再放送で再注目! 沢口靖子「科捜研の女」マリコと土門の関係の真実【水曜日はあのお仕事ドラマをもう一度】

他の曜日と比べると「お仕事ドラマ」が多い水曜日。コロナ禍でドラマが放送延期になっている今だからこそ、過去に放送されたお仕事ドラマを見直してみませんか?今回は、再放送を見た小学生にも人気急上昇中の長寿ドラマ「科捜研の女」。空気を読まないリケジョ・マリコの成長とファンも気になる土門刑事との関係について、21年の歴史を振り返りつつ考察します。

今回取り上げるのは、同一人物による主演、同曜日、同時間帯放送として最長記録を保持する長寿ドラマ「科捜研の女」(テレビ朝日)だ。京都府警科学捜査研究所(通称・科捜研)の法医研究員・榊マリコ(沢口靖子)が科学の力で犯罪を解明する作品である。

主人公・マリコの口癖は「科学は嘘をつかない」。ドラマは毎日のように発表される実際の科学論文からネタを探しており、ドローンや3Dプリンタは世に広まる前に捜査で使用された。

クールで上品で無表情。それでいて空気を読まず、遠慮をせず、人の気持ちを察するのが苦手。このドラマのヒロイン像はいかにもリケジョだ。どこか浮世離れしたイメージのある沢口のキャラクターとも見事にハマっている。

科学しか信じないヒロインが「科学を扱う人間が大事」だと気付く

新型コロナウイルス拡大の影響で、日中のテレビではたくさんの名作ドラマが再放送中だ。その中でも「相棒」(テレビ朝日)、「科捜研の女」との遭遇率は図抜けて高い(休校によって「科捜研の女」が小学生の間で人気上昇中とSNSで話題になったほど)。この機会に昔のマリコを見ると、驚くのだ。あまりにも外見が変わってない。永遠の若さと美貌を手にしたかのようなびっくり人間っぷりである。しかし、主演の沢口は自身と役を重ね合わせ「共に成長してきた」と公言する。実は初期と現在を比べると、マリコのキャラクターはかなり変わってきている。

このドラマがスタートしたのは1999年。つまり21年前のマリコは、極端に言うと科学しか信じない“科学オタク”だった。周囲(主に上司)との衝突は多く、その度にデータを元に論破しようとする。しかし、シリーズが進むにつれて彼女の内面は変わった。大きなきっかけとなったのは、シリーズ4まで出演した木場俊介刑事(小林稔侍)の存在だ。ベテランの木場は、科学だけを信じる頭でっかちなマリコの正義感に人間への興味や優しさを注入してくれた。頼れる先輩との出会いで、科学を扱う人間が大事なのだと気付いた彼女。そして、今のマリコはコミュニケーションに難のある若手研究員・橋口呂太(渡部秀)を母のような温かい目で見守っている。

時間の経過とともにキャラクターが人間的成長を果たすのは、長寿シリーズの醍醐味と言える。仕事でヒロインが成長する過程を我々は見てきた。

父の心配をよそにマリコを受け入れた科捜研

とは言え、マリコは今も変わらず周囲を振り回している。仕事にのめり込んだら上司や同僚に残業(徹夜になることも)を呼びかけるのは当然。しかも、その後に「ありがとう」の一言もない。そんな猪突猛進な彼女が科捜研で働いてこられたのは、仲間の理解と協力あればこそだ。

マリコの”被害者”として真っ先に紹介したいのは、所長の日野和正(斉藤暁)である。人柄の良さゆえ、マリコからぞんざいに扱われることもしばしば。中でも、昨年放送シリーズ19の第8話は印象的だった。過労で危険な状況に陥ったことのある日野をマリコが京都じゅうの川下りに連れ回し、くたくたになった日野がうんざりしたエピソードは記憶に新しい。さらに19話では京都府警刑事部長である藤倉甚一(金田明夫)を一介の鑑識員扱いし、強制的に事件現場で鑑識させたマリコ。
そんな“上からマリコ”にはピンチも少なくない。シリーズ19最終話では、マリコの鑑定によって兵庫県警の過去の捜査ミスが明らかになった。すると、兵庫県警から忖度を求めるクレームが京都府警に来る。しかし、マリコはそれを断固拒否したのだ。

藤倉「予想通りの反応でしたね」
日野 「ええ、あれが榊マリコですから」

マリコの父で元科捜研所長の伊知郎(小野武彦)は娘が科捜研で働くと聞き、すぐ辞めると予想としていた。「あんな性格ですから~」という口ぶりから、職場でマリコが受け入れられないと覚悟したのだろう。しかし、彼女が科捜研に勤め始めてからすでに20年以上経つ。今や、マリコは立派なベテラン研究員だ。
「それだけ人に恵まれてるっていうことかもしれませんな」(伊知郎)

昔と比べ人との衝突が少なくなったマリコ。成長せず、科学を盲信する頭でっかちのままだったら、「科捜研の女」は20年も続く長寿シリーズにならなかったと思う。

「どもマリ」は仕事上だけのパートナーシップか?

実はマリコには離婚歴がある。前夫は元京都府警刑事部長の倉橋拓也(渡辺いっけい)で、それ以来ずっと独身だ。(シリーズ6最終話では「結婚はもういいけど子どもは欲しい」と発言)

そんなマリコの現在の仕事上(?)のパートナーは、京都府警捜査一課の刑事・土門薫(内藤剛志)だ。ファンの間で「どもマリ」と呼ばれる2人。しかし、土門を演じる内藤はマリコとの関係についてこう触れている。
「視聴者の皆さんは2人の距離が縮まることを期待しているかもしれないけど、マリコと土門は全くそんな風に感じていない」
「男性と女性って何でも恋愛に落ち着けようとするじゃないですか。その方がわかりやすいから。実は、やっちゃん(沢口)と僕の間ではマリコと土門は“恋愛じゃないものにしたい”と話しているんです」(ともに「クランクイン!」2018年3月11日記事から)

だが、そんな2人の絆を確認できる場面がシリーズ19にあった。後妻業で金を稼ぐ森聡美(鶴田真由)を見事なコンビネーションで捕まえたマリコと土門。取調室で聡美は2人に捨て台詞を吐いた。
「私にはアンタたちが、何を犠牲にしても犯罪者を捕まえることで生きている実感を得ている化け物に見えるわ」(聡美)
聡美の口撃は、土門の胸にグサリと刺さってしまった。
「自分の人生を犠牲にして犯人や証拠を挙げている……。そう思ったことはあるか? 俺はそう思ったことがないとは言えん」(土門)
土門にマリコが返答する。

マリコ 「私は、それが自分の人生だと思ってる」
土門 「ああ。俺は、この生き方をやめられない」
マリコ 「私もよ」

聡美に「化け物みたい」と揶揄された2人。でも、裏を返せば「プロフェッショナル」と言い換えられないだろうか? 互いの声を聞き、「この生き方をやめられない」と確認し合ったどもマリ。

「科捜研の女」は、チームで仕事を進める人間たちを描いたドラマ。人への興味が希薄だった初期のマリコを振り返ると、思えば遠くへ来たものだ。

ライター。「エキレビ!」「Real Sound」などでドラマ評を執筆。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレスと格闘技、ドラマ、イベント取材。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。
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