上野樹里「監察医 朝顔」1話。2019年の傑作の続編。どうか普通の幸せが続いてくれ、どうか

上野樹里主演のドラマ「監察医 朝顔」。2019年に放送された続編的新作で月9史上初の2クール連続放送されます。法医学者・万木朝顔が解剖を通して、真実を明かしていくヒューマンドラマ。SNS上でも“不穏なナレーション”が話題になった新シリーズの1話を振り返ります。
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「今日普通に生活していることがどれだけ幸せなことか」
2019年夏に放送された「監察医 朝顔」の続編的新作。前作では東日本大震災で母(石田ひかり)を失った万木家が家族や仕事仲間とともに一歩ずつ悲しみを乗り越えていく様子が描かれた。
先週、11月2日に始まった今作は、ホームビデオで撮影された微笑ましい家族の映像から始まる。法医学者・万木朝顔(まきあさがお/上野樹里)と、父でベテラン刑事の万木平(まき・たいら/時任三郎)、夫で刑事の桑原真也(風間俊介)、娘のつぐみ(加藤柚凪)。

群集心理が起こす悲劇

立体歩道橋で群集雪崩による事故が発生する。近くのスタジアムで突然火災報知器が作動し、歩道橋に多くの人が雪崩れ込んだ。死者4名、意識不明の重体1名の大惨事だ。朝顔の職場である興雲大学の法医学教室にもすぐに解剖の依頼が入った。

「教えてください、お願いします」解剖の前に全員で黙祷し、朝顔がご遺体に語りかける。

前作10話で朝顔の胸の内が、こう語られている。
「亡くなられた方の最期に寄り添い、その方が生きている間に伝えたかったことや、法医学者にしか読み解くことのできない、その証をひとつでも見つけようとする。それが、人間が人間の手で、亡くなられた方の魂を弔うことに繋がっていくと思います」
亡くなられた方の最期に寄り添う。この気持ちが今作にも引き継がれている。

ネット上には亡くなった佐々木という男性が歩道橋上で痴漢行為をはたらいたことが事故の元凶になったという噂が広まっていた。目撃証言もあり、佐々木の母もすっかり信じて「申し訳ない」と萎縮するばかり。
しかし朝顔たちは佐々木の死因を突き止める。彼だけは圧死ではなくエコノミークラス症候群から誘発された脳梗塞が原因だった。佐々木は亡くなった際、たまたま前にいた女性にもたれかかる形になってしまっただけで、痴漢などしていなかった。

集団パニックが引き起こした群集雪崩による大事故。そしてネット上で佐々木を誹謗中傷する群集心理。
朝顔たちは解剖によって佐々木の名誉を守り、佐々木の母の心を救った。

朝顔、母の故郷へ

「もうすぐ沼の埋め立て工事が始まる。逃げ遅れた人たちがたくさん亡くなった場所だ。」
手をケガした父(時任三郎)に替わって、母の故郷へ向かう。
もう何年も経った被災地から母の遺品を探す。気の遠くなる作業だ。

沼に入りひとり捜索する朝顔。この場所でどうして多くの人が亡くなってしまったのか、原因に思いを駆せる。
人間は危機的な状況になると正しい判断ができなくなるらしい。周りと同じだから安心して逃げ遅れたんだろうか。それともいわゆる正常性バイアス(悪い情報を過小評価して平安を保とうとする心理)で自分だけは大丈夫と思い込んでしまったんだろうか。

ドラマのラスト、朝顔のセリフが気になる。
「今日普通に生活していることがどれだけ幸せなことか。そのことを私はちゃんと分かっていると思っていた。それなのにこの時の私はまだ気づいていなかった。私たち家族に残された時間がそう長くはないことを」
津波警報が鳴っているのに逃げず作業を続ける朝顔に何か起こるというのか。それとももっと先に原作コミック25巻の悲劇が待ち構えているというのか。

次回はこちら:上野樹里「監察医 朝顔」2話。大じいじ(柄本明)が持っていた歯は?家族に言えない秘密が

フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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