南沢奈央さん「28歳で変化した仕事観。30代になるのが今すごく楽しみです」

今、心が満たされています――。まっすぐで簡潔な言葉と、晴れやかな表情でインタビューに答えてくれた女優の南沢奈央さん(29)。20代後半になって実感する仕事観の変化や、「やりたいことがありすぎる」というこれからの人生の展望について、出演中の舞台『阿呆浪士』の稽古の合間にお話をうかがいました。

あんまり考えすぎてもダメなのかもしれない

――1月8日からの舞台『阿呆浪士』で演じるお直という女性は、明るくて真っ直ぐですこしお転婆な役柄ですが、実際の南沢さんってどんな人なんでしょうか?

南沢: かけ離れています(笑)。人見知りっていうのもあるんですけど、お直みたいに言いたいことをバーっと言う……みたいなことは私はできなくて。言いたいことがあっても胸にしまっておくタイプですね。人に何か言うとしても、一旦自分の中で考えて悩んでから伝えるので。結構時間が経ってから、「実は……」と打ち明けることが多いと思います。

――性格的にかけはなれた役を演じる中で得た、気づきなどはありますか?

南沢: あんまり考えすぎてもダメなのかもしれない、と思うようになりました。この台本についても、自分についても。相手の芝居あっての自分の芝居だから、その都度自分の出かたも変えていかないと面白くならない、という言葉を先輩からいただいて。最近は、同じ舞台の上にいる方々のお芝居をちゃんと感じて、自分の芝居をつくっていこうと思っているところです。

とくにこの作品は喜劇なので、キャスト同士の空気感の大切さをより感じます。私は普段、稽古場ではあまりしゃべらず台本を読んでいることが多いんですが、今回の舞台は女性の出演者の方が多かったり、先輩方が話しかけてくれたりするので、和気あいあいとしたいい空気感になっていると感じています。

語る南沢奈央さん

私、どういう立ち位置にいたらいいんだろう?

――南沢さんは来年で30歳ですね。「telling,」は30歳前後の女性が主な読者で「20代が終わってしまうことに焦りを感じる」という声もよく聞くのですが、南沢さんは20代ラストの時間を過ごしていて、なにか焦りみたいな感情はあったりしますか?

南沢: まったくないです。むしろ、早く30代になりたい。私にとっては、20代って役者としてはちょっと微妙な年代に感じていて。役柄的にも、学生役はできないけど母親役をやるにはまだすこし早いですし。とくに20代後半は、後輩も出てきたけどまだまだ先輩もいて、「私、どういう立ち位置にいたらいいんだろう?」って悩んでいました。新人でもないけど、誰かに何かを教えられるほどでもないし……って。30代になってからのほうが、もっと自分が楽になれそうな気がしているんです。

――実際に年上の女性から「30代のほうが楽しいよ」という助言を受けたりしたことは?

南沢: 私、本が好きでよく読むんですけど、好きな作家さんに女性の方が多くて。私の好きな色々な作家さんが、皆さん「30代になって生きるのが楽になった」と書かれていることに気がついたんです。そういう本を読みながら、30代が楽しみになっていったというのもありますね。

――10代でデビューして、20代を通して女優として活躍されてきましたが、今振り返って、ご自身ではどんな20代だったと感じているのでしょうか。

南沢: 20代になった頃はこの仕事をしながら大学に通っていたのですが、22歳で卒業していよいよ女優業一本でやっていくとなったとき、とても不安だったんです。まわりの同級生が就活している姿を見て、「私は就活を経験しないで人生が終わるのかな」と思ったりして。みんなが一生懸命、どういう仕事をしていきたいか?と自分と向き合っているタイミングで、私はこのまま女優の仕事を続けていっていいのかな?と考えていました。

「この仕事をやっていく」と心が決まったのも、じつは去年、28歳になってからくらいのことなんです。やっていく、というよりは「やっていけるかもしれないな」と思えるようになったというほうが正しいかもしれません。

ほほえむ南沢奈央さん

――そう思えるようになったのはなぜですか?どんな変化があったのでしょうか。

南沢: 去年くらいから、少しずつ自分の中に欲が出てきました。次はこういう仕事をしたい、こういう役をやりたいと、自分の意志が自分で見えてくるようになって。それまでは与えられた仕事を、「はい」と受けていく感じだったなって。

考え方が変わってきたのは、年齢的なこともありますが、仕事をちゃんと選択させてもらえるようになったことが大きいかもしれません。やりたいことを選ぶのもそうですが「今自分がやるべきではない仕事」を判断することも、これまではしてこなかったことです。

そうすることで、自分で選んだ仕事に対する強い責任感も湧いてきましたし、自分の意志をよりしっかり自分に問いかけられるようになりました。周りを気にしすぎず、自分らしさとはどんなものか、ここからさらに考えていけたらいいなと思っていて。だから今、30代になるのをすごく楽しみにしているんです。

読書、ロッククライミング…やりたいことが多すぎる

――ところで、南沢さんと同世代のtelling,読者には、婚活で悩んでいる女性がたくさんいます。南沢さんは、理想の男性像のようなものはお持ちですか?

南沢: うーん……私は趣味が多いので、一緒に趣味を楽しんでくれる人がいいですね。あとは、ちゃんと女性の気持ちを理解してくれる人。完全に分からなくてもいいんですが、分かろうとしてくれる姿勢があったらいいなと思います。

――趣味といえば、南沢さんは趣味である読書が書評の連載の仕事につながるなど、いつもやりたいことに深く向き合っていらっしゃる印象です。最近はロッククライミングもされているそうですね?

南沢: そうですね。最初はボルダリングのジムに通っていたんですが、そのうちに仲間が増えて、グループに山好きな人がいたりしたことから自然と「外岩(そといわ)」も行こう、みたいな流れになって。最初はちょっと山の空気を吸ってこよう、くらいの気分だったんですが、やってみると五感をフルに使って岩を登っていくことにジムと違った楽しさがあって。すごくリフレッシュできるんです。

語る南沢奈央さん

――これからも、活動範囲がさらに広がっていきそうですね。

南沢: やりたいことが多すぎて時間が足りないんです(笑)。すでに好きなこと、それこそ読書もクライミングも引き続きずっとやっていたいですし、チャレンジしてみたい仕事もたくさんあるんです。好奇心があふれすぎていて、この好奇心がいつかなくなってしまったらと怖くなるときがあるくらい。それほどに今の自分の生活と、心が満たされているなと思います。

●南沢奈央さんのプロフィール
1990年6月15日生まれ、埼玉県出身。2006年に女優活動をスタート。主演ドラマ・映画「赤い糸」(08-09)で注目を集め、ドラマ・映画・舞台・CMなどで活動。近年の主な出演作に、【舞台】「HAMLET-ハムレット-」(19)、「恐るべき子供たち」(主演・19)、「罪と罰」(19)、「ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル」(パルコ・18)、【映画】「咲-Saki-阿知賀編episode of side-A」(18)、【ドラマ】「螢草菜々の剣」(19)などがある。女優業の傍ら、NHK「上方落語の会」案内役、BookBang「南沢奈央の読書日記」連載、ほか、テレビ、ラジオのナビゲータなど幅広い分野で活躍中。

  • 〈出演作インフォメーション〉
    『阿呆浪士』
    1月8日(水)〜1/24日(金)
    新国立劇場 中劇場にて上演
    1月31日(金)~2月2日(日)
    森ノ宮ピロティホールにて上演

    脚本:鈴木 聡 演出:ラサール石井
    出演:戸塚祥太(A.B.C-Z)/福田悠太(ふぉ〜ゆ〜)/南沢奈央、伊藤純奈(乃木坂46)/小倉久寛、他

    公式サイトはこちら

編集者・ライター。東京生まれ、魚座、花と川が好き。思春期がまだ終わっていません。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。