【真船佳奈】#2前編 初歩的なぼられ方をしてNYの通行人全員が詐欺師に見えた【ぼっち旅】
●#2 ぼられている方が、旅は楽しい〈前編〉
ある程度、海外旅行の回数も重ねてきた私の悪い癖は、旅先でいつも「旅慣れてますアハーン感」をついつい出してしまうことだ。「乗り継ぎすら満足にできない奴が何を言うか」と思われるかもしれないが、昔「偽バックパッカー」をやっていたこともあり、海外旅行処女のフリができない呪いにかかってしまっている。
そんな私は今回の旅でもアハーン感を出しまくっていた。
JFK空港の入国ゲートをくぐると、たくさんの現地ガイドや違法タクシー運転手が集まってやってきた獲物を逃すまいと手をこまねいていた。明らかに全員悪人、アウトレイジ状態。
大体の旅慣れた人ならこんな怪しいやつらに構わず地下鉄か、あるいはきちんと公式のタクシー(イエローキャブ)に乗るのだが、こちらはれっきとした偽バックパッカー。
「タクシーならこっちだよ」と話しかけてきた男性にホイホイついて行った。
聞けば彼は今はやりのUberの運転手。「44ドルくらいで目的地まで行くよ。渋滞次第で少し値段は変わるけど」と言ってきたので(アハーン今はやりのUberね、よく知らんけど)と思いつつ、どう見てもやばそうなタクシーに躊躇なく乗り込んだ。
車内では、君は何の仕事してるの、とか他愛ない話をしていた。
私は「TV Director」といううろ覚えの単語をいうのが精一杯だったが、「どんな番組をやっているのか」と聞かれ、英語で簡単に言えそうだったので「犬と鳥が歩く番組」という謎な上に思いっきり嘘の回答をした。
するとそのクソつまらなさそうな番組になぜか興味を持った運転手が「それは生放送なのか」「鳥は台本通りに歩くのか」と切り込んできた。
私の英語能力はパンクし、一言「アハーン」と言ったまま黙りこくった。
犬と鳥が散歩をする謎の生放送番組を作っている寡黙なディレクターという設定に甘んじることにしたのだ。
“You deceived me!(騙したわね!)”
■1st attack…めちゃくちゃ初歩的な白タク被害にあう
しばらくそんな不毛な会話をしているうちに、目的地付近にたどり着いた。運転手がにこやかに「OK、167ドルくれ」と言ってきた。
167ドル……だと……!?
日本円でおよそ2万円。通常料金の4倍。思いっきり、ボラれたのである。その瞬間、私の口からすごい英語が出てきた。
“You deceibved me!(騙したわね!)”である
日本語でも1回も言ったことないので、何でこの英語が口をついて出てきたのかわからないんだが、後からよくよく考えたら「オペラ座の怪人」の主人公が怪人にブチギレかますシーンのセリフだった。(私はオペラ座の怪人の歌を一言一句暗記している)。
あっちも、「犬と鳥が歩く番組のディレクター」だと思っていた日本人女性がブチギレてきたので驚いている。
私は負けずに「料金明細を見せろ!」と叫び、見せられた画面がこちら。
Uberだというのは全くの嘘。タクシードライバーとして認可を受けていない白タク。
運転手と押し問答になった時、私は旅行用の財布を取り出し、マジックテープの音をバリバリさせながら「金はない」と言った。運転手もバリバリザイフの音を聞いて「本当に金がなさそう」と思ったのか「100ドルで手を打つ」と言ってきた。
それでもなお怒りが収まらなかったが、ここはニューヨーク。運転手は悪の手に染まった男。このままひき肉にされてハンバーガーにされてもおかしくないのである。
仕方なく命と引き換えの100ドル紙幣をわたし、車を降りた。あんなにアハーン感出してたのに、これはとてつもなくショックな出来事だった。
後ほど調べたところ、この「JFK空港白タク」はめっちゃくちゃ初歩的なボラれ方であることが判明。調べた中には500ドルも取られた人もいて、なんというかめちゃくちゃ儲かってるだろうことが伺えて怒りをさらに助長してくる。なんなん、まじで。
I don’t have money!!(私お金ないから!!)
■2nd attack…めちゃくちゃ安全そうなキャラにぼられる
気を取り直してタイムズスクエアに行くことにした。
すると、傷ついた私の心を癒すように、可愛らしいキャラクターが寄って来た。気を抜いた体型のバットマンさんと、愉快な仲間たちだ。
彼らは「ウェルカムニューヨーク!」と言いながら、私を手招きして一緒に写真を撮ってくれた。私は満面の笑みを浮かべて大きなピースをして写真を撮った。
うれしい、たのしい、大好き!
しかし彼らは写真を撮り終えた瞬間豹変した。、
「20ドル、チップ」と言って来たのだ。
抱くだけ抱かれて、打ち捨てられて藻塩になった気分。
またもや、私はぼられかかっている。仮装グッズに身を包んだ無職のオッサンとと写真撮影をしただけで、20ドル。
私は彼らの目の前でさっき撮った楽しげな写真を削除し、「写真のデータも削除したから、お金は払えません!お金はないから!」とブチギレ、早々にその場を走り去った。(写真データ消えてなかったからやり逃げになってしまったが)
非公式のエルモとメタボのバットマンは、すぐまた違う観光客に声をかけていた。
これも、クッソ定番の手口。またもや超初歩的な観光客ホイホイに引っかかってしまったのだ。
ちっとも楽しくなくなって来ていた
誰かが私をぼってくるんじゃないか、みんな観光客から金を搾り取って行く銭ゲバなんじゃないか……。道行く人が全員詐欺師に見えてくる。
(日本人だからってぼられたくない)(ばかな観光客だと思われたくない)
そんなプライドと偽バックパッカーの過去が、私の心に呪いをかけてくる。
せっかくのニューヨークなのに、ちっとも楽しくなくなってきていた。
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