長瀬智也×西田敏行「俺の家の話」5話。家族全員がハードルを乗り越えようとするこのプロセス!

長瀬智也×宮藤官九郎「俺の家の話」5話。過去の楽しい思い出を越えようと、寿一(長瀬智也)は家族旅行に行くための努力を重ねます。しかし寿三郎(西田敏行)の健康問題、自分の出生を受け止めきれない寿限無(桐谷健太)、さくら(戸田恵梨香)にスーパー世阿弥マシンの正体がバレる……と、問題は山積。観山家は無事家族旅行に行けるでしょうか。

バラバラの家族をまとめる切り札、家族旅行

「YES! 子どもだって能」での寿限無(桐谷健太)の道成寺は無事終わった。けれど実際の寿限無は、釣鐘から出てきたら大蛇ならぬ、まわりに噛みつく反抗期の息子に変身していた。5話冒頭、それぞれがバラバラのことを考えている食卓のシーンで、寿限無と大洲(道枝駿佑)がともに反抗期であることや、さくら(戸田恵梨香)と踊介(永山絢斗)の恋の矢印など、家族の現在が端的にあらわされる。その中に「目玉焼きにケチャップ」や「東京生まれHIPHOP育ち」などの筋に関係ないごちゃごちゃした雑念が混じっているのがまたいい。

このバラバラの家族を一気にまとめる切り札のようにして寿一(長瀬智也)は家族旅行を提案する。主治医(小松和重)に「なんでそんなに旅行にこだわるの」と問われた寿一が「これしかないから、親父が笑ってる写真」「認知症とか相続とか隠し子とかいろいろあった俺たちが、いろいろ踏まえて笑えるか、確かめたくねえか?」ととうとうと語る。25年というあまりにも長い空白と、家に戻って早々様々な問題を抱える寿一。その彼が、あらゆることを乗り越えて家族をやり直そうとしているのだ。

にしたって、寿一にとって、母親の記憶があまりにも希薄なのは少し気に掛かる。どうしても乗り越えたいほどの思い出だったハワイ旅行に母がいたこと自体、全く覚えていないとは。

数値のために努力するプロセスこそが家族旅行の意義

この家族と旅行に行くには、いくつかハードルがある。まずは寿限無のこと。寿一はデスメタルをかけて部屋に引きこもり、「あんたらがブルーレイ観る時俺はDVD」と卑屈になる寿限無をさんたまプロレスのリングに連れ出し、思いっきり自分を殴らせる。寿限無の「親父の跡を継ぎたいならプロレスじゃなくて能で俺に勝ってみろよ」という言葉は、さくらがスーパー世阿弥マシンの正体を見破っていること、寿一に「好き♡」とい言ったことと重なってさらりと流れていった。けれども今後大きな問題になっていくのではないだろうか。

もうひとつのハードルは、なんといっても寿三郎の健康問題。「何かあったら」と反対する主治医(「家元の舞台、また見たいし。今回は見送りませんか」という言い方なのがやさしい)。けれども寿一の熱意におされ、家族がひとつになっていく。音楽含め、「ロッキー」のトレーニングシーンをなぞったモンタージュが挟み込まれる。「ロッキー」はピークを過ぎたボクサーが蘇る物語だが、このドラマでは脳血管性認知症を患った父親が、血圧や体重などの数値のために頑張るというものだ。映画よりもずっと泥くさい挑戦だけれど、挑むのは寿三郎一人じゃない。寿限無も含めた家族全員がなんとかハードルを乗り越えようとするこのプロセスこそが、本当に寿一が求めていたものだし、家族旅行の意義なんだろう。だから、主治医が示した数値をクリアした瞬間の写真で、すでに「もっと笑顔の写真」という目標を達成したかのように見える。けれど、やっぱり旅行には行かなくてはならない。その写真には寿限無が映っていないからだ。
ちなみにこのシーン、入浴介助の練習で声を荒らげるヘルパー・末広(荒川良々)の献身と達成したときの喜びようには、笑わされつつ、ひっそり胸を打たれる。

そして旅行出発当日。寿限無の「どこ乗ればいいの」に「俺の隣だよ」と笑う寿一。家族として扱われたことのなかった寿限無には車での定位置なんてなかったのだろう。でも寿一は寿限無を兄弟として受け入れている。寿限無の迷いと寿一の決意がこの二言で伝わってくる。

のしかかる家の大きさ

大洲に「親の介護もあんたの人生なんだよ」と言ってしまう舞(江口のりこ)は身勝手だが、自分にまさに降りかかっている介護に対する実感がこもっている。一方、「血の繋がった子だけ育てるってエゴイストみたいじゃないですか」というだけの理由で親権を主張する早川(前原滉)はまだ子育てを自分ごとにできていないように見える。跡取りとしての寿一と寿限無の関係性が大きく変わる、寿三郎との血の繋がり。二十八世の問題が解決していない段階で、次の世代になりうる秀生(羽村仁成)の問題もまた同時進行している。さかのぼれば、寿三郎(西田敏行)が妻を亡くしたあと、愛した女性のもとに行けなかったのも「人間国宝」という重みのせいだった。何代も続いた伝統芸能の家系という家の大きさが、この家族一人ひとりの人生にのしかかっている。

それにしても、どういう理由かはわからないが旅行直前に新たな女性の存在を明かしてさくらを同行させないひとひねりを加えてきたかと思いきや、旅行に出発してからさらに別の女性・ちはる(田中みなみ)を登場させるとは。この先いったい観山家はどうなってしまうのだろう。

次回はこちら:「俺の家の話」6話。ドラマからはみ出た長瀬智也&阿部サダヲ&西田敏行のステージ!

ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
漫画家・イラストレーター。著書に『ものするひと』『いのまま 』など。趣味は自炊。
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