忖度上手になろう・番外編

「ハウツーよりも大切な、コミュニケーションの肝」を性のプロに聞いてみた

人におもねるのではなく、相手の気持ちに寄り添う本当の”忖度力”について考える特集「忖度上手になろう」。番外編として、AV男優・森林原人さんに”忖度”について聞きました。「こうしてほしい」を伝えにくいセックスこそ、忖度する機会が一番多いのかもしれません。森林さんが考える、ハウツーやアドバイスよりも大切な”忖度”のポイントとは何なのでしょうか。

忖度上手になろう・番外編

相手の立場に近い経験をする

僕の仕事は、究極のコミュニケーションだと思っています。
想像力・共感力はとても大事ですが、相手と同じ体験ができるなら、体験した方がいいとも思っています。セックスでいうと、私は男性も一度は挿入を経験した方がいいんじゃないかな。というのも、僕は、自分が男性とする、ことを経験して初めて、挿入のときに女性が言う「あっ」は、快楽の「あっ」じゃなくて、驚きの「あっ」なんだって気づいたんです。それまでは、女の人が何を気持ちいいと考えているか、誤解していましたね。

相手の立場に近い経験をすることで、感覚や感情がわかるんだと思うんです。それから僕は挿入するときは優しく、優しくするように気をつけています。人気のAV男優さんほど、挿入後少し止まるんですよね。それは女性に忖度している証拠だと思いますよ。

森林原人さん(telling,編集部撮影)

「これが正解」は傲慢

でも、もともと身体のつくりも違うし、同じ体験をできる人ばかりとはもちろん限らない。セックスひとつとっても、忖度が百発百中うまくいくなんて、ありえない。その日の体調やホルモンによって気持ち良いポイントも変わりますからね。

僕は、性を語り、考えるオンラインサロンを運営しているんですが、童貞の方に講義をするときは基本的な姿勢だけを教えます。それは性感帯には「遠くから近くへ」、デリケートな部分は「弱から強へ」ということ。AVはあくまでファンタジー。ちゃんと現実の女性と向き合うには「これが正解」という決めつけは、試行錯誤の過程を省いてしまっていて傲慢。もっと謙虚な気持ちで向き合うことが必要なんじゃないかな。

「言葉」にすることで共通理解が深まる

体験できないものは、推測する。そして、わからないものに「言葉」を与えることで、共通理解の幅が広がるのかなと思います。例えば「弱く触って」ということでも、”弱さ”のとらえ方は人それぞれ。「ニキビに軟膏を塗るような弱さ」と言って、はじめて共通理解が生まれることもあります。

ハウツーやアドバイスに耳を傾けるのは大切だけれど、最後は目と目を見て、話をすることが大事なんだと思う。特に、セックスの要望って、言い方を間違えると人格否定にもなりかねない。だからこそ、言い方は大切ですよ。ただ「これは嫌だ」というのではなくて、「こっちの方がもっと好き」と言い換えるとか。根本にある「あなたともっと楽しみたい」ということと伝えてほしい。男性も言われて、落ち込むんじゃなくて「もっとよくしたいと思っているんだ」と前向きにとらえてほしいですね。
これは、日常生活での人との接し方にも通じると思います。人は成功体験より失敗体験の方がしっかり覚えているものなので、失敗が多い人ほど、忖度上手になれるような気がします。

忖度がうまく行った時に「ありがとう」と喜んでもらえる感覚は、セックスで得られる喜びに近い。見せかけかもしれないけど、相手とわかり合えたっていう。でも、その感動があると、次も忖度していこうって思えるんじゃないかな。

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●森林原人(もりばやし・げんじん)さんプロフィール
1979年生まれ。神童として最難関中学に進学するも、東大受験に失敗し、紆余曲折を経てAV男優に。AV男優歴19年、経験人数は8000人超で1万回以上のセックスを経験。16年に初の著書『偏差値78のAV男優が考える セックス幸福論』を出版した。現在は、性を考え・語るオンラインサロン「森林公園」を運営している。

telling,の妹媒体?「かがみよかがみ」編集長。telling,に立ち上げからかかわる初期メン。2009年朝日新聞入社。「全ての人を満足させようと思ったら、一人も熱狂させられない」という感じで生きていこうと思っています。
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