「危険なビーナス」4話でやっと本編がスタート。妻夫木聡の妄想は、予告詐欺ではないかもしれない

東野圭吾原作のラブミステリー「危険なビーナス」。主人公の獣医師・伯朗(妻夫木聡)のもとに、「弟の妻」を名乗る謎の美女・楓(吉高由里子)が現れ、異父弟・明人(染谷将太)が失踪したことを聞かされる……。純粋な伯朗の優しさが腐った矢神家の心を洗い流したと思いきや……これでようやく本編に入れそうな気配の4話を考察します。

「危険なビーナス」第4話は、前話から0.7ポイントダウンの視聴率11.0%。予告では、物語の鍵を握る明人(染谷将太)が縛られている姿が話題になっていた。

エンタメ三大詐欺”のひとつ「予告詐欺」

このドラマは、1話につき1シーン伯朗(妻夫木聡)が妄想をするシーンが差し込まれる。初めは「モテたいな~」くらいの妄想だったが、回を追うごとに派手になり、前話では刺され、今話ではボウガンで打たれ、尺も日に日に伸びている。ただ都合がいいだけではなく、ネガティブな要素も混ぜたことで仕上がりはドラマチックだ。ドラマチックな妄想をすればするほど、物語の主人公になりたいという欲求、伯朗の大人になりきれない姿が濃く表現される。妻夫木聡が演じているが、伯朗はちょっとカッコ悪い男なのだ。

予告で話題になっていた明人の拘束シーンは、伯朗の妄想だった。まぁ、物語の進行スピード的に明人が登場しないのは予想できたが、やってんな~、とは思う。「サムネ詐欺」「タイトル詐欺」に並ぶ“エンタメ三大詐欺”のひとつ、「予告詐欺」だ。しかも仕上がりは「夢オチ」と双璧をなす“エンタメ二大ガッカリオチ”の「妄想オチ」。だいぶやってる。

あの妄想、本当にいる?

そもそも伯朗の妄想は必要なのだろうか? 伯朗のカッコ悪さの表現は、妻夫木聡の演技の繊細さでこと足りている。口籠ったり、目線が下がり気味だったり、困った笑い顔なんて本当に自然で、あの顔とスタイルなのにそこそこカッコ悪い。いや、もちろんカッコいいんだけど、キャラクター通りちゃんと頼りなく見えている。

コメディシーンは箸休めになるが、ドラマのテンポや緊張感を崩すという側面も持っている。今話にいたっては、隆司(田口浩正)がボウガンまで持ち出しちゃって、ミステリードラマなのに“ボケている”の領域に足を踏み込んでいた。「実は妄想でした~」と視聴者の裏をかくつもりさえなかった。

裏をかくつもりのない妄想なんて毎話続けていくとしたら面白がるのは難しいし、今回は予告詐欺もしちゃっているから、騙そうにも視聴者の警戒心は強くなってしまった。こう言ってはなんだが、あの妄想はこれ以上面白くなりようがない。どうしたって「はいはい、いつもの妄想ね」ってなっちゃう。

しかし、ドラマの名門「日曜劇場」が、このまま終わるだろうか。ここでよぎるのは、「これわざとやってない?」ということ。我々視聴者は、この先でとんでもない展開が起きた時に、「はいはい、いつもの妄想ね~」と感じてしまうだろう。しかし、仮にそのとんでもない展開が妄想ではなかったとき、我々が受ける衝撃はより大きくなる。つまり、この妄想を伏線にする衝撃的な展開が待ち受けているのだ。

そう考えると、伯朗が妄想終わりに呟く「……なんてことが起きるはずない……とは限らない」というお決まりのセリフも怪しく見えてくる。逆手に取って「事実は妄想より奇なり」的な展開の伏線にも思える。伯朗の妄想は箸休め的な意味ではなく、この後半を盛り上げるための伏線な気がしてならない。じゃないと、ちょっと存在意義が見当たらない。

元も子もない残酷なお話

4話は、百合華(堀田真由)が失踪した母・祥子(安蘭けい)を探すよう伯朗にお願いする話。自分の母である禎子(斉藤由貴)が、過去に祥子にイビられていたため伯朗は乗り気ではないが、美女のお願いを断れないので、仕方なく引き受ける。

伯朗と楓が調べていると、百合華の父で祥子の夫である隆司が、矢神家の現当主・康治(栗原英雄)の専属看護師・杏梨(福田麻貴)と不倫関係にあることが発覚する。隆司は、金と欲望に支配された矢神家に疲れ果て、杏梨に癒しを求めていたのだ。もともと婿入りしてきた隆司に、矢神家の水は合わなかったのだ。

そんな隆司だったが、隙あらばと祥子を殺す準備を着々と進めていた。悪そうに見えて実は朗らかな普通のおっさん…かと思えば、やっぱりそれでも矢神の人間。祥子の失踪については我関せずで、死んでくれたら殺す手間はぶけるよね~くらいに思っていた。完全に矢神家に毒されている。

こういうキャラクター性が今作の特徴だ。表向き、裏の顔、さらに腹に抱えた目論見は全然別だったりする。2話でやっつけたはずの勇磨も底が見えないし、目的すらも掴みきれない。それは、失踪した祥子も一緒だ。人としての弱い部分が描かれ、伯朗とも和解の兆しが見えたと思ったら、最後の最後であんなセリフ。信用なんてできたもんじゃない。

今話は、気弱ながらも純粋な伯朗の優しさが腐った矢神家の心を洗い流した……と思いきや、そんなものはただの戯言で、真の悪の心には届きはしない…という元も子もない残酷なお話だった。

複雑な人物関係、矢神家だけでも把握したい

さぁ、本編がスタートするぞ!

キャラクターの深掘り、意外な真実やどんでん返しなど、1話としてのクオリティは完全に高かった第4話。しかし、それでも若干物足りなく感じてしまうのは、30億の遺産相続問題や明人の行方など、本筋が進まなかったことが原因だろう。原作にないオリジナルシーンで物語を深掘りしてはいるものの、「早く本題行けよ」とどうしても思ってしまう。前話もそんな感じだった。

しかし、今話ラストの祥子の言動で状況は一変。第5話では、莫大な資産を保有する現当主・康治の生き死ににスポットが当たり、ようやく物語が始まる予感。遺産のために殺しを狙うもの、それを阻止しようとするものの戦いが描かれるはずだ。予告の勇磨の「一番やっかいな人が動いたな」というセリフも気になる。

次回はこちら:「危険なビーナス」5話。複雑な家系図が更にややこしく!まだまだ裏がありそうな使用人兼執事の君津は誰と繋がってるんだ

■危険なビーナス

1:「危険なビーナス」1話。ややこしい家系図を説明します、顔と名前だけでも覚えていってください

2:「危険なビーナス」2話。怪しい吉高由里子。「私の正体は誰でしょう?」と問いかけているみたい

3:「危険なビーナス」3話。ディーン・フジオカの前で妻夫木聡が乙女に?大っ嫌いなのに本音が出ちゃう

企画、動画制作、ブサヘア、ライターなど活動はいろいろ。 趣味はいろいろあるけれど、子育てが一番面白い。
イラスト、イラストレビュー、ときどき粘土をつくる人。京都府出身。
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