忖度上手になろう01 議員秘書に聞く(前編)

議員秘書が語る忖度術 「永田町と世間との溝を埋めるのが秘書」

「忖度」の本当の意味をご存じですか? 「強い人にこびへつらう」のではなく、正しくは「他人の心を推し量ること」。あれ?、それって人間関係にとても大事なことなのでは……。telling,では、健やかな人間関係のために、自分をすり減らすことなく上手に忖度する方法を考えます。 第1回目は、ネガティブな”忖度”のイメージが強い 「永田町」で働く、秘書歴20年超のアラフィフ神澤志万さんにお話を聞いてきました。

●忖度上手になろう01 議員秘書に聞く(前編)

一歩先の気遣いを

 忖度するのが秘書の仕事だから、普通のこと。むしろ、想像の上を行く忖度ができてこそ、優秀な秘書だと思います。

 コーヒーの好みーーブラックか砂糖やミルクをどの程度いれるかを知っておくのは当然で、暑い日なら「きょうもホットでいいですか?」と聞く「一歩先の気遣い」ができるかどうかが、秘書として試されているのかなと。覚えたからと言ってそのまま機械的にだしているだけだとだめだと思うんですよね。

 永田町には本当にいろんな先生がいます。例えば、デザートにこだわりの強い先生にアイスを買っていったときのこと。ハーゲンダッツのカップアイスを買っていったのですが、「クリスピーじゃなきゃ嫌だ」と言われ、買い直しに行ったこともありました。また、別の菓子パンが大好きな議員さんで、国会内で少量しか販売していないメロンパンを指定してくる方もいます。好みにあわせるのも大変なんです……。

 好物も細かいこだわりも、先輩秘書たちは教えてくれない。職人の世界なので、「好みの物を出してあげてください」の一言。あとは、自分で考えていくしかない。

秘書同士の横のつながりも大事

 特に気を遣うのはお昼ご飯のタイミング。会議にちゃんとお弁当が出るのか、出ないのか。出ないなら、どの時間に食べるのが良いかを調整する。昨日は和食を食べたので、今日はこれを買っておく……といった具合です。考えることはたくさんあるんですよ。先生の生活パターンを理解してくると、次何を食べたいのかが予想できるようになる。私自身が、食べることが大好きなのも良かったのかもしれないですね。

 それから会食の時も、アレルギーのあるなしはもちろん。一番大事なのは費用負担の確認です。あいまいにしておいて会計でもめるのが嫌なので、「ごちそうになってもいいでしょうか」と事前に確認しておきます。こちら側が負担するときは、振り込みや請求書を送ってもらえるかを確認。議員が財布をださなくてもいいようにします。

 ごちそうになる時は手土産を持たせますね。こういう時に、秘書の横のつながりも大事になってくる。「先生の好み知ってる?」とか。人脈をもっているかどうかも優秀な秘書かどうかの基準になります。

ただのイエスマンは三流

 でも、究極の忖度は「ボスに恥をかかせないこと」だと思っています。ただのイエスマンは三流です。場合によっては進言する、ことも大事になってきます。

 どうしても、永田町にいると世間の常識からずれちゃうんですよね。忙しすぎて、子育てはもちろんスーパーにも行けないし。そこを埋めるのが秘書の仕事だと思っているんです。

 例えば経理でも、法の趣旨と世間の常識と照らし合わせ「この使用目的はいかがなものか」と思った時は、遠慮なく注意する。キャバクラなどの費用、キャミソール代など普通に考えれば政治活動には必要ない支出でしょってわかることでも、永田町に長くいると、そのへんもよくわからなくなってくるんですよね。そこを指摘しなきゃいけない。世間ズレした行為をして、たたかれている議員なんかを見ると「誰も教えてくれなかったのかな」「秘書とうまくいっていないのかな」と思ってしまいます。

 永田町でのキャリアが私より短い新人議員であっても「秘書の忠告がうざい」と1、2年でクビになることもあるので、言い方には気をつけてますね。「その方がいい……かも?」のように断定はしないとか、「私の意見」というと角が立つので「国対からの指示です」「党本部に言われました」など、上からの指示ですよという言い方をするようにしています。

 ボスがボスらしくいるためのお手伝いするのが私の仕事。会社員でいうと「アレオレ詐欺」っていうんですか? 部下の手柄をとりあげて「あれ、俺がやったんだ」みたいなのは、よくある話です。むしろ、それが仕事。「俺がやった」って言いたいんだったら出馬すればいいだけ。私にはその覚悟はありません(笑)。

  • ここまで細やかな忖度は難しいけど、上司への進言の仕方は役に立つかも……。でも、他人の気持ちを考えてばっかり考えてるって疲れない? 後編では忖度するときの気持ちの持ち方について聞きました。

【続きはこちら】後編:心をすり減らすに忖度する方法とは?

●神澤志万(かみざわ・しま)さん 
国会議員秘書歴20年超のアラフィフ。政策秘書になったのは「かっこいいと思ったから」。これまでに9人の議員の秘書を務める。「政策作りにかかわれることが楽しい」と話す一方、「議員になるための選挙、プライベートを犠牲にする日々の仕事は無理」ということで、現在の「国会議員秘書が一番楽しいし、向いている」という結論になったという。

国会女子の忖度日記

国会女子の忖度日記(徳間書店)
著者:神澤 志万

telling,の妹媒体?「かがみよかがみ」編集長。telling,に立ち上げからかかわる初期メン。2009年朝日新聞入社。「全ての人を満足させようと思ったら、一人も熱狂させられない」という感じで生きていこうと思っています。
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