高畑充希「にじいろカルテ」5話。村じゅうに響く北村匠海のデスメタルは「普通の人なんていない」の叫び

高畑充希主演「にじいろカルテ」。東京の大病院の救命救急の現場から、山奥にぽつんと佇む虹ノ村診療所やってきた医師・紅野真空(高畑充希)には“ある秘密”があったーー。妻・沙織(佐々木希)を亡くした過去があった浅黄朔(井浦新)。自分には「物語がない」と嘆く蒼山太陽(北村匠海)。「普通でつまらない」と思っている太陽にも秘密が……。

2月18日放送「にじいろカルテ」(テレビ朝日 木曜夜9時)第5話が描いたのは“普通”であることの負い目。「ボクはマトモ・コンプレックスだった。マトモに生きてたくないと思うこと自体、マトモな人間である証拠だからだ」とはみうらじゅんの語録だが、そんなマトモ・コンプレックスに苛まれていたのは看護師の蒼山太陽(北村匠海)である。

「自分には物語がない」太陽の悩み

外科医の浅黄朔(井浦新)には爆破テロ事件でトリアージ判定を誤り、妻・沙織(佐々木希)を亡くしたという過去があった。今まで、朔はそれを誰にも話してこなかった。“悲しい物語”の登場人物と思われたくなかったからだ。そして、太陽の悩みは自分に物語がないことだった。

「俺だけじゃん。俺だけ何もないじゃん!」

にじいろ商店にいつものメンバーが集まって酒盛りが始まると、太陽は泥酔する。
「俺はね、基本的に優秀なの。正しいの、俺はね。間違わないし、間違ったこととかしないし、正しいのよ。偉いの! でも、それだけなの! 普通なのよ!!」
「通知表、俺はね、ずっとオール4なんですよ。いや、悪くないよ!? でも、つまんない……」
“くせに”ポイントが加算された割に彼が喜んだ理由がわかった。怒られるようなことをしない自分が嫌だったのだ。彼のぱっつん前髪は“普通”への抵抗なのかもしれない。

しかし、彼が嘆いた内容はイコールでそのまま個性である。オール4で居続ける難しさを本人はわかっていないだろうし、優秀で正しくて偉い人はちっとも普通ではない。
太陽がいないと虹ノ村診療所はうまく機能しないはずだ。テレビクルーのカメラマンの怪我を見つけ破傷風の予防接種を行ったり、切らしていた三角巾の代わりに職員の脱臼をラップで固定する機転を見せたり、それらは“普通”の枠に収まらない能力であり個性だ。

村人全員「どこが普通なんだよ……」

翌日、休止している村内放送の再開第1回目のDJを緑川嵐(水野美紀)らから依頼された太陽。しかし、自分を励ますための依頼と考えた彼は引き受けようか躊躇した。

 「太陽! 屈折はみんなあるけどな、曲がり過ぎだろそれ。自分で戻せ。お前ならできるだろ?」
太陽 「……はい」

「俺は優秀なの!」と言う太陽だからこそ、「お前ならできるだろ?」と朔は言葉をかけた。太陽はDJを引き受けることにした。

「あー、どうも……。あまり喋るの上手くないし、なんか普通でつまんないし、すみません……。1曲聴いてもらおうかなと思います。高校のときに作った曲で、タイトルは『俺以外』」(朔)

太陽を演じる北村匠海はダンスロックバンド「DISH//」のメインヴォーカルだ。つまり、「普通と言っておきながらこんなに歌が上手いのか!」と感動させるエンディングだと思っていた。虹ノ村に流れたのはこんな曲である。

「俺以外みんな死ね 俺以外みんなクズ 
俺以外みんなゴミ 俺以外みんなデス
デスデスデスデスデスデスデス
生きたい奴は手を挙げろ 死にたくない奴泣き叫べ
命乞いしてみんな死ね 面倒くさいからみんなデス デスデスデス
俺以外俺以外俺以外俺以外俺以外俺以外 デース!」

曲が流れる直前、緑川日出夫を演じるフォークシンガーの泉谷しげるに「昔のフォークソングみてえなタイトルだな」とつぶやかせ、振りを効かせた上でのまさかのデスメタルだ。字幕を読むと水色文字で「デスボイス」と出ていたから、間違いなくデスメタルである。DISH//は「ぼくらが強く。」という曲で「生きることを譲るなよ」「何も死なないでくれ」とポジティブなメッセージを発信していたはずなのに……。

放送を聴きながら紅野真空(高畑充希)は「よく看護師になれたな(笑)」と笑った。看護師が歌う「俺以外みんな死ね」は普通に考えるとアウトだが、見逃してあげてほしい。太陽は本当に「死ね」と思っているのではなく、鬱憤が溜まっているとこんな破壊的な言葉を叫びたくなるのだ。

太陽は自分が思うような普通の人間じゃなかった。普通だと嘆く彼は誰よりも普通ではない。自分を普通と思っていても、隣人からはドラマチックに見えているかも。逆も然りだ。普通の人なんて世の中にはいない。そんなメッセージがあのデスメタルには含まれていた気がする。

それにしてもほのぼのとした虹ノ村と、村じゅうに響くデスメタルのアンバランスさはどうだ。村人たちの反応も、曲にノッたり、耳を塞いだり、呆気にとられたり、笑ってしまったり、様々だった。翌日からは何事もなかったように、またいつもの日常が始まるのだろう。

次回はこちら:高畑充希「にじいろカルテ」6話。真空「言葉は間違ってると思うけど、病気って面白い」

■「にじいろカルテ」全話レビュー
1:「にじいろカルテ」1話。ロボット型ヒロインじゃない高畑充希を待ち望んでいた!
2:高畑充希「にじいろカルテ」2話。先回りして謝る真空の生きづらさを溶かす「ちゃんと怒られろ!」
3:高畑充希「にじいろカルテ」3話「何とか付き合っていくしかない」のが家族
4:高畑充希「にじいろカルテ」4話。命の順番を決めるトリアージの難しさ。井浦新のサングラスの意味

ライター。「エキレビ!」「Real Sound」などでドラマ評を執筆。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレスと格闘技、ドラマ、イベント取材。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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