上野樹里「監察医 朝顔」17話。大じいじ「里子、青森にいたのか。ずいぶん遠いところまで行ったなぁ」

上野樹里主演のドラマ「監察医 朝顔」。2019年に放送された続編的新作で月9史上初の2クール連続放送されます。東日本大震災から10年という節目の年に放送されたこのドラマも、当初の予定にはなかった内容に変更されたといいます。今あらためて、死と向き合うことを考えさせられる、最終章「家族の時間編」17話を考察します。

ふたりの乳幼児の死

興雲大学法医学教室に生後8ヶ月の女児、田崎咲良の解剖依頼が入る。死因は小さなおもちゃ部品の誤嚥による窒息だった。
涙もこぼさずスマホを眺めるシングルマザーの母(岡崎紗絵)の様子に警察や光子(志田未来)は虐待を疑う。しかし朝顔は「まだお子さんの死と向き合う心の準備ができていない」と感じていた。

数日も経たないうちに今度は10ヶ月の女児、清水杏奈のご遺体が運び込まれる。
階段から落ちたことが死因と思われた。泣きわめく母(鳥羽まなみ)と「連れて帰りたい」という父(武本健嗣)。田崎咲良の母とは正反対の反応だった。
しかし母親がスマホで娘のご遺体の写真を撮り出す行動はどう見ても異常だった。

解剖の結果、田崎咲良の死因は当初の調べどおりおもちゃ部品の誤嚥が死因。
そして階段からの転落事故と思われた清水杏奈は両親による虐待(揺さぶられっ子症候郡)が死因だった。

後日、朝顔たちは咲良の母親との再び面会する。
朝顔は「いいんですよ、無理しなくて。亡くなられた方とお別れするには途方もない時間がかかります。焦せる必要はありません。お一人で苦しむ必要なんてないんです。誰かを頼っていいんですよ」と言葉をかける。無表情だった母親から涙がこぼれ出す。

絵美(平岩紙)が言っていた「人によって大切な方が亡くなった時の反応は違うと思うよ」という言葉。茶子の「あなたのやり方でお別れをしてください」という言葉。心に留めておきたい。

最後の後始末をしたいんです

平は茶子と久しぶりに会っていた。
終活の手伝いをしてほしいという平の願いを茶子は快諾する。

「なんだか修学旅行の前に友達といろいろ必要なもの書き出して、イエーイ、買い出しに繰り出すみたいな」
終活を修学旅行に例える茶子。

平は家族のことが分からなくなってしまうかもしれない不安を語る。里子のこと、桑原くんやつぐみのこと、朝顔のこと……。

「すいません、こんなこと言われても困りますよね」
「いや、ぜんぜん困んないです。友達ですから。いや、マブダチ!」

茶子の明るさがなんとも頼もしくてカッコイイ。

「里子、会いたかったよ」母との再会

仕事を終え朝顔が帰宅すると玄関先で平が呆然と立ち尽くしていた。
「これ、大切なメモらしいんだけど父さん何なのかよく分からないんだ」

朝顔がメモに書かれた番号に電話すると青森県警だった。里子のご遺骨の一部が見つかったという知らせ。

そんな大事な内容を聞いたのに忘れてしまったのか、と平はショックを受けるが無理もない。朝顔ですら電話を聴きながら動揺していた。待ち望んでいた知らせに違いないが同時に悲しい現実を直視するということでもあるのだから。
朝顔は「父さん、ちゃんとメモしてくれたから私が電話できたんだよ。ありがとう」と気遣う。

翌日、朝顔と平は母を迎えに行くために青森へ向かう。
青森県警の担当者から渡された小さな木箱を無言で抱きしめる平。

その後朝顔と平、そして里子は祖父(柄本明)が入院する病院へと向かう。
おだやかな海の風景、復興中の町の様子。母に見せるように寄り道をしながら。

「お母さん見つかったよ」
ふたりは祖父の病室でようやく骨壷を開ける。そこには小さな指の骨が入っていた。
「里子、青森にいたのか。ずいぶん遠いところまで行ったなぁ」と祖父。
「里子、会いたかったよ」
「母さん、ありがとう」
ご遺骨を撫でながら3人は里子に語りかけた。

そしてようやく朝顔と平、里子は神奈川の家に帰った。
桑原は改めて里子に結婚の報告をする。
「ご挨拶が遅くなってしまってすみません……」という桑原に「ホントだよな」「ホントだね」平と朝顔が笑う。

同じ頃、仙の浦では祖父が静かに息を引き取った。安らかな顔だ。
祖父が生きているうちに、平がボケてしまう前に、戻ってこられてよかった。

上野樹里のInstagramによると震災から10年という節目で放送があったことや、母の骨が見つかるという脚本は当初の予定にはなかったようだ。
「ドラマの中だからこそ、出来ることもあるんだ」という上野樹里の言葉はまだご家族が見つからない方への気持ちのようにも感じた。「どんなことが起こっても私たちは、悲しみや、苦しみを分かち合い、希望の光を互いに灯し、前へ進んでいけると信じています」で締められたメッセージ。ぜひ読んでください。

次回はこちら:上野樹里「監察医 朝顔」18話。じいじ、つぐみを忘れる。残された時間は少ないの?今夜最終回

■「監察医 朝顔」全話レビュー
1:上野樹里「監察医 朝顔」1話。2019年の傑作の続編。どうか普通の幸せが続いてくれ、どうか
2:上野樹里「監察医 朝顔」2話。大じいじ(柄本明)が持っていた歯は?家族に言えない秘密が
3:上野樹里「監察医 朝顔」3話「じぃちゃん朝顔に黙っていたことがある」事実を受容するということ
4:上野樹里「監察医 朝顔」4話。桑原くん、浮気なんかしてないですよね?
5:上野樹里「監察医 朝顔」5話「その銃を捨てなさい!銃を捨てろ!!」またも衝撃の風間俊介
6:上野樹里「監察医 朝顔」6話。容疑者になった桑原。何もかもが不利、無実は証明できる?
7:上野樹里「監察医 朝顔」難事件解決、おかえり桑原くん、第1章完結
8:上野樹里「監察医 朝顔」桑原(風間俊介)にも入れなかった万木家の領域。新章・孤独編
9:上野樹里「監察医 朝顔」9話。天国に繋がる電話、祖父(柄本明)から預かった歯。終わらない震災
SP:上野樹里「監察医 朝顔」新春スペシャル「教えてください、お願いします」と祈る理由、朝顔新人時代
10:上野樹里「監察医 朝顔」10話 妊娠中、夫が感染症で死んでしまったら……妊婦のショック、恐怖
11:上野樹里「監察医 朝顔」11話 桑原くん良かった……どこに行くのつぐみちゃん!
12:上野樹里「監察医 朝顔」12話。理想の夫、桑原くん「辛い時、大変な時にそばにいるために結婚したんだよ」
13:上野樹里「監察医 朝顔」13話「あなたはまだ間に合う。あなたは生きているからまだ間に合う」
14:上野樹里「監察医 朝顔」14話。お父さん、おかえり!孤独編完結
15:上野樹里「監察医 朝顔」15話「僕がお父さんのこと覚えてるから大丈夫」認知症の父への桑原くん(風間俊介)のことばに泣く。家族の時間編スタート
16:上野樹里「監察医 朝顔」16話「僕の町にもまだ見つからない人がいます」東日本大震災から10年

フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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