「梨泰院クラス」2話。忖度で生み出される格差に抗うパク・セロイ

世界最大の動画配信サービス、Netflixで大人気の韓国ドラマ「梨泰院クラス」を全話レビュー。気になるけれどまだ見ていない人はこれを機にチェックしてみては?なぜオ・スアは会長チャン・デヒの申し入れを受け入れてしまったのか、「梨泰院クラス」2話を考察します。

受け入れてしまうスア

「梨泰院クラス」、読み方はイテウォンクラス。
「梨泰院」は韓国の街の名だ。
近くに米軍基地があり、世界各国の大使館や領事館が集まる場所。“世界各国のさまざまな人種、誰もが自由に見える歩くのが楽しい街”だ。
第2話の後半、ハロウィンでたくさんの異邦人でごった返す梨泰院で、主人公パク・セロイ(パク・ソジュン)とオ・スア(クォン・ナラ)が再会する。
異文化が混ざり合う若者の街「梨泰院」のイメージは、このドラマを貫くテーマを象徴している。

第2話で、オ・スアと会長チャン・デヒ(ユ・ジェミョン)が対峙する。
「奨学金を出そう」と言う会長。
「授業料はあります」と断るオ・スア
会長は「家を借りるカネも生活費も必要だろう」とさらに追い込む。
オ・スアは「その対価は?」と聞く。
チャン会長が自分に何の意図もなくお金を出すはずがないからだ。
「セロイに不利な証言をしろと言うんですか」とオ・スア
「ははははははははははははは」会長は、笑って、椅子に深く座る。
「実におもしろい。違うよ。かわいそうに、若いのに苦労してきたんだね。そう受け取るとは……」
会長は、語る。
「若者を助けたいだけだから誤解するな。見たままを証言しなさい」
イ・スアは返事をしないが、受け入れてしまう。

長家グループ会長チャン・デビ/Netflixオリジナルシリーズ「梨泰院クラス」独占配信中

助けを拒絶するパク・セロイ

第1話でパク・セロイとチャン会長が対峙した場面と対照的なシーンになっている。
パク・セロイは、第1話で「土下座するだけで許してやろう」という申し出を拒絶する。
チャン会長は、自分の手で処罰したり、悪事を強要したりはしない。
パク・セロイに対して求めたのは、退学でも、示談による制裁でもない。ただ土下座するだけ。自分に屈した証を求めるだけだ。
だが、パク・セロイは拒絶する。
第3話に出てくるパク・セロイの名言が、その拒絶する理由だ。
「いま1回、最後に1回、もう1回。その一瞬は楽になる。だけど繰り返すうちに人は変わる」
パク・セロイは、一貫してチャン会長からの助けを拒絶する。

信念を曲げないパク・セロイ/Netflixオリジナルシリーズ「梨泰院クラス」独占配信中

一方、オ・スアは、チャン会長からの助けを受ける。
偽証をするわけでもなく、対価を払うわけでもない。
7年後、オ・スアは長家の社員になっている。
オ・スアは「1回、もう1回、その一瞬は楽になる」を選択した側だ。
大きなモノの庇護を受けたおかげで、彼女は、韓国で最大の外食産業の企画室長になるのだ。

「忖度型環境差別」を生み出した

第2話で、アリバイを証明する書類を、警察署長が破り捨てるシーンがある。
「この先も税金で食っていくんだろ」
「下手な正義感を振りかざさず家族のことを考えろ」
「お前の人生は長家の息子にかかってるんだ」
署長がつぎつぎと浴びせる言葉に、刑事は屈服してしまう。証拠の隠蔽に助力するのだ。
署長は、権力に忖度して、不正を行う。その署長に部下は従う。
まわりまわって、権力に歯向かう人物の羽根をもぎとってしまう。
権力者が影響力を使って環境を作り、作られた環境そのものがマイノリティの障害になっていく。
適した用語が見当たらないので勝手に作るが「忖度型環境差別」が生み出されるのだ。

会長は、周囲に「忖度型環境差別」の一員になるように仕向けている。
学校の校長先生や教師も、チャン会長の息子のイジメを見て見ぬふりをした。警察署長も、証拠をもみ消した。刑事も、それに対抗できなかった。
多くの人がどっぷりと「忖度型環境差別」の一員になって、自分の意志で行動するのではなくチャン会長への忖度で行動することになる。
パク・セロイだけが、1回たりとも、それに屈服せずに、立ち向かっている。
だからこそ、チャン会長は、パク・セロイを恐れ、パク・セロイと親しいイ・スアを助けたのだ。

ハロウィンの梨泰院でスアとセロイが幸せな1日を過ごした日。
スアが、セロイにスキンヘッドで黒メガネの人物を紹介する。
「テレビで見たことがある」とセロイが語っているとおり、タレントのホン・チョクソンが本人役で登場している。
ホン・ソクチョンは、2000年にゲイであることをカミングアウトした。激しい議論を呼び、テレビ番組を降板することになる。その後、梨泰院にお店をだして成功し、「梨泰院の大物よ いろいろ教えてもらってる」とスアが言うとおり、街の発展に助力している。
世間の大きな声に屈せず、自分が自分であることを貫く。
梨泰院という街や、ホン・チョクソンという人物が、このドラマを象徴している。

ハロウィンの梨泰院で再会するふたり/Netflixオリジナルシリーズ「梨泰院クラス」独占配信中

自分の荷物を取り返して

自分が自分であることを貫くのは困難だ。
長いモノに巻かれずに自分の信念を貫くパク・セロイの生き様を軸とし、いっぽうで長家に巻き込まれてしまったオ・スアを配することで、「梨泰院クラス」は、その困難さを見せつける。

パク・セロイが、彼女を好きになるシーンが第1話にある。
面接会場に走っているオ・スアところにパク・セロイは偶然出くわす。セロイは、彼女の荷物を持って、一緒に走ろうとする。
オ・スアは、自分の荷物は自分で持つんだと、パク・セロイから自分の荷物を取り返して走る。
セロイはスアと並走して面接会場まで一緒に走る。印象的なシーンだ。

オ・スアは不正を選択したわけではない。にもかかわらず、奨学金を受け取り長家に巻き込まれてから、彼女は、自分の荷物を自分で背負えなくなっていくのだ。

「梨泰院クラス」
演出:キム・ソンユン
原作脚本:クァンジン
出演:パク・ソジュン パク・セロイ役、キム・ダミ チョ・イソ役、ユ・ジェミョン チャン・デヒ役、アン・ボヒョン チャン・グンウォン役、クォン・ナラ オ・スア役、キム・ヘウン カン・ミョンジョン役、イ・デビッド イ・ホジン役、ソン・ヒョンジュ パク・ソンヨル役、ユン・ギョンホ オ・ビョンホン役
オープニング曲:ハ・ヒョヌ「Stone」
エンディング曲:Gaho「Start」

ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。
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