ダック・ファームおよびフード・コープスタッフ(37歳)

NYのゲイウーマン「8年前、女性と結婚しました」

ダック・ファームおよびフード・コープスタッフ(37歳) 筆者が加入しているフード・コープ(生協)で時々見かける彼女は溌剌としていて豪快な印象。フード・コープの会員は定期的に労働奉仕をすることになっているが、割り当てられた仕事の要領がわからなくてまごまごしていると、「やり方わかる?」と気さくに声をかけてくれた。なんて頼もしい!というわけで、後日話を聞いた。

自分がゲイであることに気づいたのは5、6歳の頃

私はゲイウーマンです。大学時代に知り合った女性と、ニューヨーク州で同性婚が合法化された8年前に結婚しました。自分がゲイだと気づいたのは5、6歳の頃。クリスチャンの家庭に育ったので誰にも打ち明けられず、ずっと違和感がありました。親に打ち明けるときはとても辛かったけど、殻を破ってからはネバー・ルック・バック(笑)。家族は理解してくれているので、とてもラッキーです。

妻と私は子どもを持ちたいと思っています。男の子でも女の子でもどっちでもいいけど、フェミニストな男の子を育てたいかな(笑)。多分養子を迎えることになると思いますが、私が妊娠・出産するという選択肢もまだ残しています。

ニューヨークには世界中から多様な人達が集まっていて大好きだけど、自然がないし、うるさいし、くさい。この街を離れることは考えられないけど、ときどき無性に静かなところに行きたくなる。だから、家族が増えることも考えて、もっと静かで平和で広々としたニューヨークの郊外に引っ越すことにしました。

ゲイの友達がいる人はその人をサポートして欲しい

LGBTはアメリカでも難しい問題です。とくに最近のように殺伐とした世相になるとね。ニューヨークは、みんな受け入れてくれるからいいですが、他の土地では偏見を感じることも。同性婚は合法ですが、それでも反対する人はいる。だから、ニューヨークを出るときは自分の安全を考えて行き先を決めます。私は見た目が男性的なので、女性用のトイレに入ると攻撃的な扱いを受けたりすることもありますから。

みんなヘテロセクシュアル(異性愛)の文化で育っているから、自分がゲイだと認めるのも、人に話すのもとても勇気がいるんです。身の安全のためにゲイであることを隠す気持ちはとてもよくわかる。偽りの結婚をしたりして、何百年もの間ゲイであることを隠して生きてきました。でも、素晴らしいアートを生み出すなど、重要な役割を果たしているんです。そのことを知って欲しい。そして、ゲイの友達がいる人はその人をサポートして欲しい。ゲイであることを隠して生きることはどんなに大変か、理解してあげてほしいです。

数年間肉屋で牛の解体作業をしていました

ミネソタ出身です。以前はニューヨーク州の職員として、ローカル・フード・ムーブメントやファーマーズ・マーケット(青空市場)、農産物の小規模生産などに関わっていました。それで、フード・コープに食肉バイヤーとして採用されたんです。食肉がどのように生産されているか、という食の教育も私の担当。現在はフード・コープの仕事をパートタイムで継続しつつ、ダック・ファーム(アヒル農場)で働いています。

家は農家ではありませんが、祖母が養豚業を営んでいました。また、毎年200〜300羽の鶏を購入して飼育しては、私たち家族の食料にしてくれていました。そういう環境で育ったので、畜産に関心を持つようになり、動物を苦しませずに素早く処置する技術を学びたいと思うように。実際、数年間肉屋で牛の解体作業をしていました。軽トラックより重い牛の下敷きになったら大変です。そこら中血だらけになるし、床は滑るし、とても危険でハードな仕事でした。

アメリカは畜産が盛んですが、いいかたちで行われているとは思えません。食肉の生産量を増やすことだけにウエイトが置かれ、動物のウェルビーイング(動物の福祉)は考えられていない。そこは変えていかなければならないと思います。その食肉がどこでどのように生産されたのか、適切に処理されたのか、関心を持つことが大切。畜産の仕事を経験して、肉を食べる量が減りました。肉は美味しいけど、命を奪っているわけだから……。

他人に親切にしたい

人生において大切だと思っていること?創造することです。絵でも音楽でもいい。クリエイティブに自分をアウトプットする。誰でもそういうものはあると思います。私はギターでブルースを弾いたり歌ったりするのが好き。バンドを作りたいですね。ライブで歌う?それもやってみたいけど、私はこれでもシャイなので(笑)。

それから、人に親切にして生きていきたい。政治のことはよくわからないけど、今、世界はちょっと嫌な方向に向かっているような気がします。面と向かっては言えないようなひどいことをネットでは平気で言ったり、キレて人を罵ったり……。よくありますね。そういうことを言われたりされたりするととても嫌な気持ちになります。なるべく私個人に対する感情だとは考えないようにしているけど。今のように社会に嫌な空気が蔓延しているようなときこそ、人、特に他人に親切にすることが大事じゃないかな。

ニューヨークにて

ライター。東京での雑誌などの取材・インタビュー・原稿執筆などの仕事を経て、2000年に仕事と生活の場をニューヨークに移す。