「麒麟がくる」全話レビュー26

【麒麟がくる】第26話。伊呂波「私はこの塀を美しく直したいのです」帰蝶の影

新型コロナウイルスによる放送一時休止から3カ月弱、NHK大河ドラマ「麒麟がくる」が帰ってきました。本能寺の変を起こした明智光秀を通して戦国絵巻が描かれる壮大なドラマも後半戦、人気ライター木俣冬さんが徹底解説し、ドラマの裏側を考察、紹介してくれます。私利私欲にまみれた人々の陰謀が渦巻く26話を振り返ります。

象徴は美しくないといけない

大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK総合日曜夜8時〜)26回「三淵の奸計」(脚本:池端俊策 演出:深川貴志)は私利私欲にまみれた人々の陰謀が渦巻きまくる。

永禄10年、京都で勢力をふるう三好一派が担いだ足利義栄(一ノ瀬颯)が14代将軍になったものの、重い病をかかえ、上洛できず摂津にとどまっていた。
もうひとりの将軍候補の義昭(滝藤賢一)は、朝倉義景(ユースケ・サンタマリア)が担いで上洛する気になっている。

朝廷では、義昭を推す二条晴良(小籔千豊)、義栄を近衛前久(本郷奏多)が対立。だがしかし、最大の悩みは、朝廷が貧乏なこと。いま、京都は貧しく、御座所を守る塀が壊れても直せず、みすぼらしいままに放置されている。

「私はこの塀を美しく直したいのです」

塀を見つめながら伊呂波太夫(尾野真千子)は前久に言う。御座所を守る塀の崩壊、これはとても象徴的である。この塀のように崩れかかっている京都。その理由は貧しさであり、ひいては京を構成する人々の能力のなさ、思慮のなさであろう。
もっとも、塀が壊れているということは、朝廷と庶民を隔てる壁が壊れて、平らかになりはじめている兆しのようにも思えるが……、それはそれ、これはこれ、象徴は美しくないといけない。

京の街を再生したいと真に美しい理想を掲げているのは、義輝の意志を継いだ光秀や義昭。義栄を担ぐ三好を潰す必要がある。
いよいよ義昭が元服し、上洛の準備が整ってきた。義昭の家来(三淵や藤孝)を呼んで宴を開くと山崎吉家(榎本孝明)が光秀を誘う。そのとき山崎はさりげなく、戦に巻き込まれたくない本音をささやいていく。

義景(ユースケ・サンタマリア)は、松永、織田、上杉、六角など諸大名とそろって上洛し、三好を叩こうとやる気満々だが、朝倉景鏡(手塚とおる)に意見を求められた光秀(長谷川博己)は酔っ払いながら、上洛をして戦をすることは論外だと言いだす。

それを聞いてむっとする義景に、三淵(谷原章介)は「わたしは行けると思っている」と味方するが、あとで景鏡と悪だくみを図っていた。なにしろこの回のサブタイトルは「三淵の奸計」である。

宴時の光秀の顔も、なにごとか考えているふうである。光秀は義景にずいぶん世話になったはずなのだが、現実問題として、実戦には向いていないと義景本人以外は思っている。越前は目下平和で、戦を望む人も少ない。民衆を巻き込まず、そのままにしておこうという配慮もあるかもしれないし、やる気のない人達では勝てる見込みもないということかもしれない。真っ直ぐ過ぎる光秀も、さすがに真顔では言えなかったか。

上洛を首尾よくできるのは、織田信長と光秀ではないかと伊呂波は言う。帰蝶(川口春奈)から「十兵衛が考え信長様が動けばかなうものなし」と言われた伊呂波に煽られ、その気になっていく光秀。

織田という船に乗って大海に向かう

最近、出番のない帰蝶が伊呂波を使って男たちを動かしていると思うと、ぞくぞくする。
やっぱり道三(本木雅弘)の娘・帰蝶の影の力が働いている。亡くなった道三と義輝(向井理)の魂がその先の歴史に注がれているのである。これぞ“大河”。

いよいよ、その川は、織田という船に乗って大海に向かう。
大仕事の前に、光秀が美濃に戻れともちかけたときの煕子(木村文乃)の反応は印象的だ。25回で、まき(石川さゆり)が美濃に戻ったとき、煕子は子どもたちが越前生まれだからとともに戻ることを遠慮しているふうだった。が、それは夫を立てていたようだ。
夫がついに上洛すると聞くと心から応援する。故郷の美濃を離れ、10年近く黙って光秀を支えてきた煕子に「そなたはまことによき嫁御寮だのう」と妻を敬う光秀。重ねた手と手があたたかくきらめいて見える。

長谷川博己はとても面白い俳優だと思う。女性と相対したとき抜群な色気とやさしさが漂うのである。「まんぷく」もそうで「麒麟」もそう。個性的な作品におけるエキセントリックな役もおもしろく演じるのだが、追い詰められて力を発揮するその一方で、素敵なだんなさま俳優ベスト1というところもあって、「麒麟がくる」は野心をもって戦う男たちを描くドラマで、彼はその主人公にもかかわらず、柔らかであたたかい男女の情愛みたいな場面が出てくると、ぐっと家庭劇の世界が広がっていくのである。テレビドラマで人気が出るわけはそこにあるのだろう。行き過ぎない男。たとえ行き過ぎても必ず家庭に戻ってくる安心感。

光秀が着々と家族を逃して上洛計画を立てているとき、義昭が織田信長のみで上洛すると聞いた義景が激怒。行く手を阻止しようとするが、愛息子・阿君丸が毒殺されて、すっかりやる気をなくす。義景のやる気をそぐために子どもを殺すと思うと、三淵、おそろしい。
あの優雅な雰囲気と声でこわいことをしていると思うとますますおそろしい。

25回で、阿君丸がかわいがっているネズミ(忠太郎)がいなくなったとき、義景が無我夢中で探していたこと、阿君丸が京都に行きたいと言い出したこと、それらに基づいて思いついた作戦であろう。
しゃがんで書状を破る義景、ネズミを眺めながら、歌を歌っている義景の哀愁がたまらない。

兄の仕事っぷりを知ってか知らずか(きっと知っていると思うのだが)亡くなった阿君丸を思い「私にも6歳になる子がいるから胸が痛みます」という藤孝(眞島秀和)。「たまも今年6歳だな」と確認しながら旅の無事を祈る光秀。この同じ年の2人の子どもがやがて婚姻することになるわけだが、それはまだ先の話。

子どもと子どもをうまいこと重ね合わせて、歴史もの好きな視聴者をくすぐる未来の伏線を敷いておく脚本。ベテランの池端回だけはある。

永禄11年、光秀と信長、上洛間近。高まる!

◆登場人物

明智光秀(長谷川博己)…越前で牢人の身。

【将軍家】
足利義輝(向井理)…室町幕府13代将軍。将軍とは名ばかりで、支えてくれる大名がいない。
謎のお坊さん覚慶(滝藤賢一)…じつは義輝の弟。僧になって庶民に施しをしている。
細川藤孝(眞島秀和)…室町幕府幕臣。義輝が心配。光秀の娘・たまになつかれる。
三淵藤英(谷原章介)…室町幕府幕臣。藤孝の兄。

【朝廷】
関白・近衛前久(本郷奏多)…帝を頂点とした朝廷のひと。

【大名たち】
三好長慶(山路和弘)…京都を牛耳っていたが病死する。
松永久秀(吉田鋼太郎)…大和を支配する戦国大名。義輝を狙っている?
朝倉義景(ユースケ・サンタマリア)…越前の大名。光秀を越前に迎え入れる。
織田信長(染谷将太)…尾張の大名。次世代のエース

木下藤吉郎(佐々木蔵之介)…織田に仕えている。

【庶民たち】
伊呂波太夫(尾野真千子)…近衛家で育てられたが、いまは家を出て旅芸人をしている。
駒(門脇麦)…光秀の父に火事から救われ、その後、伊呂波に世話になり、今は東庵の助手。光秀を慕っている。
東庵(堺正章)…医師。敵味方関係なく、戦国大名から庶民まで誰でも治療する。

ドラマ、演劇、映画等を得意ジャンルとするライター。著書に『みんなの朝ドラ』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』など。
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