27歳女性監督“裸にならなくてもエロい”を丁寧に描く
●好きを仕事に
仕事現場で落ち込む自分には「自分大好きかよ!」とツッコむ
――天真爛漫な印象の酒井監督ですが、落ち込んだりした時はどうしていますか?
酒井さん(以下酒井): まず、仕事現場で落ち込むということはないんです。現場では、その時その時で切り替えなかったら作品に失礼だと思うので。“つまずいてる私”が表に出てきちゃう時には「お前、自分大好きかよ!」って、自分にツッコミを入れています。
私が今直面している悩みやつまずきって、作品そのものとか、観てくださるお客さんにはまったく関係のないことだと思うんですよね。「お客さんはこのシーンを見てどう思うんだろう」「作品にとって何がいいんだろう」っていうことを一番に考えたら、切り替えられます。落ち込むのは家に帰ってから、です。
「お花畑」だけじゃなく「闇」も描く
――「恋のツキ」では、テレビドラマの監督に初挑戦。これまでは魔女が主人公の「ウィッチ・フウィッチ」をはじめ、ファンタジー色の強い作品が多かった監督ですが、ドラマは「彼氏と同棲中の31歳の女の子がひょんなことから15歳年下の男子高校生と恋に落ちる」というもの。リアリティのある作品に参加することになったきっかけは?
酒井: プロデューサーの方に「はらはらなのか。」を観ていただいた時に、そこで描いた主人公の陰のあるシーンを気に留めてもらい「酒井さん、意外と闇もできるんだ」と声をかけてもらったのがきっかけです。それまではお花畑一色なイメージも強かったと思うので、「闇」の部分を伸ばしたら、よりファンタジーを撮るときにも広がりが出るんじゃないかと、今回こういった等身大の女性を描く作品に声をかけて頂きました。
――実際に、第3話では彼氏持ちの31歳のワコと、彼女のバイト先の映画館に客としてやってきた高校生のイコが意気投合し、ラブホテルへ行くシーンがあります。濡れ場シーンはかなり生々しい描写もありましたが、女性監督としてどんな気持ちで臨みましたか。
酒井: 相当大事に撮りました! 直接的な「エロさ」ではなく、「裸を見せないエロさ」って、ありますよね。キスの方が官能的とか。我慢して、我慢して、我慢しての初めてのキスなんかもそう。まだ一線を越えていない男女が食事に行って、酔っていて、お互いに好き同士、手を繋ぎたい、結ばれたい、みたいなときに、どっちかが理性を壊して野性的にグッと迫る瞬間。その方が「エロティック」だと思うんです。その瞬間が描けたら勝ちだなと。
なので、第3話ではワコがイコくんにキスする「瞬間」を官能的に撮ろうと。女性から攻める方がエロティックだと思ったんです。今までは何となくボンヤリ生きていて、浮気をされてしまったり、受け身な女の子だったワコが本能に素直になって、自分の恥を捨てて仕掛ける姿……。漫画の原作を大切にしつつ、丁寧に描きました。
Sだから攻める、じゃなくて、承認欲求からくる奉仕。尽くしたいっていう方の「攻め」。「サディスティックのS」ではなく「サービスのS」。イコくんの初めての体験を最高のものにしてあげたいっていう、ワコのサービス精神からくる攻めが艶やかでなまめかしいんだって。そこもこだわって撮影しました。男の子の耳と乳首を舐めるのはマストで入れたかったんです。スタッフさんにはめちゃくちゃ確認しましたよ、「本当にいいですか?大丈夫ですか?」って(笑)。
音楽に溢れた作品をいつか撮りたい
――新しい境地を開拓した酒井監督、今後の目標を聞かせてください。
酒井: 漫画か絵本か小説か、決まっていませんが、自分で原作を作って、それを映像化したいです。現代の日本の「確かにこういうこと、あるかもしれない!」っていう話。色々と温めています。
あとはミュージカルをやりたいです。映画とかドラマとかでも!「突然歌ったぜこいつ!」っていうミュージカルではなくて、音楽に溢れた演出の作品を撮りたいです。
- ●酒井麻衣さんプロフィール
映画監督。長野県出身。映像作品の他、舞台の脚本演出等にも携わる。Netflixで11月30日より配信が開始したドラマ「恋のツキ」では連続ドラマの監督に初挑戦した。
11月22日に配信されたゲスの極み乙女。の最新曲「ドグマン」のMVも手掛け話題に。
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