●忖度上手になろう01 議員秘書に聞く(後編)

議員秘書が語る忖度術 「“あ!”だけで求められるものがわかる」

ネガティブな意味での“忖度”のイメージが強い「永田町」で働く、議員秘書歴20年の神澤志万さんに、「忖度のあり方」を聞いた前編。後編では、心をすり減らすことなく他人の思いに添う方法を教えてもらいました。

●忖度上手になろう01 議員秘書に聞く(後編)

心理ゲームとして楽しむ

 他人に慮ってばかりで疲れませんかって? 若い頃は、すり減っていましたよ。でも40代になってから「心理ゲーム」として楽しめるようになってきました。経験とともに、自分の忖度成功率も高くなってきたんでしょうね。「また怒られた」っていう回数より「ありがとう」が増えるとやりがいも感じるし、余裕も生まれてきました。

 今では、忖度力を後輩に対しても使うようになってきましたね。お使いを頼んだときも「水ようかん、あなたの分もこっそり買ってきていいよ」とか「ビックカメラのポイントつけてもいいよ」とか。私がしてもらってうれしかったことを後輩にも返していけるようになりました。

赤ちゃんも議員も一緒かも

 そのうち、先生の「あ!」だけで、何を求めているのかがわかるようになります。あの先生にこの書類届けろってことかな? 12時過ぎたからお腹すいたのかな? とか。

 赤ちゃんの泣き声で、空腹かうんちか、眠いのかがわかるお母さんと一緒ですね。赤ちゃんも先生も、自分の力ではどうにもできないところは一緒なのかもしれません。(笑)

 上司が怒っているのも、八つ当たりだけのときもあるし、改善すべき指摘のときもある。どちらかを見分けるにも、こちらに余裕がないとだめだなと思っています。

上司のエキスパートになる

 尊敬できる上司だから、お手伝いしようと思いますけど、そう思えなかったらきついですよね。でもまあ、この仕事の良いところは自分で上司を選べるところ。私は議員秘書歴20年で、ボスは9人目。多いとも少ないとも……。ただ、いい事務所ほど何十年選手の秘書がいるんですよね。

 そのくらい長いスパンで一緒に働けたら本望。その先生のエキスパートになれるわけですから。でも、なかなかそうも行かないです。衆院議員の場合は解散もありますし、生意気を言いすぎるとクビになるし(笑)。そもそも「この人は問題あるな」と思った人は、選挙で落ちるし、そうなったらまた次を探せば良い。永田町はそういう場所です(笑)。

忖度は日本のコミュニケーション術

 忖度は、日本人の究極のコミュニケーション術だと思うんですよ。相手の気持ちに寄り添った贈り物、という意味ではお中元・お歳暮も“忖度”の仲間かも。「お返し目当てか」という声もあるかもしれないけど、お返しの品の希望を聞くことで近況を知る。間接的に「最近どうですか」を聞きたくて、お中元を贈っているのかなと。本来は心のやりとりとして大事な日本文化だと持っています。

 森友学園の問題のせいで、「忖度」という言葉に悪いイメージが先行してしまいましたが、本来は「ボスを立てて、意向を忖度できる秘書」こそ最も有能な秘書。そして、もう一つ必要なのは謙虚さだと思っています。どうしても、永田町にいるだけで偉くなったと錯覚する人もいるので……。なので、私は後輩たちには「自分たちは無能だ!」っていうことを伝えるようにしています(笑)。

必殺「官邸の意向です」

 こちらが「忖度」を利用することもあります。私たちがよく使うのは「官邸の意向です」という言葉。あれ、どこかで聞いたことありますかね。これ、すごく頻繁に使います。日本語訳すると「空気読んでね」とか「言われたことをして」って感じですかね。私は、納得がいかない時に言われると「官邸の誰に確認したらいいですか?」とすっとぼけるんですけど、そのたびに「お前はバカか!」って怒られます(笑)。

 これを、会社員にあてはめると「部長の意向です」になるのかな。つべこべ言う部下や新人に「細かいことは考えずにやれ」っていう時に使えるんじゃないかな。プロジェクトとかで方向性が決まっているのに、へりくつ言う人いるじゃないですか。そういうときに「忖度」をしてもらって、仕事を進めることも大事なのかなと思います(笑)。

●神澤志万(かみざわ・しま)さんプロフィール
国会議員秘書歴20年超のアラフィフ。政策秘書になったのは「かっこいいと思ったから」。これまでに9人の議員の秘書を務める。「政策作りにかかわれることが楽しい」と話す一方、「議員になるための選挙、プライベートを犠牲にする日々の仕事は無理」ということで、現在の「国会議員秘書が一番楽しいし、向いている」という結論になったという。

国会女子の忖度日記

国会女子の忖度日記(徳間書店)
著者:神澤 志万

telling,の妹媒体?「かがみよかがみ」編集長。telling,に立ち上げからかかわる初期メン。2009年朝日新聞入社。「全ての人を満足させようと思ったら、一人も熱狂させられない」という感じで生きていこうと思っています。
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