「麒麟がくる」全話レビュー30

【麒麟がくる】第30話「朝倉をお討ちなされと」やっぱり、信長の影に帰蝶あり

新型コロナウイルスによる放送一時休止から3カ月弱、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」が帰ってきました。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる壮大なドラマもいよいよ後半戦、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。光秀が帰蝶(川口春奈)と9年ぶりに再会します。朝倉討伐作戦も帰蝶の差し金。信長の影に帰蝶あり。

大河ドラマ「麒麟がくる」(NHK総合日曜夜8時〜)30回「朝倉義景を討て」(脚本:池端俊策 演出:佐々木善春)は、戦が近づくなか、駒(門脇麦)と将軍・義昭(滝藤賢一)が急接近。蛍を見ようと城を出て、蛍を連れ帰って蚊帳のなかに放ち、風雅な夜を過ごす。それにしても、駒をみつめる義昭の顔の穏やかさ。政治を司らされておどおどしているときとまったく表情が違っていた。

帰蝶と9年ぶりの再会

なにかと敏くいい働きをするため、信長(染谷将太)のお気に入りで、いささか目の上のたんこぶ的な存在になってきた木下藤吉郎(佐々木蔵之介)から朝倉義景(ユースケ・サンタマリア)を討つ話を聞かされた光秀(長谷川博己)が、賛成しかねる顔をしていた頃、駒が二条城を訪ねて来た。

「公方様がお待ちかね!?」と光秀が怪訝な顔をする。深刻な戦の話しと駒と義昭の交流の激しい落差。駒は芳仁丸という薬でも受けたお金を公方に寄付しまくっている。

美濃に戻った光秀は、松永久秀(吉田鋼太郎)と再会。三淵(谷原章介)もいて、織田は朝倉を討つ気だが、義昭はそれに加担する気がないという話に。信長と義昭の間にはさまれた光秀は心情をはっきり言葉にしない。よくよく考えてみると、光秀は主人公ながら、自分の心情を語るセリフが多くない。ここぞというときには語るが、たいてい黙って、うっすらリアクションするばかり。

不穏な空気が流れるなか、光秀は帰蝶(川口春奈)と9年ぶりの再会。帰蝶は信長から預かった側室の子・奇妙丸(のちの信忠)を自分の子のように育てていた。
聞けば、朝倉討伐作戦は帰蝶の差し金らしく「朝倉をお討ちなされと」と焚き付けていたことがわかる。やっぱり、信長の影に帰蝶あり。

「父上の供養と思ってな」と御所の塀と南の門を直した信長。意外といいひと。
「空より降ってきたものから道を聞いてみたいと…」と言う光秀。
信長の父・信秀(高橋克典)はこの世で最もえらいのはおてんとうさまでその次が帝だと言っていたという。「お天道様」と「空より降ってきたもの」とは似ていると光秀と信長はお互いの大事なものを確かめ合うように微笑む。回想で奇妙丸を「天から降ってきた大事な預かり者じゃ」と帰蝶が9年前に言っていたこととは因果関係はあるのだろうか。としたら奇妙丸(信忠)がキーマンになってしまうけれど。ちょっとそれは保留にしておこう。

思い切って帝に朝倉を討つことをどう思うか聞いてみたいと考える信長に賛成する光秀。
義昭につくって言ってたはずの光秀がいつの間にか、信長についているような……。そしして、朝倉を討つ大義名分を求めるふたり。光秀も信長も、自分たちが帰蝶に動かされていることを認めたくなくて、なにかほかに正当な理由をつけたいのではないかなんてうがった見方をしてしまう。
やっぱり光秀は、いつだって誰かの言うことを聞いてばかりで主体性がない。
道三、義輝、義昭、帰蝶、信長……とその都度、信じた人の言われたことで奮起している印象だ。

激化する派閥争い

帝こと正親町天皇(坂東玉三郎)帝は東庵(堺正章)と将棋を差す仲だった。
駒は将軍、東庵は帝、伊呂波(尾野真千子)は関白と、人脈がすごい。

「麒麟がくる」の初期、東庵と駒と、最近出てこない菊丸(岡村隆史)は忍びの者なのではないかと筆者は疑っていた。菊丸は徳川家の手の者であったが、東庵と駒は単にえらい人と縁のある庶民らしいが、なんだか再び、この人たちはじつは目的をもってえらい人と接触しているのではないか。

信長が帝に拝謁を申し込むとーー
会えた。しかも、帝は信長のこれまでの功績を認める。すべては東庵のおかげとも知らずにすっかり嬉しくなる信長。認められたい、褒められたい人だから。
このときの信長の満面の笑みも、いままでにない表情。この世で二番目にえらい人に認められてとろけそうな顔になっている。

世を平らかにするための戦の勅命をもらったと大喜びの信長を黙って見つめる光秀はあいも変わらずポーカーフェイス。じょじょに終盤に向かって、光秀を謎の存在にしはじめたような気がする。駒と義昭が入った蚊帳のような薄いベールが光秀にかかってきた。

光秀は口実をつくって朝倉を討つ戦を義昭に進言する。いつの間にかすっかり朝倉を討つ気満々。牢人時代、お世話になったから……と藤吉郎に言っていたときとは表情が違う。
でも義昭は戦いたくなさそう。

義景が義昭を受け入れなかった非礼をあげて、義景を討つ意義を力説する光秀だったが、義景の愛息子を毒殺し、足止めをくらっていた義昭を上洛させることに成功したのは三淵(谷原章介)であり、毒殺用の毒は摂津の部下が運んだと知って愕然とする。
知らないところで様々な力が働いていた(知らなかったのか光秀……)。あの頃から摂津の力は作用していた。そして三淵は摂津派らしい。
保守派(摂津、三淵)と革新派(信長、光秀)みたいなものだろうか。激化する派閥争いで、ドラマが活気づいてきた。

幕府が織田に協力的でなく、孤立無援のまま、永禄13年4月、織田は朝倉を討ちに越前へ──。

〜登場人物〜
明智光秀(長谷川博己)…越前で牢人の身。

【将軍家】
足利義輝(向井理)…室町幕府13代将軍。三好一派に暗殺される。
足利義昭(滝藤賢一)…義輝の弟。僧になって庶民に施しをしているが、兄の死により政治の世界に担ぎ出される。

細川藤孝(眞島秀和)…室町幕府幕臣。義輝が心配。光秀の娘・たまになつかれる。
三淵藤英(谷原章介)…室町幕府幕臣。藤孝の兄。

【朝廷】
関白・近衛前久(本郷奏多)…帝を頂点とした朝廷のひと。

【大名たち】
三好長慶(山路和弘)…京都を牛耳っていたが病死。
松永久秀(吉田鋼太郎)…大和を支配する戦国大名。
朝倉義景(ユースケ・サンタマリア)…越前の大名。光秀を越前に迎え入れる。
織田信長(染谷将太)…尾張の大名。次世代のエース。

木下藤吉郎(佐々木蔵之介)…織田に仕えている。

【商人】
今井宗久(陣内孝則)…堺の豪商。

【庶民たち】
伊呂波太夫(尾野真千子)…近衛家で育てられたが、いまは家を出て旅芸人をしている。
駒(門脇麦)…光秀の父に火事から救われ、その後、伊呂波に世話になり、今は東庵の助手。よく効く丸薬を作っている。
東庵(堺正章)…医師。敵味方関係なく、戦国大名から庶民まで誰でも治療する。

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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