菅野美穂×浜辺美波「ウチの娘は、彼氏ができない!!」3話。ボブ・ディラン来日とビー玉越しの美しい街が繋がる

菅野美穂主演、浜辺美波と親子役で共演する「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」。かつて“恋愛小説の女王”として一世を風靡したシングルマザーの水無瀬碧(菅野美穂)の悩みは、しっかり者でオタクの一人娘・空(浜辺美波)に彼氏ができないこと。碧と空、それぞれの恋愛は思ったようにはいかず……。3話から2人を取り巻く人間関係も動き出します。

鼻毛が覗いていた

2話目冒頭では碧(菅野美穂)の渉(東啓介)への恋が一瞬で終わったが、3話目では空(浜辺美波)と渉のデートが一瞬で終わった。碧と一緒に念入りに選んだ服を着た空。だが、待っていた渉の鼻の穴からは、はっきりとした鼻毛が覗いていたのだ。いままで一度も経験がなかったとはいえ、空がデート相手に求めるものはだいぶ美しそうだ。

諦めてきた光

対照的に、陽キャを偽装している光(岡田健史)はいろいろなことを現実的に諦めてきたようだ。元家庭教師だった恋人未羽(吉谷彩子)とのやりとり、熊本の母親との会話からエリート一家で落ちこぼれ扱いされていることが窺える。さらに、未羽はお金を持っている別の男をあっさり選ぶ。それらをぐっと飲み込んでどうにか笑ってやり過ごしてきたような態度は、空に2話で語った漫画好きを隠す理由「笑われるだけだよ」と共通する。さらに、空にだけ明かしている「人心を惑わすとして物語が禁止された世界において書くことで自由を探す」漫画の構想は光自身の願望だろう。母親が有名な作家だから自分が創作することに踏み出せない空と、家族の定型に嵌ることができずに創作しようとする光はお互い気を許しはじめている。

推しがいない空

空と光のシーンにはアニメや漫画の実名が頻出する。今回で言えば、光は、空にダブっていた「はたらく細胞」のカプセルトイとビー玉(おそらくハズレ)をあげる。ここで光の推しが「血小板」(を擬人化したキャラクター)だということがわかるが、空に関しては好きな作品名は挙がるけれど「推し」について語ったりはしないのが少し不思議に思える。恋愛に興味がなかったことと、推しがいないことは違う話だし、1話目では「エロい漫画」を山ほど買ってもいる。もう一点不思議なのは、オタク話をする友人がいるようにみえないところだ。(誰にも言わずにSNSでもやっているのかもしれないが)空が完全に心を許せる友人は今のところ碧だけだ。雲を模した巨大なベッドのある寝室は二人だけの安心できる「巣」にも見える。

ボブ・ディランとビー玉

かたや、恋愛の記憶が遠すぎて相変わらず恋愛小説が書けない碧に、編集者の漱石(川上洋平)は、入手困難なボブ・ディランのライブチケットを渡す。碧の幼なじみのたい焼き屋「おだや」のゴンちゃん(沢村一樹)とのデート用である。
ボブ・ディランといえば、新型コロナウィルス流行の影響を受け昨年2020年4月の来日公演が中止になった。感染症流行の影はまったく見えないこのドラマでは、ありえたかもしれないパラレルワールドを描いている。それは空が覗いたビー玉に映る上下反転した美しい街にも似ているかもしれない。

次回冒頭で明かされるのだろう渉先生の付け鼻毛の理由や、どんどんメンヘラが極まって苦しそうな沙織(福原遥)とおだやの主人俊一郎(中村雅俊)の関係も気になるところだ。

次回はこちら:菅野美穂×浜辺美波「ウチの娘は、彼氏ができない!!」4話。漱石かっこいい「あなたの曲にも命があるように、物語にも命があります」

漫画家・イラストレーター。著書に『ものするひと』『いのまま 』など。趣味は自炊。
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