タナダユキ×蒼井優「タナダ監督の描く女性像が好き。結婚前のいいタイミングでこの役をいただけた」
ラブドールを知ったきっかけはリリー・フランキーさん。
ーーもともとドールをご存知でしたか?
蒼井優さん(以下、蒼井): 実は、リリー・フランキーさんの彼女のリリカさんにお会いしたことがあって。あ、リリカさんはラブドールですよ(笑)。その時に接した経験から、そこまで遠い存在だとは感じませんでした。むしろ、小説が出た時からタナダさんご自身で映画化しないのかな、一緒にやれるといいなと思っていたぐらいです。
タナダユキ監督(以下、タナダ): リリーさんとみうらじゅんさんに本作のパンフレットで対談していただいているんですが、その時リリーさんが「リリカにどう接するかで、その人の品性がわかる。いきなり触ったり、雑に扱う人もいるけど、蒼井さんはリリカに服をプレゼントしてくれた」と感動してました(笑)。
ーーなぜラブドールという題材を選んだのですか?
タナダ: このストーリーを書こうと思ったのは、とある大衆芸能誌で「男の最高の死に方は腹上死だ」という記事を読んだのがきっかけでもありました。「おじさん、何言ってるんだろう?」「女の人だって同じじゃないの?」と思いまして(笑)。
キーって騒ぎ立てるやり方は好きじゃないんですよ。もしも、女性をモノとしてしか見れないような方が世の中にいらっしゃるのだとしたら、私は私のやり方で、「そうじゃないですよ〜」とにこやかに伝えたかっただけです。
ラブドールをモチーフに選んだのは、初めてシリコンでできたラブドールを見た時に、とても感動したからです。とてつもなく美しかったんです。
もともと「職人」に対する憧れや尊敬があったので、ラブドールを作る職人に興味を持ちました。アダルトグッズを作っている限り、彼らが世間にわかりやすく報われることは難しい。それでも、最高のものづくりを続けている姿勢に敬意を払いたいと思ったのです。職業に貴賎はないですから。
ラブドールについて調べていくと、奥様に先立たれた方が癒やしの存在として購入しているなど、全く私の知らない世界が広がっていったんです。そういった、「人が人形を作る想い」ということを、作品にしたいと思いました。
ーー小説から映画化まで11年の期間があります。時代の変化を感じましたか?
タナダ: そうですね。小説を書いていた頃は、取材をするのも難しい面もありました。認知度も低かったですし。それが2017年にオリエント工業40周年を記念して開かれたラブドールの展示会では、30分以上も行列ができていたんです。それも、お客様の半分以上が女性でした。展示方法も幻想的で美しくて......。
この10年で、ラブドールがある意味でアダルトグッズの域を超えた「美しい作品」のひとつとして、世の中に捉えられるようになってきているように感じます。
高橋一生さんも認めた、園子は男子の理想像?
ーー蒼井さんは、ヒロイン園子の役に共感する部分はありましたか?
蒼井: タナダ監督の描く女性像がもともとすごく好きなんです。だから、園子のキャラクターも、すごく好みです。
タナダ: (主演の高橋)一生さんも園子と結婚したいって言っていた気がします(笑)。
蒼井: すごいわかる!多くの世の男子の理想であろう性格。よく笑うし、芯も強い。我ながら、演じてていい子だな~と思っていました。でも、私とはちょっと違うなとも感じていました。
ーーどこに違いを感じましたか?
蒼井: 園子は隠し事ができるんです。相手を思いやって、自分の秘密を打ち明けずにいることができる。私は自分のために何でも相手に話してしまう。秘密を持てるところに、園子の強さを感じます。
ーー園子は、主人公・哲雄にとって理想の妻でした。もしパートナーから理想を求められすぎてしまったとして、ご自分だったらどう対応しますか?
蒼井: 鼻で笑ってあげたいですね(笑)。そういう理想はありますけど、実際は努力しちゃうと思います。
タナダ: 1週間くらいは頑張れるかもしれないけれど……どうせいつか化けの皮が剥がれると思います(笑)
蒼井: それはわかります。私も20代までは頑張れたけれど、30歳を過ぎて、変わるのは無理って感じているかも。
タナダ: キャパ狭いです、すみません!って(笑)。でも早めに白状した方がお互い楽だと思います。
ーー映画の中では、園子と哲雄の関係性の変化が描かれています。お二人にとって、パートナーとの理想の関係性とは?
タナダ: 愛情は常に変化していくものだと思います。変わっていく中で、自分の中で相手に対して変わらないものは何なのか、相手の尊敬できる部分を忘れずにいられるのが理想なんでしょうね。
そして、嘘はない方がいいだろうなとは思います。
嘘をついてしまったら、墓場まで持っていく覚悟をした方がいい(笑)。
でも、普通のメンタルの人だったら、嘘を抱えてしまったら墓場まで秘密を持っていくのは耐えられないと思うので(笑)、相手に対する尊敬をなるべく忘れないようにしつつ、嘘がない関係性が理想だなとは思います。
蒼井: 私にとっては、パートナーのことを正しいと思い込めるような関係が理想ですね。この人は私より絶対正しいんだと思いたい。相手の短所が見えた時でも、恐れずに相手の長所を見続ける。そういう努力を私が怠らなければ、いい関係性を続けていけるのではないかなと思います。
他人同士が家族になるってそういうことなのかなって。うちの両親を見ていて学んだことです。
ーー相手の長所を思い出すコツってあるんですか?
蒼井: まだ忘れるほど一緒にいないので(笑)。その質問には20年後くらいに答えたいですけど、「長所なんて忘れますよ~!」って言っているかもしれないですね(笑)
どの登場人物に対しても同じ目線と客観性、そして敬意を持っていたい
ーー哲雄は世の中のダメ男を集結したようなキャラクターだと監督はおっしゃっていました。
タナダ: 哲雄は精神的に甘えがある人。奥さんを自分の理想に押し込めて、家族という関係に甘えてしまい、ちゃんと向き合えない子どもみたいな部分もある。仕事はできるのに。
こういう男性、案外多いような気がしませんか?(笑)。ロマンチストをこじらせているところもあるのかもしれませんが(笑)。
もちろん、それを批判するつもりはなくて。私自身、小説を書きながら、自分が男だったら哲雄みたいになるかもしれないと、戒めの気持ちがありましたし(笑)。
映画では高橋一生さんが演じてくれたことで、ダメなのに憎めないというキャラクターになったのは、本当によかったと思っています。
ーー小説のあとがきにありましたが、それまで何を作っても「女性ならでは」と言われてしまうことに戸惑いを覚えた、とのことですが?
タナダ: 女性の中にだって、おじさんの要素ってあると思うんです(笑)。雄々しい部分であったり、何かを守らなければという父性のような部分。一方でおじさんの中にだって母性のような優しさやピュアな乙女の部分があると思うんです。この性別だからこの考え方しかしない、なんてあり得ないですよね?「その人個人の心模様」はその時々で様々に変化するものだと私は思っています。
あとは、昔からどんな作品を作っても、「女性監督ならではの」って言われてきたので、「これでも言う?」という小説を書いてみたかったという思いは書いた当時ありました(笑)。
この業界に入ってからなんです。やたら「女性」と言われ出したのは。私は女性である自分を全く否定したことはないですし、女性でよかったなと思うことが沢山あります。ただ、あまりにも言われることには違和感を覚えました。世の中は男か女か、の二択ではないですし、同性でありさえすれば同じ考え方をするわけでもない。女性というだけで括られて、「その人個人」として論じてもらえることが昔は本当に少なかったので窮屈でした。今は少しずつ変わってきたなと感じます。とはいえ、まだまだですけど。
作り手個人としては、登場人物たちには同じ目線と客観性を持ち、そして敬意も忘れないようにしたいと思っています。
この映画は誰かと生きていきたいと思っている人に見てほしい
ーー特に注目してほしいシーンはありますか?
蒼井: 「きたろうさんと一生さんのイチャイチャ、渡辺えりさんを添えて」……って料理みたいですが(笑)。最高のバランスだったので、工場を舞台に朝ドラやってほしいです。
私が出ているシーンの中だと、一生さんとの食卓のシーン。セリフがない部分にも言葉があるというか、相手の腹の中の声を探りながら会話しているのは、「タナダ監督とやってるな」という感じがして、楽しかったです。
ーー見た人にどんなメッセージを受け取ってほしいですか?
タナダ: これは普通の夫婦のお話です。お互いの努力が噛み合わなくてだんだんすれ違って、その先に彼らは何を選択するのか……というストーリーです。
夫婦やパートナーには、その人たちにしかわからない問題があって。それを解決するのも、当人たちがどう物事に向き合うか、勇気を持てるか、だと思うんです。
だから、お互いが少しだけ歩み寄ろうとしたら、何かのきっかけで仲良くなれることがある、ということも描きたかったんです。この映画を観て仲良しになるきっかけを持ってもらえたらいいなと思います。仲良しでいた方が、みんな楽しいじゃないですか(笑)。
そして何よりこの映画は「残された人間はどう生きるのか」というテーマで作っているのですが、そのために今回は「ドール」が存在します。ある夫婦の一つの形を覗き見ていただければ、と。
あとは、スネに傷のある人に見てもらえるとうれしいです(笑)。
蒼井: 誰かと生きていきたいと思っている人に見てほしいです。『ロマンスドール』は、誰かの体温を感じながら生きていくことと、その先を感じさせてくれる作品。一人で生きていくと決めた人にも、そうでない人にも見てほしいなと思います。
ーー今の世の中、一人で生きていくことを決意している人は多いような気がします。
蒼井: 決めたってことがお守りになる人なんだったら、それで全然否定しないですが、思った通りに人生いかないですから!私だって、撮影の時(2018年12月)は、まさか自分が結婚するなんて思ってなかったですし(笑)
当時はゼッタイに結婚できないと思っていたんですよ。
もし結婚できるって決まっているのなら、教えてほしかったですね。
タナダ: 撮影のときは一生さんと二人で「私たち、結婚とか無理だよね」って言っていたので、結婚報告を聞いた時は、本当にびっくりしましたよ(笑)
蒼井: そういう意味でも、結婚する前に園子を演じることができてよかったです。経験は演技に影響してしまうので、結婚した後だったら、脚本の読み方も変わってしまったと思います。
すごくいい時期にこの役をいただけて、感謝しています。
●タナダユキさんのプロフィール
01年初監督作品『モル』で第23回PFFアワードグランプリ及びブリリアント賞を受賞。2008年脚本・監督を務めた『百万円と苦虫女』で日本映画監督協会新人賞を受賞し、その後も数々の話題作を世に放ってきた。近年の作品に映画『お父さんと伊藤さん』、ドラマ『昭和元禄落語心中』など。
●蒼井優さんのプロフィール
1985年生まれ。01年に『リリイ・シュシュのすべて』(岩井俊二監督)ヒロイン役で映画デビュー。06年に『フラガール』(李相日監督)で第30回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞、新人俳優賞をダブル受賞した。その後もドラマ・映画に数多く出演している
「ロマンスドール」
1月24日(金)全国ロードショー
脚本・監督:タナダユキ
原作:タナダユキ「ロマンスドール」(角川文庫刊)
出演:高橋一生、蒼井優、浜野謙太、三浦透子、大倉孝二、ピエール瀧、渡辺えり、きたろう
配給:KADOKAWA
■公式サイト romancedoll.jp
■公式Twitter https://twitter.com/romancedoll
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