女優(76歳)

十朱幸代さん「群れなくていい。好きなことをして、真に自由に生きていく」

女優・十朱幸代(76) 昭和から平成へ、60年以上にわたり女優として活躍なさっている十朱幸代さん。2018年夏はドラマ「高嶺の花」に出演、秋には自伝『愛し続ける私』(集英社)を上梓しました。インタビュー前編では、俳優・小坂一也さんとの事実婚と別れ、そして国民的アイドルとの恋にもお話は及びました。後編では、SNSなどで何かと周囲に翻弄されがちな私たちが気づかなくちゃいけないことや、毎日を明るく前向きに楽しむヒントを伺いました。

高校時代の友人とは今でも続いています

実は友達についてお話するのは、あまり得意ではありません。私は15歳から女優の仕事を始めたせいで、学生生活が中途半端で。仕事でも、劇団など固定の組織に所属したことがないので、先輩も後輩もいないんです。

唯一お付き合いが続いているのは、高校時代の学友5~6人だけ。今も連絡を取りあい、月に1~2回顔を合わせてはご飯を食べたりしています。お互いにもういい大人で、適度な距離感があるから長続きするのかな、と思っています。人間にはある程度、自分というものが侵されないところにいたい気持ちがありますものね。

孤独と自由はセットです

仕事の現場、たとえばドラマの撮影中に、ものすごく仲のいい共演者ができても、お互い次の仕事が始まるとなかなか連絡もできない。もちろん友人関係が続く場合もあるでしょうが、私はとにかく忙しかったので、友達づきあいに重点を置いた時期がなかったんですね。恋をしていたら当然そっちに行っちゃうし(笑)。

だから、なんでも1人でやるのが当たり前でした。1人の時間も苦ではないのですが、ほら、小説なんかによく出てくるような、顔を合わせれば悪口を言い合うくせに、心の奥底では繋がっているという友人関係。ああいうの、憧れます。

群れない分、私には自由がありました。孤独と自由はセットですからね。そもそも友達と自分を比べたり、誰かと繋がっていたい気持ちが強いからこそ孤独を感じるわけで。

今多くの人が使っているSNSも、他の人が上げた写真を見て、誰かと自分を比べてしまっている方が多いのかな、と思います。誰々さんは私より幸せそうだとか、毎日充実していそうでいいな、って人をうらやむのは、全然楽しくないし、自ら不幸になるために見ているようなもの。

SNSも今日のような取材の写真も同じで、たくさんある中からいいところだけを選んで載せているのだから、「嘘」なんですよね。私だって「上半身はきれいに作っているけど、足元は写らないからこれでいいや」って、ものすごい格好でいる時もありますもの(笑)。

本当は見えている部分の10倍くらいの現実があって、他人に見せたくないものは載せていない。私はそういう世界でずっと仕事をしてきたから、人がどんな写真を上げていようと全然気になりません。

そう考えると、インターネットが発達して便利になったものの、同じくらい難しい社会になったのかもしれませんね。人の心なんて、時代が進んだところで大して変わらないと思うんですよね。科学が進めば進むほど人間的な部分は死んでいくのだとしたら、心はどうすればいいのかしらね。

嫌なことはできるだけ早く忘れて

私は、心は強い方だと思います。もともと、辛いこと悲しいことが起きてもさほど引きずらない性格ですが、意識してそうしているところもあります。だって、引きずって得なことなど1つもないんだもの。できるだけ早く忘れて、気持ちを切り替えるよう心がけています。

ストレスを感じたときに効果があるのは運動だと思いますよ。ジムで体を動かしている時は、不思議とクヨクヨしたことは考えない。悩みが抜けるのも早い気がします。でもウォーキングはダメです。頭が暇すぎて思考の時間になってしまうので。私も、予定がない日の昼間は、1時間ほど体を動かしています。

生きがいになる何かを見つけ、日々を謳歌して

私の場合、女優という仕事に人生のすべてを捧げてきましたが、悲しいこと辛い事があっても仕事をしている間だけは忘れられたんです。

なかには「情熱はないけれど生活のために働いています」という方もいることでしょう。そういう場合は、仕事以外に「これ」というものを1つ見つけるといいと思います。のめり込める趣味がある人はそれでいいし、人の世話をやくのが好きな人は徹底して家庭のことをやるのもいい。どんなことでも一生を賭けるつもりでやったら、それなりに結果も出るし、振り返った時に価値のある人生だったと思えるのではないでしょうか。

特に私たちくらいの年齢になると、それがある人とない人では明らかに幸せ度が違います。お金にならなくてもいいので、ぜひ生きがいになる何かを見つけて、日々を謳歌してください。30代40代なんて、人生で一番楽しい時期じゃないですか。いいな。私も30代に戻りたーい!(笑)

  • ●十朱幸代(とあけ・ゆきよ)さん
    1942年東京・日本橋生まれ。俳優・十朱久雄と母・光子の間に三人兄妹の長子として生まれる。中学生でモデルを始め、見学に訪れたNHKでスカウトされて「バス通り裏」の「元子」役に抜擢される。絶大な人気でドラマの大ヒットの原動力となる。以来現在に至るまで、テレビ、映画、舞台、ラジオに活躍。1984~96年「日本アカデミー賞」を、優秀主演女優賞など5回にわたり受賞。2014年「旭日小綬章」受章。
フリーライター。アパレル勤務を経てライターに。アイドルから文化人まで、インタビューをメインに執筆。

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