女優(76歳)

十朱幸代さん「恋愛は大切。人生でいちばん素敵な感情だと思います」

女優・十朱幸代(76) 昭和から平成へ、60年以上にわたり女優として活躍なさっている十朱幸代さん。2018年夏はドラマ「高嶺の花」に出演、秋には自伝『愛し続ける私』(集英社)を上梓しました。その十朱さんがインタビューの場に現れると、パッと一瞬で場の空気が華やかに。“さすがは大女優さん”でありながら、(失礼にも)「可愛らしい」と著したくなる、あふれる笑顔を浴びるうちに、いつしかこちらの緊張もほぐれます。仕事、恋、人生の選択のこと、telling,世代の皆さんに届けたいメッセージをたくさんいただきました。

恋愛はたくさんしてきましたが、結婚したことはありません

私は今年で、女優生活60年。15歳の時から、この道ひと筋でやってきました。普段、若い方に向けてお話しする機会がないので、今日はちょっぴりドキドキしています(笑)。

私はこれまで、恋愛はたくさんしてきましたけれど、いわゆる「結婚」をしたことはありません。17歳から32歳までの15年間、小坂一也さんという役者さんと恋人関係にあり、今で言う事実婚のような状態でしたが、この時もあらかじめ「結婚は望んでいないんです」という前提でのお付き合いでした。

当時は女性が結婚したら家庭に入るのが当たり前。芸能界も同じで、女優業との両立など考えられない時代だったんですね。ご縁のあった男性はほとんどの人が結婚という形をとりたがりましたが、私は早くから家庭より仕事を選ぶと決めていました。

単なる共同生活者として同居するだけならともかく、家庭を守り、子どもを生み育ててとなると、仕事とのバランスをとるのが難しくなりますから。そのため結婚の話が出た時点で終わってしまった恋も、ずいぶんありました。

今の若い人たちのなかには、結婚も育児も仕事も、すべてを両立させるべく頑張っている方がたくさんいらっしゃいます。けれど、まだ日本はそういう社会になってから、さほど時間がたっていません。いくら時代が進み、生活も便利になったとはいえ、1人で3つの役割を担うのは大変なこと。あっちもこっちもと手を広げて、気づいたらほころびが……とならないようにするためには、「選ぶ」ことも必要なのかもしれません。

「恋多き女」ゆえの誤解、そして真実

私はメディアから「恋多き女」などと言われましたが、それは私がお付き合いしている事実を隠さず、いつもあっけらかんとしていたせいかもしれません。ただ、実際には心当たりのない噂も少なくなくて。たとえば若き日の俳優・三浦友和さんとガールフレンド役で共演した際には、彼のファンから非難ごうごうの手紙が届いたこともありました。当時、友和さんの人気はものすごかったので、やきもちを焼かれたんでしょうね。でも、本当に何もなかったんです。

そのあとも、若い男性と共演すると「年下の彼」だとか、次から次へと噂を立てられましたけど、仲良しのゴルフ仲間だったり、お仕事でご一緒しただけだったり。根も葉もないことを、いろいろ書かれたりもしましたね。

本当におつきあいした方とは、変にコソコソしたくなかったので、おつきあいしてることは隠しませんでした。お相手の方にの事情にもよりましたけどね。本にも書きましたが、夜中のドライブに、似合わないカツラ姿で現れたりした超二枚目の方もいましたし(笑)、マネージャーや付き人なしでたった一人で自分で車を運転してうちの前まで迎えに来てくれた人もいました。その方もとても人気のある元アイドルの方でしたけど、コソコソせずキッパリとした、気持ちのまっすぐな方でした。

恋をしている時の高揚感は、人生の中で一番素敵な感情

女として生まれて、子どもを持たないというのはやはり考えてしまうところですけれども、私の場合、何よりもまず仕事で自立したいという気持ちが強かったので、自分が選んだ生き方を後悔したことはありません。せっせと働いたおかげで、20歳の時には両親と暮らすための家を建てることもできました。

でも今や芸能界も変わり、結婚や出産・子育てを経て、深みのある演技をする女優が求められるようになってきています。なので私が今、選択肢がある年齢だったら、やっぱり皆さんと同じように迷うかも。結婚するか、または子どもだけでも生んでおくか……。悩ましいところですね。

まあ結婚はともかく、恋は大切! 恋をしている時の高揚感は、人生の中で一番素敵な感情だと思います。近頃は、若い人の恋愛離れなどということも耳にしますが、それって自分を大事にしすぎているせいもあるのでは? 自分を投げ出して捨てるくらいの覚悟がないと、恋なんてできないと思います。

自分を守りながら、恋愛のおいしいところだけ摘まもうとしても、それは無理というもの。確かに、何もせずに殻に閉じこもっていたら傷つくことはないですが、その代わりいいこともやってきません。恋愛に限らず、人生、何事も自ら決断して進んでいくしかないと思います。

  

愛し続ける私

愛し続ける私
十朱 幸代 (著)
出版社: 集英社 (2018/10/5)

  • ●十朱幸代(とあけ・ゆきよ)さん
    1942年東京・日本橋生まれ。俳優・十朱久雄と母・光子の間に三人兄妹の長子として生まれる。中学生でモデルを始め、見学に訪れたNHKでスカウトされて「バス通り裏」の「元子」役に抜擢される。絶大な人気でドラマの大ヒットの原動力となる。以来現在に至るまで、テレビ、映画、舞台、ラジオに活躍。1984~96年「日本アカデミー賞」を、優秀主演女優賞など5回にわたり受賞。2014年「旭日小綬章」受章。
フリーライター。アパレル勤務を経てライターに。アイドルから文化人まで、インタビューをメインに執筆。