日曜劇場だ。

謳い文句は“入れ替わりエンターテインメント”。「転校生」「君の名は。」などなど、人格の入れ替わりは、もはや一つのジャンルと言ってもいい定番のテーマだ。これを、綾瀬はるか主演「義母と娘のブルース」「JIN-仁-」など、数え上げればキリがないほど人気作を手掛けた脚本家・森下佳子が原作なしで手掛ける。役者から放送枠から脚本家から、まさに盤石だ。

入れ替わりのためにキャラを熟成させた60分間

「綾瀬はるかと高橋一生が入れ替わる」という情報は放送前から拡散されており、多くの視聴者はそれを前提に第一話を視聴することとなった。約束されたオチなわけで予想外でも何でもないハズなのに、入れ替わりシーンはハードルをしっかり超えてくる。

2人の入れ替わり演技が笑っちゃうくらいハマっていた。高橋一生は綾瀬はるかにしか見えないし、綾瀬はるかは高橋一生にしか見えない。ちょっと脳が混乱するような体験だった。それを作り上げたのは、2人の演技力と入れ替わりまでの60分間だろう。

警視庁捜査一課の刑事・望月彩子(綾瀬はるか)は、その真面目で上昇志向の強い性格が周りに煙たがられていた。過去のミスから半分謹慎状態だった彩子だが、遺体の口にパチンコ玉を詰められた猟奇殺人事件の捜査に取り組むチャンスを得る。

他の刑事が苦戦する中、持ち前の洞察力と執着力で犯人である創薬ベンチャー企業の社長・日高陽人にたどり着く。しかし、捜査一課主任で彩子の天敵である河原(北村一輝)に、捜査の主導権を横取りされてしまう。

彩子は犯人逮捕のためなら違法行為も厭わない河原に抗議するが、逆に自分が逮捕することに執着していたことを指摘され、本物の正義について考えさせられる。実直ではあるものの安直でもあった彩子のキャラクター性が掘り下げられた重要なシーンだ。ここまで綾瀬はるかは、ちょっとウザいくらい強めに真っ直ぐな演技をしていた。

あり得ない行動がすんなりと受け入れられる理由

一方の日高は、高橋一生ってこんなに目がまん丸だったっけ?ってくらいギョロっとした目を見せる。表情の切り替わりも心のない笑い声も、犯人の割にはあっさりとボロを出す様も気味が悪い。知り得ない情報を口にしたり危うい行動も多々見せたが、そこにはどこか余裕が漂った。

アメリカでも連続殺人事件の容疑者だったとあったが、警察との駆け引きを楽しんでいるようだ。捕まったら捕まったでそれは運命だし、自由に殺せるならそれはそれで楽しい。そんなタイプの猟奇犯なのだろう。

60分間かけて描かれた2人の人間性は、入れ替わりにより、2人の役者がお互いに受け継いだ。入れ替わったきっかけは、彩子が日高を追い詰めて一緒に階段から落ちたこと。おそらく「転校生」へのリスペクトだろう(場所が四ツ谷がらみなのは「君の名は。」リスペクトか?)。

病院で目を覚ました日高(演じるのは綾瀬はるか)の第一声は、「どこまでついているんですかねぇ、私は」。入れ替わり物史上でもなかなか例を見ない受け入れの早さ。この超常現象に一切戸惑わない。

お見舞いに来た彩子の部下・八巻(溝端淳平)を相手にしても、変に彩子風の演技をせず、ありのまま、日高のままで会話。彩子ではありえない、ポエミーな語りまで見せてしまう。

通常ならあり得ない落ち着きぶりと器の大きさ。だが、高橋一生が60分かけて作り上げた“どこか余裕があって運命を受け入れそう”というキャラクターが生きているため、違和感がまるでない。完全に役柄のバトンタッチに成功している。

もはや“気持ち悪い”という領域の演技力

別室で目を覚ました彩子(演じるのは高橋一生)。こちらは入れ替わりのお決まり通り、ちゃんと受け入れられないし、ちゃんと混乱する。日高(演じるのは綾瀬はるか)とちょっと違うのは、混乱するシーンがこれまでの60分でなかったことだ。なので、この演技が彩子っぽいかどうかは正直わからない。だが、その姿はあまりにも綾瀬はるかだった。鏡を見ながら顔を手でぐにゃ~と歪める高橋一生、それが綾瀬はるかに見えて仕方ないのだ。

高橋一生の見た目をした人間が、ドラマで、映画で、CMで、何度も見たあの綾瀬はるかにそっくり。脳が混乱、ちょっと気持ち悪くすらある。役作りに定評のある高橋一生だが、一体どれだけ綾瀬はるかを見まくったのだろう。高橋一生は役柄を憑依させたのではなく、役者を憑依させたのだ。

もちろん、入れ替わり前の60分の演技が無駄だったわけではない。2話以降で彩子は、現状を受け入れて落ち着きを取り戻すハズだ。その時、ちょっとウザいぐらいに実直だった綾瀬はるかの演技がバトンタッチされる。「男勝りな女性」を男の高橋一生が演じる、もうよくわからないことになっているが楽しみで仕方ない。

どう話が展開されるのか予想もできない「天国と地獄」。2話では、日高(演じるのは綾瀬はるか)が彩子(演じるのは高橋一生)に、「出頭して一生を塀の中で過ごすか、それとも自分と協力して容疑を晴らすか」と二者択一を突きつける。

2話以降も「telling,」でレビュー掲載予定。主人公2人の表記を日高(演じるのは綾瀬はるか)、彩子(演じるのは高橋一生)とするか、それとも思い切って日高、彩子とシンプルにするかですごく迷う。

次回はこちら:綾瀬はるか×高橋一生「天国と地獄」2話。「月と太陽の伝説」から怪しむべき人物がもうひとり!

企画、動画制作、ブサヘア、ライターなど活動はいろいろ。 趣味はいろいろあるけれど、子育てが一番面白い。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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