イラストレーター(36)

渡米し国際結婚した女性「日本のように夫婦で生活費を助け合うことはない」

イラストレーター(36) 語学留学先のアメリカで出会った相手と5年前に結婚。ニューヨーク在住でライブやアートを満喫し、順風満帆な人生を送っているように見えたが、実際は生き抜くために必死だという。その悩みと、その末の大きな決断について聞いた。

 ニューヨークに来たのは2010年です。29歳のときでした。ニューヨークに来て、結婚もして、人生がガラリと変わりました。

自分はどうやって稼いでいくのか、不安になりました

 20代の後半は、東京のジャズクラブでアルバイトをしていました。フロントでお客様をお迎えする仕事です。楽しかったですが、そこの仲間はミュージシャンを目指している子が多くて、みんな入ってきても1、2年で辞めちゃう。それを見ていて、「自分は将来どうやって稼いでいくのか」っていうことにとても不安を感じました。

 でも同じ職場の中に、英語を話して海外のミュージシャンをアテンドし、対等に仕事している先輩たちもいました。私の仕事は代わりがきくけど、彼らのポジションは代わりがきかない。「代わりがきかない仕事」に憧れ、私も英語が話せるようになったらそういった仕事ができるかもしれない、と思ったんです。
 そんなとき、アルバイト仲間が「前に留学していたニューヨークに、また戻る」って話しているのを聞きました。「そっか、私も行っちゃえばいいんだ」って、すっと腑に落ちたというんですかね。その瞬間に、アメリカ行きを一人で即決していました。

コミュニケーションが取れる貴重な友達になり、それが恋愛に

 それから留学の準備を始めて半年後には学生ビザで渡米し、語学学校に通いました。

 まったく英語が理解できない状態で行ったので、授業が全然わからなくて本当に苦労しましたよ。とにかく早く話せるようになりたくて、現地の友達を作って、休みの日も英語漬けで過ごすように心がけました。

 今の夫と出会ったのは、そのころです。友達から、「日本語の話せるアメリカ人が、日本人の友達を作りたがってるから、会ってみない?」と紹介されました。夫は高校時代に、交換留学で福岡に住んでいた日本好きなんです。
 彼は私にとって、日本語と英語を使ってコミュニケーションが取れる貴重な友達になり、いつしかそれが恋愛に発展し、2013年に結婚することになりました。

日本の夫婦のように「困ったら生活費を助け合う」みたいなことはありません

 仕事は去年の秋に辞めました。
 語学学校と並行し音楽レーベルでインターンとして働きはじめ、結婚しビザが変わった後に正社員になりました。最初は事務処理を担当していましたが、専属デザイナーが辞めたあとはアートワークも担当させてもらえ、絵を描くのが大好きな私にとってやりがいはとてもありました。ただ、働いて4年目になっても、お給料が全然上がらなかった。

 ニューヨークは生活費が高いんです。夫は国連の職員で安定した収入がありますが、私は夫と経済的に独立した関係で、日本の夫婦のように「困ったら生活費を助け合う」みたいなことはありません。物価はどんどん上がるのに手取りは上がらず、頭を抱えて悩む日々が続きました。
 転職をした方が良いかと、求人情報を真剣に見るようになりました。そこでぶつかったのが、学歴の壁です。アメリカって日本以上に学歴社会で、高卒だと収入の高い仕事への門戸が開かれていません。

 一方、ニューヨーク市では高等教育を受ける人に対し、年齢に関係なく学費免除や補助があります。奨学金も充実している。色々悩みましたが長い人生を考えて、「大学に入ってアートを専門的に学ぼう」という一大決心をしました。大好きなアートで、自分にしかできない仕事をしていくために。アメリカでアートで生きていくために、勝負してみようと決めたんです。

「この子がいたから○○ができなかった」なんて思いたくない

 夫とは、今まで何度も大きな夫婦喧嘩をしています。「離婚する!」という話になったことも「日本に帰る!」と叫んだこともあります。でも、アメリカ人は議論するために喧嘩するんですね。喧嘩するたびにとことん話して、お互いに言い分を理解し、乗り越えてきました。そのたびに絆は強くなっていると思いますし、そこまで本音を引き出してくれる夫には深く感謝をしています。

 子どもは、ほしいです。
 夫もそう思っていますし、少し前まで「子どもができたらどこで育てよう? アメリカ? 日本?」なんて相談をしていました。でも今は、積極的に子どもを作ろうという感じではありません。私の立ち位置が定まっていないからです。

 自分の人生に後悔したくないんです。そして、何かを子どものせいにしたくない。「この子がいたからこれができなかった」なんて、1ミリも思いたくない。そのためには、自分をもっと固めることが必要だと思います。
それからでも、きっと、遅くはないですよね。

 NYにて電話インタビュー

東京都生まれ。桐朋女子高校、成蹊大学出身。三児の母。趣味は音楽、旅、お酒、ヨガ。当面の目標は家族でフジロックに行くこと。