「梨泰院クラス」8話。大金を得たセロイは、なぜ会長のようにならないのか
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- 前回はこちら:「梨泰院クラス」7話。パク・セロイ、会長に宣戦布告、土下座して罪を償え
「セロイの過去を知ってるでしょ。チャン会長とは正反対のやり方で自分を証明したいのよ」
オ・スアのセリフだ。
「チャン会長とは正反対のやり方」とは何か?
それをはっきりと示すのが、第8話だ。
「梨泰院クラス」全話レビュー、第8話。「梨泰院クラス」、読み方はイテウォンクラス。「梨泰院」は韓国の街の名。
主人公は、パク・セロイ。
第1話で、彼は学生で、長家の長男のいじめを止めるために殴ったため、退学になる。
しかも父親を失う。長家の長男がひき殺してしまうのだ。
だが、長家の会長チャン・デヒは、権力を使って長男の罪をもみ消す。
パク・セロイは刑務所に送り込まれる。
金もなく権力もないパク・セロイは、権力に一度も屈することもなくチャン・デヒを倒すために突き進む。
というのが、「梨泰院クラス」の物語の骨格だ。
みんなの信頼が僕を強固にしてくれる
「梨泰院クラス」は物語的に「第6話」で危ない綱渡りをはじめた。
パク・セロイが、19憶ウォン(約1億9千万円)の資産を持っていることが判明するのだ。
父親の保険金を資金に、イ・ホジンが株式運用で増やしていたのである。
「金もなく権力もないパク・セロイ」が、「金はある」になってしまった。
しかも、いちからスタートして居酒屋で儲けたのならまだしも、(いままではっきりとは示されなかった)株式運用で、だ。
第7話、「梨泰院クラス」は、さらに危ない橋を渡る。
パク・セロイは、長家の株を買い占めて、チャン・デヒを追い払おうとするのだ。
「金もなく権力もないパク・セロイ」だったセロイが、金を使って権力関係を支配しようとしているのだ。
そのおかげで、パク・セロイがなりふり構わぬ攻勢に出た切迫感が表現され、物語がドライブした。
いっぽうで、パク・セロイ像が少しブレてきた。
このまま金を使ってチャン・デヒを追い出しても、物語としてはすっきりしない(ので、当然、この作戦は失敗する)。
そして、第8話だ。
物語をドライブさせたまま、パク・セロイの信念と、チャン・デヒの信念を対比させてみせた。
パク・セロイの「チャン会長とは正反対のやり方」が何かをはっきりと示した。
パク・セロイの居酒屋「タンバム」が入居するビルのオーナーが変わる。
新しいオーナーに電話をすると、その相手はチャン・デヒ会長だったのだ。
「乱暴なしつけですね」とセロイは言う。
チャン・デヒ会長のところへ来たパク・セロイは、こう言われる。
「君が苦労して築いたものを俺は一瞬で壊せる。それこそ強さだ」
チャン・デヒは、自分の権力と金で周りを支配できることを「強さ」だと宣言する。
「土下座して謝れば過去のことは見ずに流そう。これ以上何も奪わない」とまで言う。
チャン・デヒ会長は、自分に逆らわず支配下でおとなしくしているのであれば、悪いようにしないと言うのだ。
パク・セロイは、「真の強さとは人から生まれます。みんなの信頼が僕を強固にしてくれる」と語る。
「商売できなければ人もいなくなるぞ」と詰め寄るチャン・デヒ。
「人がいるから商売できるのです」と答えるセロイ。
「強さとは何か?」の答えが、まったく正反対であることが示され、セロイがさらにこう言う。
「悪縁を断ち切りたいなら方法を教えてあげましょうか。あんたがすべての罪を償い土下座すればいい」
この悪縁が「どちらかが最後に土下座することで決する」というエンディングが示された瞬間だ。
泣き出すイソにパク・セロイは……
イソの誘導で、グンスが店を辞めると言い出す。長家のもとにもどって、父親チャン・デヒと取引するのだ。
そうしないと何億ウォンも損することになる。
「商売とは利益の追求が…」と言うイソに対して、「俺は それが商売ならやらない」と声を荒げるセロイ。
「私は社長が損をするのはイヤなんです」と泣き出すイソ。
ここで、セロイとイソの気持ちのズレがはっきりする。
イソは、パク・セロイに恋していて、パク・セロイしか眼中にない。だからグンスに辞めてもらって、社長の店を続けようと画策する。
だが、パク・セロイは、仲間との信頼を第一にしている。だから、損しようとも仲間を切ることはしない。
「私はただ社長のためを思って」
「なぜだ。俺のためにすることが俺の仲間を切ることか?」
ここでも、パク・セロイの信念が、チャン・デヒの信念と対比的に示される。
パク・セロイは仲間が第一であり、チャン・デヒは長家の商売(自分の権力)が第一なのだ。
とうとう「ビルを買う」というすごい作戦(現実的な代案!)を、パク・セロイが出す。
借りるから奪われるのだ。だから、株を買い占めようとした資金を引き揚げて、ビルを買う、と。
めちゃくちゃ上手い物語構成。
ビルを買うという奇策を成立させるためには資金が必要だ。だが、そんな資金を持っているのは不自然だ。だから、その前に、長家の株買い占め作戦で物語を盛り上げながら、株式運用で資金を持っていることを示しておいたのだ。
「ビルを買う」という決断を示してまた盛り上げる。その資金も、ちゃんとある。株の買い占め(パク・セロイらしからぬ方法!)を断念すればいいのだ。これによって、あくまでも屈せず長家に抗うというパク・セロイらしさがもどってきて、よりいっそう観てる者に印象づけた。
第8話のラスト。パク・セロイとカン専務が語り合う場面で、改めてセロイの信念が語られる。
「僕と仲間が誰にも脅かされないよう、自分の言葉や行動に力が欲しい。不当なことや権力者に振り回されたくない。自分の人生が主体であり、信念を貫き通せる人生。それが目標です」
権力と金を使って周りを支配するチャン・デヒと、自分と仲間が権力に振り回されないように力が欲しいと願うパク・セロイ。
はっきりとした対立軸を示して、ドラマはいよいよ最後の対決へ! と展開しそうなところだが、一筋縄ではいかない「梨泰院クラス」は、さらに凄い展開にねじれていく。
もはやパク・セロイは前半で見せたピュアな「金も権力もない正義漢」ではいられない。
少なくとも金はある。権力は、どうか?
■梨泰院クラス全話レビュー
1:「梨泰院クラス」会長は本当に悪でパク・セロイは本当に正義なのか? 全話徹底レビュースタート
2:「梨泰院クラス」2話。忖度で生み出される格差に抗うパク・セロイ
3:「梨泰院クラス」3話。忖度社会に抗うための第3の方法
4:「梨泰院クラス」4話。パク・セロイとオ・スアとチョ・イソの恋のトライアングルバトル勃発
5:「梨泰院クラス」5話。パク・セロイとオ・スアのキスにチョ・イソディフェンス発動
6:「梨泰院クラス」6話。最大の疑問。パク・セロイはなぜオ・スアをタンバムに呼ばなかったのか
7:「梨泰院クラス」7話。パク・セロイ、会長に宣戦布告、土下座して罪を償え
8:「梨泰院クラス」8話。大金を得たセロイは、なぜ会長のようにならないのか
9:「梨泰院クラス」9話。パク・セロイ、オ・スア、チョ・イソの恋と権力のトライアングル
10:「梨泰院クラス」10話。権力か家族か。決断を迫られる会長、迫るセロイ
11:「梨泰院クラス」11話。チョ・イソ告白シーンでわかるパク・セロイが恋愛に鈍感な理由
12:神回「梨泰院クラス」12話。恋愛から逃げるパク・セロイ、「最強の居酒屋」から逃げないマ・ヒョニ
13:「梨泰院クラス」13話。パク・セロイが愛したのはスアでもイソでもない。会長だ
14:「梨泰院クラス」14話。パク・セロイがオ・スアを捨て、チョ・イソを選んだ愛の理由
15:「梨泰院クラス」15話。結局、会長もパク・セロイもマッチョなのだ。次回最終回
16:「梨泰院クラス」最終話。パク・セロイ「夢みていた光景なのに心の底から喜べない」
「梨泰院クラス」
演出:キム・ソンユン
原作脚本:クァンジン
キャスト:パク・ソジュン パク・セロイ役、キム・ダミ チョ・イソ役、ユ・ジェミョン チャン・デヒ役、アン・ボヒョン チャン・グンウォン役、クォン・ナラ オ・スア役、キム・ヘウン カン・ミョンジョン役、イ・デビッド イ・ホジン役、ソン・ヒョンジュ パク・ソンヨル役、ユン・ギョンホ オ・ビョンホン役
オープニング曲:ハ・ヒョヌ「Stone」
エンディング曲:Gaho「Start」
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