看護師・大学院生(32)

「今日を精いっぱい生きるだけ」というセリフが、染みました。

看護師・大学院生(32) 看護師の彼女は、ミュージカル観賞が大好きで、会えばいつも笑顔。「病気になったとき、こんな人が励ましてくれたら頼もしいだろうな」と思う。彼女にも病と向き合った日々があり、現在はスキルアップを目指す途中だという。初対面から1年半近く経過し、あらためて現在の心境を聞いてみた。

 趣味はミュージカル観賞です。前は、ほんとミュージカルオタクでしたね。全国各地を飛び回って、いろんな劇場に行きました。SNSでつながった友達と劇場に集合して一緒に観賞し、お酒を飲みながら感想を語り合うのがすごく楽しくて。そのために、頑張って働いていました。

 一番感動した作品は「RENT(レント)」です。「過去もない未来もない。今日という日、ただ精いっぱい生きるだけ」っていうセリフが、染みました。今でも、とっても心に残っています。

 27歳の時、甲状腺がんになりました。友達が「また、皆で『頑張ったご褒美遠征』しよう!」と半年後に上演される「キャッツ」のチケットを取ってくれて。「みんなと、これを観るんだ」と。そう思って、治療に耐えました。「半年後も絶対生きてる!」って目標にしたんです。あれから4年半が、たちました。

「がんに負けたくない」と思いました。

 がんになったのは、母校の大学の附属病院の看護師になって5年目でした。広い範囲に転移もしていて、楽観的な状況ではありませんでした。

 最初は、あえて勤務先でない病院を受診しました。職場の仲間にがんと知られたくなかったから。担当した医師はあえて“がん”という言葉を避けました。私が若いので気を使ったのかもしれません。だから、私の方から「悪性ですよね」「がんですよね」と確認したんです。自分が医療従事者だからこそ、事実をしっかり受け止め、しっかりしなければと。「がんに負けたくない」とも思いました。看護師としてのプライドも、あったのかな……。

 治療のために休職していた期間は、ネット検索ばかりして過ごしました。「20代女性」「甲状腺がん」「看護師」などとキーワードを打ち込んで、同じ状況の人がどうやって生きているのかを探しました。あの期間は、社会から取り残されていくようで、つらかったです。

 「これからの人生に価値があるのか」
 「未来はあるのか」
 「働けるのか」
 「恋愛は?」
 「子どもは産めるのか」

 若くしてがんになると、この世代特有の悩みがあります。進学、就職、結婚、出産など人生の大事なイベントが続くから。周りに同じような立場の人は、なかなかいなくて、いろんなことと、これからどうやって向き合うか、どう捉え直すかを1人で、ぐるぐる考えました。親は「若いのに……」とショックを受けているので、「ちゃんとしていなくちゃ」とも思っていました。

1、2カ月はつらかったです。「適当に生きよう」と思っていました。

 外科治療を終えて退院し、自宅療養を経て職場へ復帰しました。けれど夜勤はできる気がしませんでした。自分だけ夜勤ができず、ずっと病棟にいるのが居づらかったですね。「これからどうしよう……」と悩んで上司に相談すると、「治療もあるから」と、外来の抗がん剤治療を受ける患者さんのための化学療法センターへ異動を命じられました。

 1、2カ月はつらかったです。がんになった自分は、なんて哀れなんだろうと。そして、「適当に楽に生きよう」と思いました。けれど、化学療法センターで出会った患者さんは、がんだからといって、その人の人生の全てが哀れには見えませんでした。

 それまで、がんを自分の人生の中で「なかったこと」にしたくて、自分ががん患者であることを隠していました。しかし「がんを経験したことは自分に何かきっかけを与えてくれるかもしれない。経験したからこそできることがあるかもしれない」と思うようになりました。

 治療の期間中に思うようにいかないこともありましたが、研究、診療、看護など、日々がんに対して必死に向き合っているスタッフを見ていると「大丈夫かも」と思えるようになりました。「頑張っているんだから、ご褒美しよう!」と、友達は今までと変わらず、飲みに誘ってくれます。おかげで、いろんな刺激を与えてくれる人に頼りながら、「目いっぱい楽しむ!」と、気持ちの切り替えができるようになりました。

毎日「プチ目標」を立てて、それをかなえていく

 昨年の春にいったん退職し、大学院に進んで「がん専門看護師」を目指して勉強しています。「より専門的な知識を得たうえで看護やさまざまな活動に携わりたい」と思ったからです。若年性がん患者のための団体「STAND UP!!(スタンドアップ)」にも所属しています。いろんな方へ「こんなに仲間がいる、こうやって生きている人がいる」ということが伝わったら良いなと思っています。

 がんから「人生のとらえ方」を教えてもらいました。一つのことができるだけでも、こんな幸せなことなんだなと思います。一日一日が当たり前のように続くわけではないし、日によって体調も違います。でも、毎日「プチ目標」を立てて、それをかなえていく。体が思うようにいかないときもありますが、限りがある中でどう生きるかが大切だと思っています。

 「頑張った褒美」「頑張るためのご褒美」も欠かせません。日々、「どうしようか」とか「何をしようか」と「悩む時間すらいとおしい」と感じるときもあります。

 今は学生になってしまったので、ミュージカルを一緒に観ていた県外の友達には、「時間もお金もなかなか確保できなくて、飛び回れないけど、忘れないで~」と言っています。 

石川県金沢市にて

北陸に拠点を置く新聞社でスポーツ、教育・研究・医療などの分野を担当し2012年に退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍などに執筆。