「俺の家の話」7話。山賊だっこ・寿一の“大きさ”は、俳優・長瀬智也の大きさ

長瀬智也がプロレスラーであり何代も続く能楽師の跡取りでもあるという観山寿一を演じる「俺の家の話」。7話では父・寿三郎(西田敏行)の認知症が進行している疑いが……。また、能を楽しんでいる息子・秀生の親権問題も浮上中。父との間、息子との間にそれぞれ問題を抱えた寿一はいったいどうなるのでしょうか。

ふと入り込む介護の現実

「俺の家の話 旅情編」と名付けられ、番外編、特別編の趣もあった前回6話。楽しく終わった旅から戻った7話では、現実が待っていた。寿三郎(西田敏行)はリハビリに前向きになり、寿限無(桐谷健太)は体験入門のお弟子さんに稽古をつけ……平和な日々が続くかに思えたが、問題も山積している。

秀生(羽村仁成)の親権をめぐってユカ(平岩紙)と争うこととなった寿一(長瀬智也)。話し合いの場で、離婚の理由を「家庭を顧みなかったから」と語る寿一に、ユカは「むしろ顧みんといてほしかったわ」と自分に対して一度も向き合ってこなかった寿一を責める。さらに「私が離婚決めたんはなあ、アメリカ行ったからちゃうよ、アメリカから帰ってきたからや」と言い放つ。

父・寿三郎にも問題が発覚。貴重な能の面や装束が複数なくなっていることがわかり、観山家の面々は認知症の症状である物盗られ妄想によるものと結論づける。このドラマの視聴者には半ば当たり前になってしまっているが、シリアスと笑いが交互に入り乱れる家族のやりとりのすごさ、貴重さを、家族の話し合いの場になぜか同席していたプリティ原(井之脇海)という部外者の目が教えてくれる。親族にたらい回しにされたという原の祖母のエピソードにふと現実が入り込む。末広の「泣きながらやっても、笑いながらやっても、介護は介護ですからね」の言葉が重い。

寿一=長瀬智也の“大きさ”

家族集合の場ではもうひとつ、原の「二人、付き合ってるんですかあ?」の質問が絶妙だった。さくら(戸田恵梨香)を挟んで寿一と踊介(永山絢斗)が並んでいるから、踊介の「さくらが自分に思いを寄せているのでは」という誤解は継続したままだ。一方、さくらからストレートに思いをぶつけられた寿一は困るばかり。

しかし、インスタントラーメンを一緒に作る作業や、その後の話し合いを通じて寿一とさくらの二人は互いをより理解し合い、向き合うようになる。さくらのラーメンの作り方に対する寿一の驚きを丁寧に描いているのがいい。他人が互いの違いを知り、向き合う姿がここに凝縮されている。

家庭に向き合ってこなかった寿一のことを知り、寿一の2LDKのマンションには収まらない”大きさ”を知り、それでもその大きな寿一に山賊だっこで“のぼった”ことのある自分は、大きさを理解したうえで好きだというさくら。寿一の“大きさ”は、俳優・長瀬智也の大きさにも通ずる気がする。シンプルに言えば、存在感。役のためにプロレスの技を華麗に決めるまでになり能の稽古も積むという、役に向き合い、努力することをいとわない姿勢。主演俳優の“大きさ”を活かし、ホームドラマでありながらそこから大きくはみ出したいろいろを内包しているこのドラマの“大きさ”も同時に感じる。

長男の仕事を果たす寿一

家族の話し合いの場では、こんな発言もあった。介護ヘルパー末広(荒川良々)による「親族にしかわからない伏線があるんです。見逃してない? 伏線。回収して! 伏線、伏線!」。そういえば冒頭、寿一が「長男の俺はやることがない」とぼやいていたまさにその時、能面泥棒となる体験入門の男がちゃんと映り込んでいる。伏線、見逃していた!
その泥棒に、能のすり足で音を立てずに近づき、プロレスの技で仕留めた寿一。能とプロレス、両方ができる彼だからこそ、泥棒をつかまえられたのだ。寿一はここで、長男にしかできない仕事を果たしたことになる。

部屋を探るための口実として半ばむりやり実行した検査入院で、寿三郎の状態は要介護1から要介護2になってしまった。寿三郎の秀生への思い、秀生の能への思いを受け止めていた寿一。「将来とか知らねえし、親権とか要らねえわ、今会わしてやりてえの」「能の稽古をさせてやってください。せめて親父が死ぬまでは」。ここにきて寿一は、もしかすると初めてユカと正面から向き合う。その姿勢を受け入れるユカ。

おりしもその頃、能の稽古ができないことにフラストレーションを抱えた秀生は、フリースクールの授業中に走り回ってしまう。それを迎えに行った寿一は、「僕のお父さん」の作文に涙をこぼす。つけていた布マスクをそのまま目元にあてがい、乱雑に涙を拭く描写は今この時期のドラマでなければ生まれなかっただろう。

余談だが、寿一を「濃いお父さん」、ユカの再婚相手早川(前原滉)を「薄いお父さん」と呼び、秀生の爆発もしれっと受け止めるフリースクールの先生(伊藤修子)はなかなかすごい教育者なのではないだろうか。

「僕のお父さん」の作文がナレーションで流れるなか、映像ではスーパー世阿弥マシンが次々とすごい技を決め続ける。メインは作文だろうに、なんという贅沢……と思っていると、世阿弥マシンはまさかのブリザード寿の十八番、「寿固め」で観戦しているさくらに向かって「必ず幸せにしまーす!」とプロポーズ。8話以降、寿一とさくらの関係はどうなっていくだろうか。

そういえば寿三郎の部屋を探っている最中、遺言状と同じ場所から、寿一はブリザード寿の記事に付箋を貼った「週刊プロレス」を見つける。一瞬だけれど、寿三郎の思いをこっそり受け取る素敵なシーンだった。

次回はこちら:「俺の家の話」8話。長瀬智也にゆかりのあるゲストが次々やってくる!はなむけのようなドラマ

ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
漫画家・イラストレーター。著書に『ものするひと』『いのまま 』など。趣味は自炊。
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