「3年B組金八先生」ジャニーズ「金八トリオ」不発。小嶺麗奈が輝いていた第4シリーズ#2

学園ドラマの金字塔、「3年B組金八先生」。1979年から2011年まで、なんと32年間にわたり放送されました。全8シリーズに加えて12回のスペシャルを合わせて、全185話あり、現在、動画配信サービス「Paravi(パラビ)」で全話を順次配信しています。第4シリーズは、ジャニーズ不発の回。そして異質の説教臭さも特徴です。このなかで、小嶺麗奈が輝いていたワケとは?

第1シリーズ「15歳の母」で浅井雪乃(杉田かおる)と宮沢保(鶴見辰吾)の間に生まれた息子・歩(橋本光成)が3年B組にいたり、金八の妻・里美(倍賞美津子)が病死したりと、『金八』シリーズ全体としてのターニングポイントともなっている本作だが、桜中学以外を舞台にした第3シリーズと並んで若干地味な印象のあるシリーズでもある。

ジャニーズグループ「金八トリオ」が大コケ

その要因はいくつか考えられるが、もっとも大きいのはやはりジャニーズ枠のパッとしなさだろう。

第1シリーズのたのきんトリオを皮切りに、第2シリーズではひかる一平、第3シリーズではV6の長野博、元・SMAPの森且行などなど、暗黙の了解で2~3人程度のジャニーズ枠が設けられてきた『金八先生』。さらに姉妹シリーズである『2年B組仙八先生』でもシブがき隊の3人がデビューを果たしている。

多数のタレントをブレイクさせ、現在のジャニーズ事務所の基礎を作ったともいえる『金八』シリーズ。その価値はジャニーズ側も認識しているようで、第4シリーズには3人のジャニーズJr.を送り込み、「金八トリオ」とグループ名をつけて活動スタート。しかし……残念ながらあまりパッとしなかった。

本作のジャニーズ枠は古屋暢一、榎本雄太、坂口剛……知らん! 古屋はこの後、特撮番組などで多少活躍していたものの、正直、他のふたりの消息はよく分からない。本作ではジャニーズ枠としての見せ場もそれなりに用意されていたのだが……。

ちなみに初代「金八トリオ」は不発だったものの、2期メンバーは風間俊介、亀梨和也、森雄介。3期メンバーは増田貴久、加藤シゲアキ、東新良和。4期メンバーは薮宏太、八乙女光、鮎川太陽と、なかなかの人材を送り出している。

もっとも輝いていた時期の小嶺麗奈を見よ!

どうにもこうにも地味だった「金八トリオ」の代わりに本作で存在感を放っていたのが、広島美香役を演じた小嶺麗奈だ。
父親は会社社長、母親はジュエリー店経営と、「なんで足立区に住んでるんだ!?」という金持ち家庭の娘で、いつも取り巻きを引き連れ、女王様的に振る舞う女生徒を演じてる。
この時期の小嶺麗奈はとにかく存在感が圧倒的!

『金八』の生徒役は、まだ役者として完成されていない、素人臭さを残した子たちが多いが、小嶺麗奈だけは別格。既に女優として完璧に仕上がっており、〝かわいらしさ〟を排除した完璧な美少女のオーラをビンビン放ちながら、難しい役どころを演じきっていた。

みんなから羨ましがられるようなステキ家庭だと思われていた広島家の内情はボロボロで、父親は会社の女子社員と不倫、母親のジュエリー店はバブル崩壊のあおりで倒産寸前。兄(金子賢)は分かりやす〜くグレているという家庭崩壊状態。

そのうっぷんを晴らすように美香は、学校で金八の娘・乙女(星野真里)を恫喝したり、いじめを煽ったり、高校入試に化粧をして行ったりと周囲を引っかき回していたのだ。
そんな彼女も、高校受験前日に両親の離婚話が持ち上がったことで、夜中に金八の家を訪れ「助けて……。先生お願い、助けて!」と訴える。
それまでガッチリかぶっていた仮面を脱ぎ捨て、中3少女の顔になって流した涙に、「うおおーっ美香。素直になれたんだねっ!」と心をつかまれてしまった人も多いはずだ。

第4シリーズ・リアルタイム勢としては、小嶺麗奈が元・ジャニーズタレントと一緒に逮捕された際、完全に添え物のように扱われていたのには憤慨した(逮捕されたこともショックだったけど)。
全盛期の小嶺麗奈の演技はジャニーズ事務所の「金八トリオ」を圧倒するくらい、ホントにすごかったんだよ!

いつもにも増して説教臭い『金八』

第4シリーズの特徴としてもうひとつ挙げられるのが、やたらと説教臭いこと。
もちろん『3年B組金八先生』という番組自体、武田鉄矢の説教シーンが名物となっているので、良くも悪くも全部説教臭いと言えば説教臭いのだが、第4シリーズの説教臭さは異質なのだ。

従来のシリーズが、教室内で起こった事件を通して現実社会の問題をあぶりだす手法を取っているのに対し、第4シリーズでは3年B組の生徒たちを現実社会の問題に向き合わせるパターンが目に付く。
これには、時代背景も大きく影響していると考えられる。

前作が放送された1988年から本作の1995年にかけて、世界は激動の時代だった。バブルは崩壊し、湾岸戦争が勃発。
それを機に脚本家の小山内美江子は難民キャンプでボランティア活動を行ったり、「特定非営利活動法人JHP・学校を作る会」を設立したりと、国際協力に目が向いていた時期でもある。
1993年には過剰な受験戦争を抑制するため、中学校内での業者テスト実施が禁止に。建前上、学力偏差値が撤廃されたものの、逆に教育現場は大混乱となった。
1995年頭には阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件まで起こっている。

もうひとつ、脚本家・小山内美江子に著書『さようなら私の金八先生』には、第4シリーズをはじめるに当たって「女子高生コンクリート詰め殺人事件」が大きな影響を与えたと書かれている。

女子高生を拉致した不良少年グループが暴行を加え死亡させた上、遺体をコンクリート詰めにして遺棄するという凄惨な事件。この事件の加害少年たちが、『金八』第3シリーズの主題歌「声援」を歌いながら女子高生に暴行を加えていたという。さらに被害女子高生も死ぬ寸前まで「声援」の歌詞である「がんばれ、がんばれ」を、自分に言い聞かせるように口ずさんでいたんだとか。……つらすぎる!

この話を知った小山内美江子は、社会としっかりと向き合ってドラマを描く必要性を感じたという。

教育番組を見せられているのか……

ということで、本作の3B生徒たちは、思いっきり現実社会の問題と向き合うことになる。
みんなで文部省に行って偏差値廃止や受験制度について物申したり、学用品が不足しているカンボジアに寄付するために使用済み楽器を集めたり、20歳になったら骨髄バンクに登録しようと話し合ったり……。

「15歳の父」宮沢保が建設会社に就職し、阪神淡路大震災の復興に取り組んでいることも明かされている。
「中学生も社会の一員である」という考えからなんだろうけど、問題がデカ過ぎて「中学教師がその問題に取り組まなくても……」と思わなくもない。

生徒たちも、金八の説教に感銘を受けてボランティア活動に取り組むなど、ちょっと素直すぎて、教育番組を見せられているような気持ちになってしまうのだ。
デカい社会問題もいいけど、金八にはもっと細か〜い生徒たちの悩みにじっくり取り組んでいってもらいたい。

若干、社会問題啓蒙番組っぽくなってしまった第4シリーズの反省を踏まえてなのか、第5シリーズ以降は『半沢直樹』演出家でもある福澤克雄がチーフディレクターに昇格し、〝フィクション〟としてのドラマチックな演出が加速していくのだ。

1975年群馬生まれ。各種面白記事でインターネットのみなさんのご機嫌をうかがうライター&イラストレーター。藤子・F・不二雄先生に憧れすぎています。
ドラマレビュー