有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」7話。髙橋海人、緊張と緩和が見事な「はい」

有村架純主演のドラマ「姉ちゃんの恋人」。ホームセンターで働いて3人の弟を養う桃子(有村架純)と、人を傷つけて刑務所に入っていた過去を持ち、ひっそりと生きていた真人(林遣都)。二人はようやく恋人に。支えてくれた周りの人々に報告していきます。このまま何の障害もなく、愛を育んでいけるのでしょうか。

ドラマタイトルを象徴する髙橋海人の名シーン

桃子(有村架純)に促され、過去の事件について、自分の目から見た真実を改めて打ち明けた真人(林遣都)。晴れて恋人同士になった二人は、真人の母・貴子(和久井映見)、桃子のおじ・菊雄(光石研)らにしみじみと祝福される。
真人と恋人同士になったこと、真人の過去を三人の弟に全て話す桃子。心配する弟たちに「人を傷つけてしまって、つらい思いを本人もしたから、だから優しい」「私はそう信じる」と伝え、さらに「でも世界とか世の中はそんなにやさしくない」「そんときは、助けてください」「姉ちゃんの味方でいてください」と頭を下げる。いい人ばかりのように見えるこの世界も、どうやらやさしくないことであふれているらしい。だからこそ、桃子のまわりの人々のやさしさが輝いて見えるのかもしれない。

姉の言葉を受けて、改めて二人を応援すること、姉を支え、助けることを決意した3人の弟。その後、いちばん上の弟である和輝(髙橋海人)が一人で真人のもとを訪ね、「もしあなたが姉を傷つけるなら僕はあなたを許さない」と伝える。

桃子の親友・みゆき(奈緒)いわく「世界中が好き」な顔を持ち、甘い笑顔でみゆきとの距離を近づけた和輝。正直、これまで彼の真意は読みきれなかった。どうやら本当に姉ちゃんを好きなことはわかった。けれど、常にふにゃっと柔らかな空気をまとった彼が屈託なくみゆきに言う「好きだよ」も、若さから出た軽い言葉のようにも見えた。みゆきがしばらく躊躇したのもよく理解できる。

しかし今回、おそらくは誰にも言わずに真人に会いに行き、いつもの甘い声のまま、けれど真剣な面持ちで真人に対峙する和輝からは、彼が心から姉を思う気持ちが伝わってきた。
このシーン、特に最高だったのは和輝の「はい」。真人に思いを訴えたあと、頭を下げたまま真人の「和輝くん」の呼びかけに応えた和輝の「はい」。はやる気持ちのまま、一気に伝えたあとの緊張。応援してはいるけれど、心配でもある相手からの言葉を待つ不安。その心の揺れが「はい」の声を震わせたのだろう。その後泣きそうな笑顔で「よかった、めっちゃ緊張した」と続け、またいつもの柔らかな表情で姉の良さを一気に話しはじめる和輝。その緊張と緩和が見事だった。ここに「姉ちゃんの恋人」という弟目線のタイトルを象徴する要素が凝縮されていたように思う。

抱き合ったあとの「まわる?」「まわる」の俯瞰

さて、桃子と真人の件が大きかったゆえに、何話にもわたって和輝との関係を桃子に打ち明けることができずにいたみゆき。いつもの場所、コンビニの横でとうとう桃子に告白する。
このシーン、緊張するみゆきの面持ち、驚き、これまでの和輝を思い返す桃子の表情もさることながら、やっぱり輝いていたのはセリフの細やかさだ。

和輝とのことを話す前に、みゆきは会社が倒産したことを伝える。会社がけっこう好きだった、と話したときの「自分のデスクとか好きだったし、かわいいものとか置いてさ」のセリフ。内容的には必ずしも必要ではない、会社のデスクを好きなもので飾るというささやかな幸せについて触れる脚本に、信頼感が増す。
「お付き合いを前提とした仲良し」という和輝との関係性に桃子が「なんかちょっとイラッとする」とツッコむのもよかった。やっぱりそこ、ちょっと浮かれてる二人の間だから成り立ってることだよね! と、言葉にしないままうっすらと持っていた違和感が、何話かたって回収される気持ちよさ。
無事桃子に認められた二人が噴水の前で抱き合ったあとの、「まわる?」「まわる」のセリフも印象的。二人だけの世界に入る前に確認し合うこの俯瞰ぶり!

「ひよっこ」のような空気感

前回まで、当事者である桃子にさえ「真人のことは大好きだけど、桃子との関係をどう受け止めればいいのかわからない」と悩みをストレートに漏らしていた菊雄。桃子に「自分が決めるから、応援して」と言われた通り、二人の決断を受け入れる。先週までは気持ちを全部言っちゃうこの人がもしかしたら登場人物のなかで一番子どもかも? という気持ちもあったが、今回の様子を見てみれば、ただただ二人を心配するやさしいおじさんだ。それだけに「お願いだから嫌なこと起きないでくれよ」の祈りがフラグのようでちょっと怖い。

桃子と真人が母の働く弁当屋に挨拶に行くシーンのほがらかさには、本作と同じく岡田惠和が脚本を務めた連続テレビ小説「ひよっこ」を思い出さずにはいられなかった。有村架純、和久井映見、そしてやついいちろう! あの洋食店・すずふり亭の裏手と似た空気が流れていた。こういうシーンの、「いろいろあるけどなんだかみんな楽しくなごやか」な空気感、岡田作品の魅力だ。

桃子の同僚、日南子(小池栄子)と真人の先輩、悟志(藤木直人)のシーンは、安心して見ていられる。悟志の謎はまだ明かされていないけれど、日南子のあけすけで飾らない感じ、久々の恋に舞い上がっていたように見えて、抱きしめられたあとの落ち着いた笑顔を見ていると、二人はだいじょうぶそうだと思える。

コンビニ横のシーン、桃子が手にしていた飲み物が500mlのストロング缶から350mlのピンク色のカクテルに変わっていたのは、どういう心境の変化だろう?

■「姉ちゃんの恋人」

1:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」1話。コロナ禍の今と似ている!2020年の私たちのささやかな幸せ
2:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」2話。家族だからこその気持ちと反対の会話
3:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」3話。誰かに気にかけられる、その瞬間があることが幸せ
4:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」4話「年を重ねたことを劣化とかいいやがって、冗談じゃないから」
5:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」5話。聞いてほしいこと、言えないこと。草野球シーンは林遣都の腕の見せどころ
6:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」6話。観覧車での真人の独白「うまくしゃべれない、ごめん」まで4分13秒

ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
漫画家・イラストレーター。著書に『ものするひと』『いのまま 』など。趣味は自炊。
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