自慢できないNY

えっ!私、いつ何をしたの!?―「あなたは訴えられています」

映画やドラマの画面の中でも、実際に旅してみても、刺激的な街ニューヨーク。でも、そこに暮らす人から見れば、カッコイイだけじゃないみたい。何かと融通が利かなかったり、かと思うといい加減だったり、だけどそんな面も知れば知るほど、世界がほんの少しだけ、自分に近くなった気がするかも……。NY在住のライター手代木麻生さんによる、自慢できない(かもしれない)、リアルNYのリポートです。

●自慢できないNY 01

あなたは訴えられています

ひとつ仕事を終えて、地下鉄の駅で電車を待っているとき、スマホをチェックするとメッセージがひとつ入っていた。名前が表示されないので、セールスの電話か何かだろうとあまり気にも留めずに聞いたら、

あなたはアメリカ政府によって詐欺で訴えられています。すぐにこれから言う番号に電話してください。

という録音メッセージの後に、電話番号が2回繰り返して入っていた。もちろん、びっくり仰天して、頭の中をいろんな思いが駆けめぐった。

「アメリカ政府という巨大システムが私みたいな吹けば飛ぶような外国人を訴えるって??何それ」
「私の名前を言わないのはおかしい」
「詐欺なんてしていない。何かの間違いだろう」
「どうせ間違いなんだから放っておこう」
「いや、待てよ。たとえ何かの間違いだとしても、詐欺を働いたなんていう記録が公文書に残ってしまったら、あとあと大きな問題になったり取り消すのに膨大な手間がかかるかもしれない。放っておいちゃまずい……」

そこで、面倒くさいけど、とにかくメッセージに残されていた番号に電話して、事情を確かめなければと思った。

その時、私の勘が「待った!」をかけた。自分で電話する前に誰かに相談したほうがいいと。「そうだ、弁護士さんにこのメッセージを聞いてもらおう」。

ときどきお世話になっている弁護士さんの事務所が、たまたま近くにある。このまま直接事務所に行ってみよう。

“あのドラマ”とはちょっと違う、弁護士さんもまたリアル…

普通、弁護士に会うのにアポなしなんてあり得ない。でも、この弁護士さんはセミリタイアしており、「もう十分稼いだし、息子たちも就職したから、これからは無理しないで自分のペースで仕事をしたい」と、秘書も雇わず一人で仕事をしている人なので、アポなしで行ってもたいてい会ってもらえる。と言うか、アポなしで訪ねて行って会えなかったことはこれまで1度もない。案の定、先客はいたものの、少し待ったら会ってくれた。

さっそく留守電メッセージを聞いてもらったところ、このメッセージこそ詐欺であることが判明。弁護士曰く、

「政府機関が何か言ってくるときは、まず文書で知らせてくる」
「万が一電話してくることがあっても、その場合は、先方の部署名、担当者名などを必ず名乗る」
「あわてて電話すると、電話番号が相手に記録されてハッキングされたりする。こういう場合は絶対に電話をかけてはいけない」
「このメッセージは即刻削除せよ」

弁護士さんは、念のためにネットで相手の電話番号のエリア番号を調べてくれた。「このエリア番号は○○(エリア名)のもの。こんなところにアメリカの政府機関なんてないよ」ということだった。

ちなみに、怪しい電話を受け取ったとき、ネットでその番号を検索すると、被害に遭った人たちのコメントなどが見つかることがあるので、怪しいと思ったときはネットでまず調べてみるといい。

こうしてスマホで怪しい電話を受け取ってから1時間後に、私の問題はスピード解決した。帰るとき、弁護士さんは「今度からはちゃんとアポとって来なさい」と言ったけど、彼は私が何度メールしても電話しても、私の相談ごとは緊急性がないと思っているのか、気が向かないと返事をくれないので、アポなんか取りようがない。今だって依頼している案件があるのだが、ち〜っとも進んでないのだ。心の中で「よく言うよ」と思ったが、「は〜い、わかりました。今回は緊急だったのでスミマセ〜ン」と返事してオフィスをあとにした。今回の相談料は多分おまけしてくれるだろう。

ライター。東京での雑誌などの取材・インタビュー・原稿執筆などの仕事を経て、2000年に仕事と生活の場をニューヨークに移す。