「科捜研の女」8話。マリコ「バクテリアは可能性そのもの。適切な環境で培養すれば、可能性は花開く」

沢口靖子主演「科捜研の女」第20弾がスタート。1999年に始まり、今回また現行連ドラ最多シリーズの記録を更新しました。沢口靖子演じる榊マリコは科学を武器に、凶悪かつハイテク化する犯罪に立ち向かう法医研究員。風丘早月(若村麻由美)の恩師・新海登志子教授(高橋ひとみ)の近辺で立て続けに起きた爆破予告と殺人。殺人の前科を持つ者に未来の扉は開くのか!?

12月10日に放送された「科捜研の女」(テレビ朝日 木曜夜8時)の第8話。

監察医・風丘早月(若村麻由美)の恩師でバクテリア研究の世界的権威である新海登志子教授(高橋ひとみ)が講演するNPO法人のシンポジウム会場に突如、爆破予告が来た。犯人は久保田英司(七瀬公)。かなりの科学的知識、頭脳を有した若者である。久保田が逮捕された後、涌田亜美(山本ひかる)は残念そうにつぶやいた。
「なんで頭の良さをいい方向に使わないかなあ……」

今回のエピソードはある意味、彼女の言葉に集約される。能力やモチベーションがあったとしても、生まれた環境次第では未来への扉が閉ざされる人間もいる。しかし、亜美は……いや、私たちはそんなことさえ知らなかった。

可能性の扉が開いてしまった

大手学習塾経営者・宮本慎一郎(上杉祥三)の刺殺体が発見される。宮本は夢の実現を願う10人の希望者に1000万円ずつ、合計1億円を出資する事業支援を打ち出して話題だった。そして、彼は登志子の研究も支援することになっていた。

実は40年前、登志子の父親は強盗に殺害されている。この事件は迷宮入りして時効を迎えたが、登志子は父を殺した犯人が宮本だと気付いた。

大学進学を望んだ高校時代の登志子は、亡き父からこう言われていた。
「進学は許さん! 女に勉強は必要ない」
夫を殺されたショックで持病を悪化させ、亡くなった母からはこうも言われていた。
「大学なんて行って何になるの。女の子はね、賢くなったって幸せになれないんだよ」

両親を失った登志子は叔母の家に引き取られ、大学進学を許される。親が殺されたおかげで、彼女は学業への扉が開いてしまった。環境が変わったことで、登志子の花は開いた。そして、宮本も奪ったお金で実家の借金を返し、国立大学へ進学することができた。2人とも、環境を変えることで開かずの扉を開けてきた過去がある。

罪を犯した若者は、人生をやり直せるか?

久保田も扉を閉ざされた若者だ。頭の良さがあり、学びたい意欲もある。しかし、彼にはお金がなかった。

ある日、久保田は学生に紛れ込んで“潜り”で登志子の講義を受けていたが、大学に見つかってしまう。職員から注意される久保田を登志子は目撃する。40年前の罪を詫びて「何でもします」と土下座する宮本に、登志子は久保田の支援を依頼した。
しかし、久保田は若者にチャンスを与える宮本のNPO法人を憎らしく思い、逆恨みしていた。だから、久保田はシンポジウム会場に爆弾を仕掛けたのだ。

宮本を殺した犯人は久保田である。爆破予告騒ぎの犯人が久保田と知った宮本は自首するよう久保田の説得を試みた。

宮本 「昔、君によく似た若者がいたよ。だが、不幸な境遇は罪を犯す理由にはならないんだ」
久保田 「てめえに何がわかるんだ」

久保田は刃物で宮本を刺した。久保田は世の中を恨んでいる。人の善意を悪意に受け取ってしまう。そんな彼にさせたのは環境だ。宮本は「不幸な境遇は罪を犯す理由にはならない」と言った。その通りだ。だから、登志子の父親を殺した宮本は因果応報で久保田に刺されて命を落とした。そして、久保田は殺人犯になった。

当初、宮本を殺した犯人に疑われたのは登志子だった。彼女は久保田の罪を黙っていた。久保田が罪を自白するのを待っていたのだ。

マリコ 「おっしゃってましたよね。バクテリアは可能性そのものだって。適切な環境で培養すれば、可能性は花開く」
風丘 「先生は1人の若者にある可能性を育てようとしているんじゃありませんか?」

殺人の前科を持つ者の人生のやり直しは、さすがに難しいと私は思ってしまう。しかしこの若者の花が開き、育たせようと見守る大人もいる。登志子と宮本だ。
「自分から警察に行って、きちんと罪を償って別の人間になって戻ってきなさい。そのとき、扉が開くわ。学び直して生き直すチャンスはきっとある」(登志子)

そして……
「久保田。お前はこれから、爆弾騒ぎの件で送検される。だが、何か言いたいことがあるなら俺が聞こう」(土門)
久保田の肩に手を置き、その目をまっすぐ見つめる土門薫(内藤剛志)。彼も未来ある若者に手を差し伸べる大人の1人だ。久保田は口を開いた。「実は……」

罪を自白したことで久保田の扉が開くかはわからない。でも「もう、なんも変わんねえんだよ!」と自暴自棄になっていた彼が可能性の花を開かせようと希望を持ったことは事実だ。

8話の後、答えを見つけられずに私は困ってしまった。登志子も宮本も閉ざされた扉を開けることができた。でも、そのきっかけは殺人事件。登志子の両親が亡くなったことで2人は科学と教育に貢献することになった。そして、扉を開けた2人によって久保田は自らの扉を開けようと決意した。
人間なら正しい生き方を送りたい。でも悲しいかな、それができない者もいるのかもしれない。そして、そういう人間の存在を知らぬまま生きる人が世の大半というのも事実だ。
「私の扉は閉ざされていませんでした。だから、扉の存在なんて意識したこともなかった」(風丘)

エンディングは榊マリコ(沢口靖子)と風丘と登志子のスリーショットだ。

登志子 「2人とも研究室に寄って帰らない? お友達が海老芋タピオカを持ってきてくれたの」
風丘 「ああ! ぜひぜひ、いただきます」

「1人で食べておいしいものは、みんなで食べればきっともっとおいしい!」と、研究室に向かう3人が希望に満ちた表情をしていたのには救われた。

次回はこちら:最終話「科捜研の女」凍りつくマリコの怖い目、不死身の土門が「どもマリ」の信頼関係を強固に

ライター。「エキレビ!」「Real Sound」などでドラマ評を執筆。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレスと格闘技、ドラマ、イベント取材。
福井県出身。平成生まれ。キモ癒しイラストレーター&YouTuber。 YouTubeチャンネル「ワレワレハフーフーズ」
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