【真船佳奈】#2後編 ぼられる勢いで旅を楽しむ【ぼっち旅】
●#2 ぼられてるいる方が、旅は楽しい〈後編〉
「アホな観光客」の代表格を思い出す
白タク運転手とバットマンならぬバッドマンにボラれ、「NYちっとも楽しくない」とギリギリと財布を握りしめていた私の脳裏に蘇って来たのは、「アホな観光客」代表の父母のことだった。
2回だけ家族で海外旅行に行ったことがある。彼らは「オーケイオーケイ」と「サンキュー」の2単語だけで旅行期間中の衣食住全てをやり過ごす、ある意味ものすごいポテンシャルを持った人たちであった。
例外なく海外でカモられまくり、めちゃくちゃにぼられていたが、旅行中とても楽しそうだった。ぼられていることに気づかないからである。
「今の絶対ぼられてたよ」と言っても「まあいいよいいよ」「そもそもどの紙幣がいくらかわからない」と金もないのに非常に寛大で、「なんだって!日本人をばかにしやがって!」という愛国心やプライドが全く見えず、それはそれは、のびのびと海外旅行を満喫していた。
ちょっとくらい高い料金を取られても、自分が楽しいと思ったことをすればいい。結果的にいい経験ができればOKだ。そのくらいおおらかな気持ちでいた方が絶対に旅は楽しい。
私は白タク運転手とヒーローの皮をかぶったオジサンたちによって閉ざされた心を開き、
「あえてぼられる勢いで旅を楽しむ」ことにシフトチェンジした。
誰にも文句は言わせないお金の使い方
ただ、出来上がりまでのわくわくと、出来上がってからの「似てねえ」という笑いもひっくるめて、旅を盛り上げてくれるイベントとなることは間違いない。
一人で似顔絵を描いてもらうとガチ感が半端ないけど、とにかく「正当なサービスを受けて正当な対価を支払う」という儀式を行わないと凍てついた心はとても溶けそうになかった。
というわけで、なぜかNYで、しかも韓国人のおばさんに描いてもらうことにした。
おばさんと見つめ合うこと10分、思ったよりめちゃくちゃクオリティの高い似顔絵が完成した。
似顔絵代金、100ドルを値切りに値切って30ドル。(むちゃくちゃである)
さらに黒いフレームが20ドルと言われたが値切って10ドル……合計で40ドル。
おばさんが一生懸命私に向き合ってくれた対価としては安いくらいだ。きちんと「サービスとしての対価」のお金を払えたことによって、私の心は癒されていた。
ちなみに、「私も似顔絵を描いてもらいたい!」という人は、
「めちゃくちゃ下手だった場合に自分が怒らずに先方に渡せる金額」を事前に提示しておくことをお勧めする。
タイムズスクエアには何人もの似顔絵描きがいたが、このオバサンを除いては「あえて利き手じゃない方で描いてる」可能性すらあるレベルの画力だった。
運よくクオリティの高い戦利品を手に入れた私は、ウキウキしながら夜まで遊ぶことにした。
遺影を持ち歩く女
さて、心が温まったのはいいが、
この似顔絵がどう頑張っても遺影なのである。
あまりに恥ずかしいので「何か、持ち歩き用の袋をください」といったのだが、差し出さ
れたのは透明のごみ袋であった。
ゴミ袋に自分の遺影を入れて持ち歩く女@NY。時代が私に追い付かない。
こうして「ごみ袋に自らの遺影を入れてタイムズスクエアを歩く、ちょっとヤバそうな日本人」に進化した私は
おかげさまで、その後は誰からも声をかけられることなく、ぼられることもなく、平和に眠りにつくことができた。
持ち帰ってもなおこの似顔絵の処理方法に悩み、とりあえずしばらく宿泊する部屋のソファーに飾った。
色々あったNY滞在初日を反芻しながら、じっくりと絵を見つめる。
「WELCOME TO NY」と、黄泉の世界の私が言っているような気がした。(言ってない)
もちろん犯罪や詐欺に巻き込まれないような注意は必要だけど、
変に気取らず、構えず、「まあいいや」と思える寛容さも旅には必要だ。
ぼられてる方が、キリキリしているよりもずっと楽しいかもしれない。
本来、そういう、ゆったりした気持ちを味わうものが旅行なのだから。
- 次回は「#3暮らすように泊まる…airbnbって結局どうなの」。NYでの宿泊事情について綴ります。
- 【続きの記事】#3前編 airbnbで夢のニューヨーク一人暮らしを体験