「科捜研の女」4話。悪夢にびびる非科学的なマリコに萌える
11月12日放送「科捜研の女」(テレビ朝日 木曜夜8時)は、滅多に見ることのできない榊マリコ(沢口靖子)の私生活が垣間見えるオープニングだった。自室でぐっすり眠っているマリコ。ピンク色のパジャマを着て、髪の毛はボサボサ。ベッドサイドには人体骨格模型があり、テーブルにはDNA模型が組み立ててある。期待通り、マリコの家は散らかり放題だ。
「寝坊した! ……今日は休みだったわ。寝だめしておこ~う」(マリコ)
思わず、萌え死にしそうになった。休みなく働いていそうなイメージのマリコだが、さすがに彼女にも休日はあるようだ。……と思いきや、白衣を着て事件現場に臨場したマリコ。
「遅くなりました!」(マリコ)
登場しただけで“ダダダン!”と雷鳴のような効果音を被せる演出に悪意を感じる。
日野 「来なくていいのに……。ちゃんと休みなさい」
マリコ 「しっかり休みました。いっぱい寝て、寝だめもしておきました」
休みなんていらない! マリコはワーカホリックだ。
唐突な謝罪に周囲は困惑
オープニングでマリコが見ていたのは悪夢だった。風丘早月(若村麻由美)と宇佐見裕也(風間トオル)に解剖される、意識のないマリコ。
宇佐見 「これでもう、マリコさんに振り回されないで済みますね」
風丘 「本当、はた迷惑な人だった。では……開いてみましょうね」
確かに、日頃からマリコは周囲にひどい無茶振りをしている。こんな夢を見るということは、彼女にも自覚はあるのだろう。
その後のマリコは夢の影響をまともに受け、完全に反省していた。宇佐見に鑑定をお願いする際は「宇佐見さん、いつも振り回して申し訳ないんですが……」とらしくない気遣いを見せ、風丘がやって来ると「いつもはた迷惑でごめんなさい」と唐突に謝罪し、逆に周囲を困惑させる可愛らしさだ。寝だめ(寝だめは睡眠のリズムを崩す)に頼ったり、夢の内容にびびったり、今回のマリコは珍しく非科学的。
夢にびびったマリコがいる一方で、他の人物の言動はいつものマリコばりだった。科捜研にやって来た風丘はらしくないマリコの態度に戸惑いつつ「いや、そんな事より」と話題を変えた。人の話を聞き流し、「そんな事より」と自分の話にすり替えるのはマリコの得意技である。
マリコの口癖「そんな事より」は無神経さを象徴している?
タレントの成沢真弥(篠原真衣)が絞殺されているのが発見された。第一発見者は婚約者の織江雄吾(小堀正博)。そして犯人は、雄吾の母で睡眠プランナーの美香子(杉田かおる)だった。真弥が浮気しているのを知った美香子は結婚を取りやめるよう忠告したが、聞く耳を持たない雄吾。遂に、美香子は真弥を殺すことを決意した。そんなときにやって来たのは、真弥の付き人の藤木蕾(松田るか)だ。
蕾 「先生がこんなに心配してるのに雄吾さんって鈍感すぎますよね。お坊ちゃま育ちでのほほんと生きてるから真弥さんにだまされてても気付かないんですかね。あっ、そんな事より私、編み物が得意なんです」
美香子 「『そんな事』……」
蕾の無神経さに腹が立った美香子は、真弥殺害の罪を蕾になすりつけようと思い付いた。蕾がナルコレプシー(耐え難い眠気に襲われて眠ってしまう病気)だと知っていた美香子は、蕾が眠った瞬間を狙って真弥に会い、そして絞殺したのだ。
確かに、蕾は空気が読めない。「そんな事より」の一言は、彼女の無神経さを象徴している。ということは、「そんな事より」が口癖のマリコは人に恨まれる可能性があるということ? 考えれば考えるほど、マリコが見ていた夢は恐ろしい内容だ。
怪しい人物が順当に犯人
今回は珍しく、怪しい人物が順当に犯人だった。メインゲストが犯人という流れは、このドラマにしてはレアパターン。だって、いつもはよくわからない脇役ばかり犯人になるので……。
逆に言えば、容易に予想できるほど美香子の犯行は短絡的だったということ。息子の彼女が浮気してたからって、そこからいきなり殺すのは飛躍しすぎである。殺人以外にもやるべき手段はあったはずだ。例えば、探偵を雇って真弥の浮気の証拠を集め、それを雄吾に突きつけたっていい。そうすれば、息子もさすがに結婚を考え直しただろう。何も殺すことはないのだ。
しかも、悲惨なのは美香子の親心が息子の人生を大ピンチに陥れている点。婚約者の浮気より母親が殺人犯になるほうが、遥かに救いがないだろう。社長が人を殺した時点で、この会社は完全に再起不能。宣伝部長を任されている雄吾の将来はどうなるのか? 結局、美香子が息子に1番の不幸を招いている。雄吾はとことん女運が悪いな……。
「小豆のカイロ」の皮肉
こんな雑な犯行なのに、マリコらが真犯人に辿り着くのは困難だった。多くの者にアリバイがあったためだ。真弥の死亡推定時刻は午後3時。でも、これにはトリックがある。目が覚めると真弥が殺されているのに気付いた蕾は、自分が疑われることを恐れ、小豆を使って真弥の体を温めた。死亡時刻の偽装を図ったのだ。しかし、マリコはこのトリックを見破った。
刑事 「藤木蕾さん、署までご同行願います」
蕾 「なんでですか? 私にはアリバイがあるんですよ」
蒲原 「事件の日の午前中、スーパーで小豆買いましたよね?」
蕾 「……」
傍から見るとよくわからない会話だが、このやり取りには深い意味が隠れている。蕾が小豆で体を温める方法を知っていたのは、美香子の記事を読んでいたから。なかなか寝付かない幼少期の雄吾のために考案した「小豆のカイロ」を紹介する記事だ。大切な息子のからだを温めるための知恵が、一転してアリバイの偽装工作に使われたという皮肉。しかも、美香子が煩わしく思っていた蕾は本当に自分のファンだった。
それにしても、今回はつくづく怖い人間しか出てきていない。
「結婚するのは生活のため。あんな退屈でつまんない男、本当は嫌なんだけどさ」(真弥)
「織江先生の枕は最高です! 私、先生と一緒にコマーシャルに出て、この枕の良さを全国の人に伝えたいんです!」(蕾)
「この子のためだったら何だってできる……。この子のためなら……」(美香子)
浮気女、計算高い女、過干渉母とひとクセある女ばかりである。悪夢を見たことで自らを省みて、周りの人に優しくなったマリコとのコントラストはあまりに鮮明だ。
次回はこちら:「科捜研の女」5話、牛を巻き込んでイチャつくどもマリ。牛から「人間はめんどくさい」と思われていそうだ
- ■「科捜研の女」シーズン20全話レビュー
- 1:「科捜研の女」沢口靖子と大久保佳代子の対比と久しぶりのどもマリ。歴史の重みが科捜研の強みだ
2:「科捜研の女」2話。マリコと土門のエールで明日からも頑張れる「普通の人なんてどこにもいない」
3:沢口靖子「科捜研の女」料理の鉄人、格付けチェック、海原雄山、激辛アミーゴ……盛りだくさん3話
4:「科捜研の女」4話。悪夢にびびる非科学的なマリコに萌える
5:「科捜研の女」5話、牛を巻き込んでイチャつくどもマリ。牛から「人間はめんどくさい」と思われていそうだ
6:「科捜研の女」6話。干物だらけの60分「この後、干物は科捜研でおいしくいただきました」
7:「科捜研の女」そろそろメンバー入れ替え?思い出に浸りすぎ7話
8:「科捜研の女」8話。マリコ「バクテリアは可能性そのもの。適切な環境で培養すれば、可能性は花開く」
9:最終話「科捜研の女」凍りつくマリコの怖い目、不死身の土門が「どもマリ」の信頼関係を強固に
「科捜研の女」
テレビ朝日 木曜夜8時
ゼネラルプロデューサー:関拓也(テレビ朝日)
プロデューサー:藤崎絵三(テレビ朝日)、中尾亜由子(東映)、谷中寿成(東映)
監督:田﨑竜太、森本浩史 ほか
脚本:戸田山雅司、櫻井武晴 ほか
主題歌:藤川千愛「ありのままで」(日本コロムビア)
出演:沢口靖子 ほか
https://www.tv-asahi.co.jp/kasouken20/