有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」1話。コロナ禍の今と似ている!2020年の私たちのささやかな幸せ

有村架純主演のドラマ「姉ちゃんの恋人」。有村演じる安達桃子は、高校3年生の時に事故で両親を亡くし、3人の弟たちを養っている一家の大黒柱。桃子は職場のホームセンターで“吉岡さん”と出会い、日常が大きく変わっていきます。現在の日本と似た未曾有の状況で、有村架純と林遣都のラブストーリーは、どのように紡がれるでしょうか?
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3人の弟を養う姉と、影のある青年との出会い

ホームセンターで働いて、3人の弟を養う安達桃子(有村架純)。店舗のクリスマスプロジェクト担当になった彼女は、配送部の吉岡真人(林遣都)と出会う。プロジェクトの方向性を決める会議で真人が自分と全く同じ考え方をしていたことから、桃子は彼のことが気になりはじめるが、真人にはどうやら人に言えない過去をもっているらしい。

具体的な疫病の名前は一切出てこないけれど、桃子や真人の暮らす世界はいま現在の日本とかなり似た状況らしい。登場人物たちはマスクこそしていないが、真人が手指の消毒をしているカットもあったし、桃子の働くホームセンターで、客がマスクを争って買っていた時期があったことも描かれていた。春頃には自粛が叫ばれ、「今年はいろいろあった」ので職場の飲み会も新年会以来久しぶりに開かれた状況。「ハロウィンって感じじゃなかった」「(フェスが)みんな中止とか延期になっちゃって」「我が家は密で密で嫌になっちゃいますよ」と、私たちの日常でも聞き覚えのある会話が交わされる。

岡田恵和作品での有村架純がもつ強さ

桃子は高校の頃に両親を事故で失い、大学進学を諦めてホームセンターに就職した。勤続9年の27歳、「あいつら幸せにするって決めたんで、私」と、20歳の和輝(髙橋海人)、17歳の優輝(日向亘)、14歳の朝輝(南出凌嘉)、3人の弟のことだけを考え、必死に働いている。真人は一緒に暮らす母・貴子(和久井映見)を守りたいと考えていて、夜勤の配送の仕事の他に、母の働く弁当屋を手伝うことも。母はかつて小学校の先生をしていたが、おそらく真人の過去が理由で同窓会に出席もできていない。

桃子も真人も、それなりに大変な状況であることは簡単に見て取れる。けれども二人とも、どうやらそれなりに幸せそうだ。東京の片隅の、それほど華やかではない町に住み、ホームセンターという職場での仕事にやりがいを感じている桃子。職場の人間関係も良好、弟たちも姉のことを慕い、日々楽しげに暮らしている。真人も就職が難しい立場にあって、過剰にさわやかな上司・高田(藤木直人)とも仲良く、いまの仕事に感謝し、「荷物が多いとうれしい」と語る。母は悲壮なほどの決意で息子を守ろうとし、彼が傷つかないか心配している存在(光石研)もいる。そのあまりにもささやかな幸せがいかに貴重で偉大か、とんでもない2020年を経験している私たちには痛いほどわかる。

家族にも職場にも恵まれている、けなげな男女が出会う。そんなふうにまとめてしまうのは、あまりに薄っぺらだ。桃子がジャージ姿で、コンビニ前でおしゃべりする親友・みゆき(奈緒)の家族はあまりうまくいっていない。彼女の給付金をくすねようとするみゆきの家族の話を聞いて、桃子は「それは最低だ」と答える。この世界はきれいごとだけで成り立っているわけではないし、桃子たちは最低なことに触れて生きているのだ。

有村架純と脚本の岡田恵和の組み合わせといえば、連続テレビ小説「ひよっこ」。高度経済成長期、茨城の田舎から出稼ぎのために上京し、東京の洋食店で働くこととなるみね子の日常を描いていた。父の記憶喪失などたいへんなことを抱えながらも家族に支えられ、洋食店の人々や同じアパートの面々に愛されて暮らすみね子と、今回の桃子は重なる。また同じ組み合わせで2019年に放映された「そして、生きる」(WOWOW)の、様々な苦難に翻弄される主人公・瞳子の姿も思い出される。岡田作品の有村架純が演じる女性はいつも清々しい強さを持っている気がする。なかでも今回の“肝っ玉姉ちゃん”“一家の大黒柱”ぶりはわかりやすく強くて、観ていて気持ちいい。

いまの私たちの状況に寄り添ったささやかな幸せの形

第1話のクライマックス、桃子と真人の二人が出会い、考え方が同じと気づく社内会議のシーンで真人がクリスマスプロジェクトについて語るセリフが見事。きらびやかな飾り付けや派手な演出ではなくて、本物のもみの木を用意してはどうかとたどたどしく話す真人。
「どうすれば売上がとかそういうのはわからなくて、すいません」「(本物のもみの木は)贅沢なのかもしれないですけど」と挟まれるフレーズに嘘がなくて、観ていてすんなりと受け入れられる。そして「本物のもみの木をさわれたらいい」という提案のあとにつぶやくようにこぼれる「ほら、さわるなばっかりだったじゃないですか」。現実の世界が確かにそうだったし、そしていまなお続いているこの状況の中で、この世界の住人たちと一緒に、私たち観る側にもクリスマスを楽しみにする気持ちが芽生える秀逸なシーンだった。

そして第1話の白眉は、ラストシーンに桃子が真人に向かって言ったセリフ。桃子が地球儀売り場に飾った手作りの地球のマスコット。壊れていたそのマスコットを、桃子と出会う前の真人は見かけて、直していた。それを知った桃子がそのマスコットを見せて言う。「壊れかけたけどほら、地球、復活しました」。
この未曾有の状況の中で、ささやかな幸せを求める彼らを見守る3か月間は、私たちにもささやかな幸せをもたらしてくれるに違いない。

なお、職場の飲み会シーンで挟み込まれた「捨てられた椅子に座るシリーズ」の話題は、臼井役のスミマサノリが実際にやっている活動で、その数は500を超える。一見、他の人には理解されづらい「自分だけの喜び」を見つけることが幸せのひとつの形として表現されていて、さらにそれを誰も否定しない世界なのがうれしい。

次回はこちら:有村架純×林遣都「姉ちゃんの恋人」2話。家族だからこその気持ちと反対の会話

ライター。名古屋出身。演劇、お笑いなどを中心にインタビューやレビューを執筆。
漫画家・イラストレーター。著書に『ものするひと』『いのまま 』など。趣味は自炊。
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