忖度上手になろう

人気ウエディングプランナー野上ゆう子さん「忖度下手な人の共通点は…」

ウエディングプランナーとして、国内外の著名人の結婚式などもプロデュースしている野上ゆう子さん。最高の結婚式にするには、まずは相手を深く知ることが大切だといいます。“究極の忖度上手”の野上さんは、忖度を学ぶチャンスは生活のいたるところに転がっているといいます。その秘訣について、教えていただきました。

ヒアリング命。その人を深く知ることがミッション

――ウエディングプランナーとして新郎新婦にお会いするときに、心がけていることはありますか?

まずはお二人を深く知ることが自分のミッションだと思っています。どんなことを大切にして、何に価値を見出しているのか。今まで育ってきた環境を知るために、親御様からお話を伺うこともあります。ウエディングプランナーはヒアリング力が命とも言われますが、お二人の気がつかなかった思いを引き出すために、的確で無駄がない質問をすることを心がけています。

――お二人の関係性を見て、どちらかの意見が強く、どちらかが思っていることを言えないでいると感じることもあると思います。

そういった場合はわざと席を外してお二人の様子を見ることもあります。ご新婦の表情が曇っていれば、一緒にドレスショップに行き、フィッティングルームで女性同士そっとお話を聞くことも。ヒアリングをする場面を変えるなど、お客様の話しやすいタイミングを作って寄り添っていきます。

また、親御様のご意見が強く、ご家族の話がまとまらないときもプランナーの出番だと思います。ご両家の関係性を見て、ここはご新郎の親御様に花を持たせましょうと提案したり、その代わりご新婦は別の場面でもっと好きなことをやりましょうなど、間をとりもつことも多々あります。

忖度のプロは人の話をよく聞き、想像する

――野上さんは、どのようにして忖度上手になったのでしょうか?

青森から東京に出てきた頃、もっと広い世界を見たくて、積極的にコミュニケーションを取る場に出るようにしました。仕事を通してだけでなく、さまざまな場で色々な人の話を聞いたり観察しながら、気くばりや想像力を養うことを学んだ気がします。

忖度が苦手という人の話を聞くと、接待交際費をほとんどかけていないことが多いんです。たとえばパーティーに呼ばれても、何を話したらいいか分からないから行かないとか、立食は疲れるからやめておくとか、面白い人がいるから会ってみない? と誘ってもまた今度、と断ってしまう。普段の生活でも、学びを吸収できるチャンスって散らばっていると思います。それを面倒だからとやめてしまうか、まずは行ってみるか。この違いだと思いますね。

――会社での忖度の仕方が分からない、という人もいると思います。

まずは相手を想像してみることです。提出期限が来週の資料も、早めに出したら相手は楽かなとか、打ち合わせでずっと話をしているから新たにお茶を出してみようとか。苦手な人に対してもアクションを起こしてみたらいいと思います。

人と人とは鏡だと思っていて、自分が笑うと相手も笑う、自分がイライラしていると相手も苛立っている。そして喜ばせたいなと思ったことは返ってくるんですよね。もし相手から反応がなかったとしても、その気遣いや勇気は素晴らしいし、きっと「ありがとう」と思っている人が何人かはいると思うんです。

結婚式を通して人生の一部をプロデュースする

――プランナーとしての”忖度”の中で、心に残っているエピソードがあれば教えてください。

ご新婦のお姉様が10年前に他界されていて、その命日に式を予定しているご新郎ご新婦がいました。親御様はその日取りに対し、とても反対され、お姉様について全く口を割ろうとしませんでした。それでもご家族の会話の中には、お姉様がいなくてどれだけ苦しかったか、犬の名前をお姉様と同じ名前にしようとしたなど、お姉様への気持ちが垣間見えるエピソードが多く、ご家族にとって今でもすごく重要な存在だと感じたんです。

他のプランナーだったら、姉妹の思い出をVTRにして流したり、家族の絆のような話で「感動的」にしようとすることもあるでしょう。でも私は、わざわざゲストを呼んで場を盛り上げようとしている式の最中で、お姉様のことを深堀りする必要はないかなと思ったんです。

そこで、式当日にご新郎ご新婦と親御様の写真を撮って、その写真を加工して、中央にお姉様を入れたシルエット絵を作ってもらうように作家さんに頼みました。結婚式の一カ月後が、奇跡的にもご新婦とご新婦お姉様の同じ誕生日であったので、意味深いその日に合わせて私たちとご新郎からサプライズのプレゼントとしてきっと撮りたかったであろう「家族写真」を送りました。

ご家族は、とても喜んでくださって。まさかこんな家族写真が撮れるなんて思ってもいなかった、やっとこれで全員が集合した家族写真が飾れる! と感激してくださり、お手紙までいただきました。

結婚式というゴールだけ見たら、その日にサプライズを……と考えますが、その1カ月後にご新婦とお姉様の誕生日がある。俯瞰して見れば何が最適か、相手が何を一番望んでいるかわかってきます。結婚式というイベントを通して、人生のストーリーの一部をプロデュースするような気持ちを、いつも忘れずにいます。

●野上ゆう子さん プロフィール
ウエディングプロデュースを行う株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ(T&G)のトップウエディングデザイナー。会場も含め、ゼロからプランニングするプロデュースチーム「Haute couture Design(オートクチュールデザイン)の発足メンバーとして、国内外の著名人ウエディングを数多くプロデュース。私生活では自身も数年前に結婚。2014年にはT&G初のドレスショップ「MIRROR MIRROR」の立ち上げにも携わる。

東京生まれ。千葉育ち。理学療法士として医療現場で10数年以上働いたのち、フリーライターとして活動。WEBメディアを中心に、医療、ライフスタイル、恋愛婚活、エンタメ記事を執筆。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
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