映画『僕の好きな女の子』渡辺大知×奈緒「好きだと伝えられない友達以上恋人未満の関係。ニヤニヤしながら台本を読みました」

8月14日に初日を迎えた、映画『僕の好きな女の子』。2017年に又吉直樹さんが書き下ろしたエッセイを原作に、演劇ユニット「玉田企画」で活躍する新進気鋭の劇作家・玉田真也さんが監督・脚本を手掛けました。 心地よい関係を壊すくらいなら、「好き」という想いは心にしまっておこう。……恋をしたことがある人なら誰もが共感できる、歯がゆい想い。ピュアな片思いに心が揺さぶられる、繊細で等身大の物語です。 今回は、本作で主演を務めた俳優の渡辺大知さんと奈緒さんに、映画や恋愛観についてお話を聞きました。

幸せな時間が、いつ壊れてしまうのか分からない儚さ

――渡辺さん演じる加藤に感情移入してしまって、ここ数日ずっと映画を反芻しています。共感するシーンがたくさんありました。おふたりは初めて台本を読んだとき、どんな感想を持ちましたか?

奈緒さん(以下、奈緒): 好きだけど一歩踏み出してしまうことで、大切なものを壊してしまいそうでこわいという経験は、みなさんあるんじゃないかなと感じました。経験がなかったとしても、なんだかすごく羨ましくなる2人だなと。ニヤニヤしながら台本を読んだのを覚えています。

渡辺大知さん(以下、渡辺): いち観客として、この関係が崩れてほしくないなと思いました。加藤を応援したいという気持ちもあって、最後はどうなるんだろうって。ハラハラしながら読みましたね。幸せな時間を過ごしているんだけど、それがいつ壊れてしまうのか分からないところにいる儚さみたいなものを感じました。

――加藤に対して、共感できる部分はありましたか?ご自身が恋愛をするときも、踏み込めないもどかしさを感じることもあるんでしょうか。

渡辺: まさにこの映画のキャッチコピー(今突然、「好きだ」と伝えたら、キミは何て言うだろう)がそうなんですけど、大事な時間や関係性が壊れてしまうから言い出せない、みたいな気持ちはすごく分かります。好きな人に想いを伝えることってすごく素敵なことなのに。
僕は、初めて好きになった人が中学時代の部活の先輩だったんですよ。相手が先に引退してしまうのに、「好きだ」ということを言えずにいたんですね。そうしたらまわりの先輩たちにけしかけられて、ラブレターを書かされたことがあります。その時は、アシストが大事だなって思いました(笑)。

――ちなみに、その恋は成就したんですか?

渡辺: 付き合ったんですが、すぐに「何をしたらいいか分かんないね」って言われて終わりました。

――中学生ならではの淡い恋ですね……。奈緒さんは、ご自身が演じられた美帆に共感できる部分はありましたか?

奈緒: 恋愛対象じゃないからこそ気軽に連絡を取ったり、純粋に男友達として楽しい……という部分には共感できるところがありました。加藤さんからしたらすごく振り回されているけれど、美帆からすれば本当にその距離感が楽しいんですよね。
ただ個人的には、最初からそういう関係性だったのかな?と思いました。やっぱり異性だから、男友達になるのか恋愛対象になるのかっていう時間はあったんじゃないかなって。そこを経て、「友達だ」と思っているからこその距離感なんじゃないかなって。

――なるほど……奈緒さんは、男女の友情はあると思いますか?

奈緒: うーん。学生のときから仲のいい親友はいるので、ないとは言い切れないです。でも大人になるにつれて、成立させるのが難しくなっていくなとは思います。どちらかが好きになってしまうとそれこそ壊れてしまうかもしれないですし。相手に気をつかわせるかもしれないとかいろいろな気持ちが絡んでくるので、難しいですよね。でも、成立はすると思います。

――実際、すごく仲のいい異性に恋をしてしまったら一歩踏み込むと思いますか?

奈緒: そうですね。踏み込みます、たぶん。好きなら恋人として一緒にいたいと思うので。実際はどうするか、やってみないと分からないですけど……(笑)。

――渡辺さんは、男女の友情についてどう思いますか?

渡辺: 自分の中の大事にしていることや曲げたくないことが共通していたら、男女の垣根はこえられと思います。自分の目標に向かって話せる存在というか。やっぱり最初は女性として意識すると思うのですが、話しているうちに性別をこえる瞬間があると思うんですよね。そうなったら、性別関係なく信頼できる存在になると思います。でも逆に言うと、そうなってしまうともう女性として意識することはなくなるんでしょうね。

2人だけの世界観を作り上げ、挑んだ撮影

――監督・脚本を手掛けた玉田真也監督は、舞台中心の方ですよね。撮影中に印象に残っていることはありますか?

奈緒: 本読みの段階から、すごく印象に残っています。これまでは一通り読んでから演出をされることが多かったんです。でも玉田監督の場合は、舞台稽古のように、違うと思ったところでその都度止めて、綿密な演出をしてくださいました。こういう本読みって初めてだったんですよ。監督がそれだけ自分の中に見えているものがあって撮りたいものがあるなら、リハーサルの時間がもっとあったほうがいいのかなと思って。そういう話を大知さんともして、時間が合う時には撮影前にリハーサルを重ねました。これはほかの現場にはないことなので、それによってできあがったものはあると思います。

渡辺: 加藤と美帆がつくる空気感をかためる時間は、しっかり設けました。監督と奈緒さんと、3人で。

――空気感を作り上げて撮影に挑む、という感じだったんですね。

奈緒: そうですね。この2人だけのテンポや世界観があるので、そこは最初にかためました。リハーサルをしていないシーンもあるんですが、最初にかためているからこそ2人の世界観を壊さずに自然にできたなと思います。あの時間があったからこそ、ひとつひとつのシーンで迷いなく、自由に演じることができました。

好きな人にはできないけれど、本当に信頼しているからできること

――映画を観ていると、美帆の言動や行動はひとつひとつ印象的ですよね。思わせぶりというか。渡辺さんが印象に残っているシーンはありましたか?

渡辺: 確かに思わせぶりにも見えるんですけど、美帆にとっては大いなるボケというか、ツッコミ待ちというか……信頼しているからこそ「日常の中でどれだけボケられるか」を楽しんでる感じがしたんですよ。ただ加藤に笑ってほしい、っていう一心。

だからこそ厄介なんでしょうね。すごくピュアな気持ちで、「おもろいやろ?」「おもろい!」っていう会話がしたいだけ、みたいな。思わせぶりでないからこそ、歯がゆくてキュンとするエピソードがいっぱいあったように感じます。

ひとつ疑問に思うのは、美帆は恋人と過ごすときにどんな会話をしてるのかな、ということ。あのボケを彼氏にはやらず加藤だけにやっているなら、思わせぶりだなと思いますけどね(笑)。

――観ている側に考えさせることの多い映画ですよね。奈緒さんは、演じていて美帆に対して思うことはありましたか?

奈緒: 美帆は実はすごくシャイな人なんだろうと思いました。内弁慶というか、人見知りというか。そういう人だからこそ、すべて受け止めてくれる加藤さんにボケを爆発させられるのかな。加藤さんとの距離感は、美帆自身もすごく大切にしているんじゃないかなと思いました。自分に置き換えて考えてみると、美帆がやっていることって相当信頼していないとできないですよね。好きな人にはやっぱり、できない。

――絶対に自分を嫌いにならない、という自信がないとできないかもしれませんね。

渡辺: 最初に台本を読んだとき、僕の勝手な想像ですけど、出会った頃はお互いに「いいかも」という感情があったような気がしたんですよ。でも美帆のほうが恋愛感情じゃないステージに行ってしまって、加藤は最初の気持ちのままでいるというすれ違い。そこが歯がゆいポイントで、「あれ?最初は違かったやん!」って。トキメキを一瞬共有しちゃったからこそ未練が残るというか、簡単には言えないというか。

美帆のボケも「恋愛じゃないよね」っていう確認なのかもしれないですよね。「こういうこともできちゃう関係だよね?恋愛とかじゃないでしょ、どう?」という提示を、ひとつひとつ重ねている感じというか。

奈緒: そうそう。大知さんの話を聞いていて思い出したのですが、「ちゃんかと!」って加藤さんを呼び止めて、「(彼氏と)別れたよ」って告げるシーンがあるんですね。あの後、美帆が意味深に笑うんですよ。あれは思わせぶりだなって思いました。

渡辺: 演じる時に、思わせぶろうと思ってやったんですか?

奈緒: いやいや、あれは玉田監督の演出(笑)!

――これから映画を観る方に、注目してもらいたい見どころはありますか?

渡辺: 2人が最初に落ち合うのが、井の頭公園なんですね。そこでストリートミュージシャンの歌を聴くんですが、この歌の力がすごく強くて。松野泉さんという方が歌っているんですけど、歌詞が2人の関係性を強く表しているんです。すごく切なくて、キュンとするシーンになっています。あと、吉祥寺の町の空気感ですね。町の空気感や景色と2人が一体化していて、素敵だなと思います。

奈緒: 2人の世界と、そこに第三者が入ってきたときに空気が変わる瞬間を楽しんでいただけたらいいなと思います。恋愛って2人のことなのに、やっぱり2人だけではできないというか……周りの人も影響してくるんだということが描かれています。加藤さんが、美帆ではなくお友達に言われた言葉で傷ついたり、気持ちが揺れたり……そういうところは、すごくリアルだなと感じます。

――観る人に訴えかけるような演出がたくさんありますよね。お話をしているうちに、また観たくなってきました。

奈緒: 観終わったあと「あそこってどういうことだったんだろう?」と分析してくれたらうれしいです。それで、もう1回観たいと思っていただけたら最高ですね。

渡辺: ほんわかした空気のわりに、水面下ではいろいろな心理戦が行われています。そういうところも注目していただきたいです。

「僕の好きな女の子」

フリーランス。メインの仕事は、ライター&広告ディレクション。ひとり旅とラジオとお笑いが好き。元・観光広告代理店の営業。宮城県出身、東京都在住。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
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